青い扉05

 そのままマサヨちゃんが帰ってくることはなかった。いや、僕も竹田くんもずっと竹田くんの家から監視していた訳じゃないので、本当はわからないが、2日後、学校で先生から発表があった。
「阪田昌代さんはずっと病気と闘っていましたが、今朝、亡くなり、お空へ旅立ちました。」

 クラスのみんなでマサヨちゃんを見送ることになった。マンモス団地には一定のまとまった区画毎に広いターミナルというかロータリーみたいな空間や、盆踊りが出来るような広場があった。広場の近くには高いコンクリート製の給水塔がそびえ立っていた。僕らは広場に並んでマサヨちゃんが横たわっている棺桶が黒い霊柩車に運び込まれるのを見送った。棺の蓋には小さな扉が付いていて、マサヨちゃんのお母さんがその扉を開けてくれたので、僕たちはその窓からマサヨちゃんのつるんとした顔を覗き見た。クリンとした目は閉じられていたが、優しい顔のままだった。
「病気と闘ってたのに、きれいな顔してるな。」
平井がそう呟いた。
「もう闘わなくてよくなったから、ほっとしてるんよ。みんなありがとうね。」
「闘ってるときも、ずっときれいやったよ。」と、僕は思ったが、声に出すことはしなかった。霊柩車はクラクションを長く鳴らして行ってしまった。あの車こそもう戻ってはこないんだな、と思った。

 マサヨちゃんはかくれんぼが苦手で誰でも見つけられるようなところに隠れていた。
「マサヨちゃん、みーつけたっ!」って真っ先に呼ばれていた。給水塔の管理用扉の窪みにもよく隠れていた。僕は見送りが終わり、竹田くんと平井とかなりゆっくり、トボトボと言ってもいいくらいの速度で歩きながら、青いあじさいに囲まれた給水塔の管理用の褪せた青い扉を見た。扉が少しだけ開いていた。僕はそこに立つマサヨちゃんの青いバンダナを見たような気がした。ふと視線を戻すと竹田くんと目が合ったが、僕らは言葉を交わすことなく、竹田くんの棟の下まで歩き、そのままそれぞれの家に帰った。

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