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2019J1第22節 鹿島vs横浜M@カシマ


スタメンはこちら。
前節は清水を相手にホーム初黒星を喫したマリノス。今節は、敵地鹿島に乗り込んでの上位対決だ。優勝争いをする上で連敗は許されない。リーグ戦のアウェイ鹿島戦は6連敗中、さらに、ここ5年はゴールすら奪うことができていない、という鬼門中の鬼門で今年こそ凱歌をあげたい。

相当な意気込みで挑むこの試合は、前節と変わらないスタメンで臨む。東京Vから新加入の渡辺皓太は、早速ベンチ入り、一方のエリキは登録の関係でこの試合には間に合わず。


対するホームの鹿島も決して良いチーム状態とは言えない。直近2試合は後半ロスタイムの被弾で勝ち点を落とす試合が続いており、持ち前の「勝負強さ」が発揮できているとは言い難い。大岩監督は、前節・湘南戦からスタメンを3人変更。トップには伊藤翔を、レアンドロの代わりの右SHにセルジーニョを、右SBに柏から新加入の小泉慶を、そしてCBは町田に代えてブエノを起用。


【早すぎる失点】

開始20秒、いきなり試合が動く。

試合はマリノスのキックオフで始まり、最後尾までボールを戻してのスタート。いつも通り”勇猛果敢”にプレスをいなすべくパスを回そうとするが、自陣ゴール前でカットされ、セルジーニョの芸術的なコントロールショットで先制を許した。

このシーンを図解すると、以下のようになる。

鹿島のプレスは、DFラインと中盤のリスク管理をする三竿を除いた5枚でボールを奪いにきた。いつも通り”勇猛果敢”にボールをつなぐマリノス。ティーラトンがボールを受けた時点に目を向けると、鹿島のプレッシング部隊の背後の扇原、さらにはマルコスがフリーである。

三竿は、そのどちらにもアプローチに行ける中間ポジションにいるが、距離が遠く、おそらく扇原orマルコスのどちらがボールを受けたとしても時間とスペースが十分にあり、十中八九擬似カウンターが発動されるシーンであったことは間違いない。

結果的にティーラトンから扇原へのパスがカットされたところから先制を許したわけであるが、もしもうまくプレスを剥がすことが出来ていれば、メンタル的にも優位に立てていたかもしれない。不運なシーンであったと言える。

この試合の趨勢を決めるにあたり、この1点がもたらした影響はとてつもなく大きなものだった。
鹿島としては、ここ最近結果が出ていなかったこともあり、この上位対決に臨むにあたって相当なプレッシャーがあったことは想像に難くない。この夏場の厳しい気候にも関わらず、序盤から消耗の激しいハイプレスをかけ、いわばリスクを冒す試合の入り方をしてきた。
ただ、この先制点で肩の荷が下りたのだろう、余裕を持って試合を運ぶことができるようになった。現に直後からハイプレスはやめ、自陣にブロックを形成し、リスクを冒さない戦術にシフトしてきた。マリノスとしては、鹿島に余裕を持って戦わせる手伝いをしてしまった格好である。

以降、鹿島は自陣に4−4−2のブロックを形成してスペースを埋めにきた。

鹿島の守備ブロックは、基本的にゾーンで守る。各選手が担当するエリアを決め、そこからなるべく動かない。また、ブロック間のスペースでボールを受けようとするマリノスに対して、縦横に陣形を圧縮することによって、ボールを中に入れさせない。その結果、マルコスをはじめとする前線の選手は、ブロックの外に追い出されてしまい、前線に人数をかけて攻撃することが出来なかった。

一方、立ち上がりに2CBに激しいプレスをかけてきた2トップの役割は一転してステイ気味に。主に、マリノスのダブルボランチを背中で消すことによって、ボールの配給元を断ちにきた。

こうした守備ブロックに対して前進が停滞し始めたマリノスだったが、何も出来なかったか、というとそうではない。特に、ボールサイドにスライドする縦横圧縮ブロックと背中でボランチへのパスコースを消す2トップに対する打開策はいくつか実現することが出来ていた。次項にて解説したい。


【やればできるじゃん!サイドチェンジ】


清水戦の課題として、ボールサイドに極端にスライドし縦横に圧縮してくる相手に対し、空いている逆サイドのスペースを効果的に使えなかったことが挙げられた。(※詳しくは記事参照)

この清水戦に限らず、今季ここまでの試合においてサイドチェンジによって局面を変える意識はかなり低かった。その代わりに見られた光景は、主に左サイドに多くの人数をかけ、同サイドでのショートパスによって半ば強引に局面を打開しようとする、というものだった。

これは、ボールサイドにスライドして人数をかけて守ってくる相手に対してはいささか分が悪い。なぜなら、多くの人数をかけているにも関わらず、数的優位を作ることができず、ボールの前進、崩しが停滞してしまうからだ。

チーム全体がスライドしてボールサイドに人数をかけて守ってくる、ということは、裏を返せば、逆サイドには広大なスペースが生まれることになる。これをうまく使えば、どんなに守備の堅いチームが相手であっても、PA内に進入することができる。


話を鹿島戦に戻そう。清水戦の反省を活かしてだろうか、この試合では、扇原や畠中から積極的に逆サイドに展開する場面が明らかに多かったことがわかる。

これを可能にしたのは、仲川のポジショニングに他ならない。

今季これまでの試合では、チームが敵陣でボールを保持する際、幅を取るのではなく、早い段階で中に入ってプレーすることがとても多かった。しかし、この試合では、幅を取り、扇原からの対角線フィードのレシーバーとしてのポジションを取っていた。

象徴的なのは前半20分のシーン。


※前半20分

このシーンでは、扇原が列の移動によって2CB間に落ちる動きをする。鹿島はゾーンで守るため、扇原の動きにボランチがついていくようなことはしない。よって、最終ラインで3vs2の数的優位の状況になり、プレッシャーがかからない状態でボールを持つことができる。

その状況で、扇原からの対角線フィードを受けた仲川には、十分な時間とスペースが与えられ、そこからチャンスをつくった場面だ。今季ここまでの試合ではなかなか見られなかった攻撃の形であった。

ちなみに、同点弾もこの形から生まれている。

相手の守り方によって、崩しのアプローチを変えることは重要である。ボールサイドに人数をかけて守ってこない相手であれば、同サイドに人を集めることでサイドを突破できる。一方で、先日の清水や、今節の鹿島、さらにはFC東京のように、スライドしてボールサイドに寄った守り方をしてくるチームであれば、相手を片方のサイドに寄せてから手薄な逆サイドに展開してそこから攻める、というのはとても有効な手段である。

また、特筆すべきは、この試合の扇原は、いくつかあったサイドチェンジのパスを一度もカットされることがなく、さらにはタッチラインを割ることもなく、全て仲川の足元にピタリと届けていた点だ。フィードに絶対の自信を持つ選手を擁しているのだから、今後もこれを活かさない手はない。


【急造5バックは何が悪かったのか】

仲川のゴールで同点に追いついたマリノスは、攻勢に出る。三好のスルーパスからマルコスがキーパーと1vs1となるチャンスを作るなど、逆転の機運が高まる展開であった。

しかし、77分、扇原が三竿を倒してしまい、2枚目のイエローカードを受けて退場に。この大一番で10人での戦いを強いられる。

これをチャンスと見た鹿島は、直後に名古屋から期限付き移籍してきたばかりの相馬勇紀を投入し、サイドをドリブルによって突破しようと試みてきた。投入後最初のプレーで仲川のファールを誘うなど、キレ味の鋭いドリブルを遺憾無く発揮し、鹿島がマリノスを押し込む展開になる。

この状況を見て、ポステコグルーは82分にマルコスに替えて伊藤槙人を投入し、自陣に5-4のブロックを敷くことを選択。マリノスの守備の代名詞たるハイプレスを捨て、アウェイの地で勝ち点1を拾うことを狙ったようだった。

この5-4ブロックというアプローチそのものは非常に理に適ったものだったというのが個人的な見解だ。押し込まれた際には自陣ゴール前のスペースを埋める。一方で、一度ボールを持った時には全員がしっかりと押し上げることによって、前への推進力は失わない。基本的な考え方は神戸戦でチアゴが退場した後にやったこととさして変わりはない。あの時はチーム全体の共通理解の元に守りきることができた。

守りきれた神戸戦と守りきれなかった鹿島戦。両者の差異は、交代によってCBの数を変えたかどうかにある。神戸戦では、CBは畠中と伊藤槙人のまま、ウイングを最終ラインまで戻らせることによって一時的な5バックを形成した。一方、鹿島戦では、チアゴ、畠中がいる中に伊藤槙人を投入し、正真正銘の5バックを形成している。

どちらも5バックには変わりないのだが、ピッチ上の選手たちはいささか混乱をきたしていたようだ。失点シーンを見てみると、チアゴと広瀬との間で明らかにマークの受け渡しがうまくいっていないことがわかる。

一瞬の隙ではあったが、鹿島アントラーズというチームがつけ込むには十分すぎた。

今季は、今までにないくらいに退場者がよく出るシーズンのようだ。清水戦、神戸戦、そして鹿島戦。ここ3ヶ月の間に3度である。そもそもカードに対するマネジメントをする必要があるのは大前提としてあるが、その後の戦略・戦術を明確に定める必要がある。1人少なくなった際に、CBを追加して3バックを採用するのであれば、本番で混乱を来さないよう、前もって約束事を整備しておかなければならない。そうした細部の突き詰めが甘いことでゲームを落とすのは本当に勿体無い。

特に、相手が強豪ならば尚更である。



【考察】

斯くして、6月の東京戦に続いてアウェイでの上位対決に敗れる形になってしまった。

しかし、この試合は決して悲観すべき内容ではなかったように思えるのは私だけだろうか。私の記憶が確かであれば、昨季までのアウェイ鹿島戦は、得点はおろかチャンスすらまともに作れないほどに両者の間には圧倒的な差が感じられた。この試合も、鹿島の守備ブロックを前にライン間にボールを差し込むことが出来なかったのは確かである。しかしそれだけで引き下がらず、相手の特徴を利用したサイドチェンジによって何度もチャンスを作ることが出来たのは、胸を張れることではないだろうか。むしろ、あれほど縦に圧縮され、スペースを埋められた状態のブロックに対し、ライン間への縦パスにトライすることほど無謀なことはないだろう。

負けはしたが、チームとしての新たな攻め方が芽生えた試合だと言える。

5/18の神戸戦以来、4-4-2で臨んでくるチームに対して勝てていない。これは紛れも無い事実だ。しかし、いまのマリノスは試行錯誤を繰り返し、相手の対策を上回ろうとしている。結果的に連敗をしてしまっているが、何も得られないまま負けているわけではない。負けながらも成長しているのだ。

次なる相手・セレッソ大阪も同じような4-4-2をベースとした戦い方をしてくるチーム。個人的な印象では、前半戦で最も”してやられた”相手であり、厳しい戦いが予想されるが、乗り越えたい。



8/10(土)18:30 J1第22節 鹿島2-1横浜

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