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【使徒の奮闘記】横浜F・マリノス2021シーズンレビュー

記録的な好成績を残したシーズンだった。

クラブ史上最多勝ち点78、
クラブ史上最多得点82(今季リーグ1位)、
失点数35(今季リーグ3位)。

ここだけ切り取れば、文句なしの大成功と言える。

しかし、我々はタイトルレースに負けた。

終始同じ神奈川県に本拠地を構える川崎フロンターレの後塵を拝したまま、シーズンはあっという間に終わりを迎えた。

このモヤモヤ感の正体は、そこにあると言っても過言ではない。

しかし、そのモヤモヤ感をもっと突き詰めたとき、あるのは本当にマリノスの失敗なのだろうか?

我々は何をもって今シーズンを評価すべきか。

この点が非常に重要になる。

本稿を読んでいただける方が、そうした視点で今季をじっくりと振り返る契機となることを願い、このシーズンレビューの筆を執る。


【3つの政権、3つのテーマ】

今季は、シーズン中に2度の監督交代、つまり、3名の指揮官のもとで戦い抜いたシーズンだった。異例中の異例である。そもそも、成績不振以外の理由で監督が変わることも珍しい。

4年目を迎えたアンジェポステコグルーが6月に退任し、セルティックの監督に就任、代わって松永英機が暫定で指揮をとり、8月にはケヴィンマスカットを招聘した

それぞれの時期におけるテーマと共に、今季の戦いぶりを振り返っていく。


〜①アンジェ期:教祖の転回〜

開幕前、タイムラインに激震が走った。一般非公開で行われたキャンプ。わずかに漏れ聞こえてくる情報ではあるが、相当なインパクトを与える内容だった。

「どうやら3バックをやっているらしいぞ」
「しかもウイングバックを置いていないらしいぞ」
「無鉄砲なハイプレスだけでなく、セット守備にも取り組んでいるらしいぞ」

4年目となるアンジェ政権だが、マンネリ化を許さない刺激的なキャンプを行なっていたらしい。ある種の不安もあったが、同時にまた新しいアタッキングフットボールを見られることへの期待感がそこにはあった。

迎えた開幕戦、相手は昨季王者の川崎。

早速キャンプで取り組んできた3-3-1-3の新布陣で王者に挑んだ。結果はあえなく完封負け。新布陣を導入して日が浅かったこともあるだろうが、辿々しいビルドアップは川崎の前にあえなく破壊された。

しかしこの試合では、それまでの3年間とは明らかな違いが見て取れた。
GKオビからのロングボールを多用していた点である。

これは、明らかな川崎対策だった。前に人数をかけてプレッシングを行う川崎の裏を突こうという狙いがそこにはあった。
過去3年間、これほど相手を研究し、目の前の相手に勝つために自分たちのやり方を捻じ曲げたマリノスは見たことがない。

その後の数試合を見ても、そうした傾向は見て取れた。新監督就任間もない浦和に対しては、猛烈なプレスで未熟なビルドアップを破壊し3発快勝。
続く徳島戦では、徳島のキーマンであるボランチを露骨にケアしたプレスを行うなど、相手に合わせたやり方というのが今季のマリノスのテーマであることは明らかだった。

そうして目の前の試合に対して最適なやり方を選択しつつ、着実に勝ち星を拾っていく。

迎えた6月、アンジェは去った。
このクラブに確固たる哲学と伸びしろを残して。


〜②ジョン&ヒデキ期:教義の再定義〜

ジョン・ハッチンソン。今シーズン最大の功労者と言っても過言ではない

アンジェが去った後、ほどなくしてアカデミーダイレクターを務める松永英機氏が暫定監督に就任し、今季よりヘッドコーチを務めるジョンハッチンソンとの二頭体制、いわゆるヒデキ&ジョン期がスタートする。

ここから、アンジェのアタッキングフットボールを理解し、体現してきた使徒による教義の再定義が始まった。

この間、マリノスは無類の強さを発揮する。リーグ戦では4連勝と勢いに乗り、首位川崎に肉薄。この好成績には、理由がある。

ヒデキ&ジョン期の特徴は、役割の明確化にあった。アンジェが作り上げてきたベースと理想形、それが最もピッチ上でうまく噛み合うように、また、体現されやすいように選手起用と人員配置を行なった。

とにかく短期的な結果が求められる暫定体制ならではの手法である。

アンジェはこれまで、中長期的な選手の成長を考慮し、時にはあえて噛み合わない組み合わせを試す起用を行なってきた。正解を口に出さず、選手にピッチ上で考えさせるようなアプローチである。そうしたアプローチは、中長期的な選手の自律、成長を促し、ゆくゆくはマリノスの強さに繋がるのだが、暫定体制にそれは求められるものではない。

あくまでも新監督招聘までの繋ぎ、せいぜい1ヶ月ほどをなんとか勝ちながら乗り切ること、それこそが暫定体制に求められる。特に今季は優勝争いをしている状況で、目の前の1試合の重みは他のシーズンとはまるで違う。だからこそ、ジョン&ヒデキ期では、アンジェがやってこなかったアプローチができたし、それをやる必要性があったのだ。

(これは余談だが、あのままジョン&ヒデキ体制で戦っていても、どこかで対策されて手詰まりになっていたと私は想定している。)

ジョン&ヒデキ期の詳細は、下記のマンスリーレビューをご参照いただきたい。


〜③ケヴィン期:再定義からの進化〜

ケヴィン・マスカット

8月、怒涛の過密日程を明日に控えたタイミングで彼はやってきた。ケヴィンマスカットの招聘である。

就任当初は、ジョンハッチンソンら既存のコーチ陣と連携しながらアンジェのアタッキングフットボールの再定義を続けていた。

ただし、ケヴィンらしい色は随所に見られた。その最たる例が、ボール保持時の方針にある。
ケヴィンは、相手を押し込み、無限に即時奪回を繰り返すことで、失点のリスクを避け、攻撃の試行回数を増やすことを主眼に置いたフットボールを好む。

これは、アンジェの教義からは決して逸脱していない。特に、方法は問わずゲームをコントロールし、攻撃の試行回数を増やすという、アンジェの哲学の根幹に照らせば、非常に合理的な手法といえる。

そんなケヴィンは、就任後安定して勝ち点を積み、8月下旬にはついに首位川崎と勝ち点1差まで迫る勢いを見せた。しかし、秋口に差し掛かると次第に雲行きが怪しくなる。

詳細は後述するが、優勝争いのなかで思うように勝ち点を拾えなくなったケヴィン・マリノスは、アンジェの教義の再定義だけでは足りない状況に追い込まれた。

そこにはどんな理由があったのか、考えてみたい。

  • 史上稀に見るハイレベルな優勝争い

  • 畠中の負傷により岩田をボランチで起用できなくなったこと

前者は、通常のシーズンであれば十分なほどの勝ち点の積み方では脱落してしまうほどのハイレベルな優勝争いだったことにより、相手の対策を上回る仕組み、転じてより勝てるチームの構築が求められたことによる。

一方、後者だが、畠中の長期離脱により、夏場の絶好調期を支えた岩田智輝のボランチ起用ができなくなり、彼の攻撃性、そのポテンシャルを活かせなくなってしまった。その分、岩田に頼らない戦術・戦略が必要になった。

その状況下で、時には水沼宏太をトップ下で起用してみたり、両ウイングを中央3レーンに寄せて攻撃してみたりと、手を替え品を替え様々なやり方でマリノスのフットボールを進化させようとしてきた。

結果的に今季は優勝という結果には結びつかなかった。しかし、来季には今季の試行錯誤が芽吹くはずだ。


【秋の失速を生んだ課題】

夏場にリーグを席巻する強さを見せたマリノスだったが、8月最後の鹿島戦に負けて以降、徐々に勝ち点を思うように拾えなくなっていった。

これにはいくつか理由があるのだが、その最たる例が、ケヴィンが志向する相手を押し込むサッカーができなくなったことである。

なぜできなくなったか。それは、対戦相手がマリノスの特徴を逆手にとってマリノス対策をしてきたからである。特に、後方に人数を担保しつつ前後分断を許容してプレッシングをかけてくる相手には大いに苦戦を強いられた。

これについて詳述する。

そもそもマリノスの特徴は、ボールを持って前を向くと、ほぼ必ず縦へ急いで攻撃を仕掛けることだ。

もちろん展開や状況によってはこれが有効な場合もあるのだが、単調になりやすいのもまた事実である。というのも、縦へ急ぎすぎるがあまり人数をかけることができず、全体を押し上げることができない、つまり、相手を押し込むことができないという弱点があった。

これは昨季以前からある課題だが、3トップとトップ下のマルコスの鎖が切れると、途端に攻撃の迫力が失われる傾向がマリノスにはある。
いわゆる「ライン間の空洞化」である。

ちなみに、岩田がボランチを務める際は、こうした攻撃の厚みを彼の攻撃性、思い切りのよい飛び出し、運動量で賄ってくれている部分が多分にあった。だからこそ、岩田をボランチで起用できなくなったマリノスは、彼の代役を立てて同じやり方を遂行するわけにもいかず、新たなやり方を構築する必要に迫られたのだ。

11月以降、同じように前後分断プレスをやってくる対戦相手がいなかったことから、この課題に対する進捗は来季以降に持ち越しとなったが、ケヴィンが志向するフットボールにより近づけるためには、向き合うべき課題だと言える。

1年前のACLでは、同じことをやってくる相手が多かったし。


【ロッドアウォーズ】

今季も笑いあり涙ありのシーズンだった。
そんな激動のシーズンのなかで、私ロッドが選ぶMVPベストゲームベストゴールを今回も紹介していこう。

一応、毎年恒例企画である。
(3年目だしそう言ってもいいよね?笑)

それではロッドアウォーズ、はっじまーるよー!

MVP

岩田智輝

ボランチ、サイドバックで出場時には、攻撃性(特に、思いきりの良いプレー選択)と無尽蔵の運動量、長短のパス精度を武器に、欠かせない選手として活躍。
畠中離脱後のスクランブルではセンターバックもそつなくこなし、優勝争いをするチームの最終ラインを支えた。170cm台だが、対峙する相手FWとの競り合いに後手を踏んでいた印象はない。
持ち前の運動神経の良さを発揮し、大車輪の活躍をしたシーズン、来季は得点にも期待したいところだ。


ベストゲーム

第19節 vs鳥栖(@三ツ沢) ◯2-0

まさに120%のパフォーマンスが出せた試合。この時点で5位の好位置につけ、失点はわずか3と鉄壁を誇る鳥栖を立ち上がりから圧倒。強さを誇示した試合だった。
アンジェ退任後の難しいタイミングであったことも含めて、エモーショナルなフリが存分に利いていた。

シンプルに強かった。


ベストゴール

第10節 vs札幌(@札幌ドーム)のオナイウ阿道の1点目

ベストゴールには、第10節札幌戦のオナイウ阿道のゴールを選出。オナイウの巧みなワンタッチシュートも見事だが、このシーンはやはり天野純である。
鋭い切り返しで相手DFを振り切り、そこから高速のアウトサイドクロス。

このシーンは、まさに現地でゴール裏から見ていて、天野が切り返した瞬間のドーム全体のどよめきが忘れられない。

現地でこんなに素晴らしいシーンを生で見れたことが良かった。


【まとめ・考察】

激動の2021シーズンを振り返ってきた。

1シーズン通じて、試行錯誤を繰り返しながら毎試合を勝っていく様は、常勝軍団のそれに近いものがあり、また、ある種の安心感すら感じさせるパフォーマンスだった。

ただし、やはりボール保持時の振る舞いには大いに伸びしろを残していることもまた事実。

先述した前後分断プレスに対する戦い方もそうだが、一方でブロック守備に対する攻め方は、特に11月以降の試合において顕著に試されることとなった。

そもそもボールを持たせてくる相手が取りうる選択肢は2つ。奪いに行くか、構えるかのどちらかだ。

現状でマリノスは、そのどちらに対しても課題を抱えていることになる。

個人的な見解では、奪いにくる相手に対しては現状のマリノスが持てている引き出しで対応可能であるが、ブロックを敷いて構えてくる相手に対する戦い方は、少なくとも今季終了時点ではこのチームの引き出しにないと見ている。

こうした現実をどこまで許容できるかはサポーター各々の性格や試合の見方による部分があるが、私は、ある種しょうがないと言えばしょうがないと考える。

ただし、11月以降の試合(特に浦和戦)を見ていると、ケヴィンがそこに対して明確な答えを出そうと取り組んでいるように感じられる。

ともかく、我々は信じて見ていよう。

明確な答えが出るのはいつになるかはわからないが、信じて見ていよう。


【さいごに】

というわけで、2021シーズンのマリノスにまつわる記事はこれが最後になります。

今季は、それまでの毎試合のマッチレビューから趣向を変えて、月イチのマンスリーレビューという形式で書いてまいりました。
ご愛顧いただきありがとうございました。

「点」ではなく「線」の視点で振り返ることができて、非常に有意義なアウトプットになったと感じています。特に、1試合単位では見えなかったものが、数試合単位で振り返ると見えてくるものがあり、多くの気づきを得ることができました。

来季はACL等過密日程になるため、何か継続的なアウトプットをやりたいと志す方には、マンスリーレビューはおすすめです。日程の影響を大きくは受けず、自分のペースで書くことができますので。

ちなみに、来季はまた別のこと、、というか、プレビューをやります。
毎試合に向けた見どころを、深く分かりやすくお伝えするものを継続的に作れるように精進します。

試合観戦のお供になるようなコンテンツを作っていけたらと考えておりますので、引き続きよろしくお願いします。


最後になりますが、この1年間、活字ばかりの殺風景なマンスリーレビューに最高の彩りを与える写真を提供してくださったゆかさん、本当にありがとうございました。

文章で伝えたい内容にマッチするような写真ばかりで、本当に助かりました。

ゆかさんのTwitterリンクはコチラ!
https://twitter.com/yk_m23


では、また会う日まで。


Fin.

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