見出し画像

Soft Machine #1

Soft Machine - Jet Propelled Photographs (1967)

画像1

 1960年代中頃のスウィンギング・ロンドンのど真ん中を占めていたUFOクラブでは日夜アーティスティックなショウが開催されており、時代の最先端をそこから発信していたとまで言われるが、そこでのヒーローはピンク・フロイドでもあり、もうひとつにはソフト・マシーンが挙げられたようだ。ただ、そう言われてもソフト・マシーンにあそこまで派手で綺羅びやかなライトショウやサイケデリック感があったようにも思えないので、純粋に実験音楽的側面を捉えるとそういう言い方になるのかもしれないし、自分の勘違いでの記憶かもしれない。それでも実際ピンク・フロイドの連中とソフト・マシーン間には交流があったのも事実だし、シド・バレットのソロ作のバックをソフト・マシーンが務めている事からしても感性的側面や気心知れた仲間的な面でもあったのだろう。今となっては両者の知名度の違いはあまりにも大きくなりすぎているが、当時からしばらく、70年代前半頃に至るまではソフト・マシーンの音楽の発展性はピンク・フロイドの比ではないくらいに進んで行き、そのおかげでバンドの本質がどこにあるかすら分からなくなったが、ピンク・フロイドがメンバー固定で音楽が変わっていったあたりと比べると、台所事情の違いが大きい面も否めない。それでもソフト・マシーンの音楽性の高さや革新性はちょっとロックの世界に入り、プログレッシブの世界を覗いた輩には圧倒的に支持されているだろうし、カンタベリーの雄との側面も持っているからひとつのジャンルの大黒柱バンドでもある。そのソフト・マシーンは1968年に「Soft Machine」でアルバムデビューしているが、この時点ではケヴィン・エアーズ、ロバート・ワイアット、マイク・ラトリッジの3人編成に裏方的にヒュー・ホッパーが参加している程度だ。しかし元々ソフト・マシーンは上記3名に加え、デヴィッド・アレンがギタリストで参加していたが英国に再入国出来なかったため、バンドを離れてフランスでゴングを組んだことが知られている。

 1988年頃に突然「Jet Propelled Photographs 」なるタイトルがリリースされ、目に見えるジャケットには4名が立ち並んでいた。どう見ても初期ソフト・マシーンの面々っぽく見えるし、右からラトリッジ、ケヴィン、左端はロバートだから左から2番目は誰だと思ったらデヴィッド・アレン。即ちファーストアルバム発表前のオリジナルソフト・マシーンの面々がジャケットを飾っているから音も当然その時期のハズだとばかりにクレジットを見ると1967年4月の録音ソースとある。元々1967年2月にシングル「Love Makes Sweet Music」/「Feelin' Reelin' Squeelin'」でその年の2月にデビューしており、その2曲だけがオフィシャルでデヴィッド・アレンを含んだソフト・マシーンの作品だったので、本作「Jet Propelled Photographs 」で登場した楽曲は全てデヴィッド・アレン参加時のソフト・マシーン音源となる。何とも貴重で珍しい記録がここまでのクォリティで残されていたものだと思うが、きちんとレコーディングされており、あとは発売を待つだけの状態の時にアレンが再入国不可となったからのお蔵入りだったか、楽曲レベルがメジャーリリースに向かなかったかはよく分からない。ともあれ、こうして聴けるだけで今は後々に及ぼす影響やリメイクされての楽曲による原曲漁りとしても貴重で楽しめる。

 冒頭の「That's How Much I Need You Now」はロバート・ワイアット作品で、後の「June in Moon」と同じメロディを中心に構成された曲なので、恐らくはこの頃のアイディアでそのまま名曲「June In Moon」に流用されたのだろうが、確かにハッとするメロディが秀逸でお蔵入りにしておくにはあまりにも勿体無い出来映えの作品。続いての「Save Yourself」はファースト「Soft Machine」にそのまま収録されているので、ポップで攻撃的でキャッチーなロバート・ワイアットの若さ勢い出しまくり節がそのまま生かされている。「I Should've Known」もファーストに入っても当然おかしくない出来映えの疾走感溢れる曲だが、その疾走感の元凶になっているのがデヴィッド・アレンのギターだったからファースト・アルバムからは外れたのだろう。所々のキメやフレーズを聴いているとファーストの「Lullabye Letter」に似ている部分も多いからアレンジ的には原曲的なのかもしれないし、曲の長さと構成とアレンジからするとその辺りのメドレーにも似ているのでギターを抜いて発展させたのかもしれない。なかなかに妄想が膨らむ初期ソフト・マシーンらしいアグレッシブな楽曲。そしてアルバムタイトル曲となっている「Jet Propelled Photographs」はケヴィン・エアーズの「Shooting At The Moon」そのままなので、正にこの時点で出来上がっていた楽曲として知られている。ケヴィン・エアーズソロ作バージョンの方が当然洗練されているが、ほとんど変わらないで聴ける原曲感は頼もしい。さて、先の「I Should've Known」、次の「When I Don't Want You」、「Memories」はこの時点ではメンバーですらなかったヒュー・ホッパー作の楽曲で、その傾向はやたらと凝った展開や妙なコード展開に代表されながらもソフト・マシーンのひとつの武器、方向性となっている面が強い。極端に書けばこの辺のヒュー・ホッパー作品をロバート・ワイアットが歌い、マイク・ラトリッジのオルガンが加わるとあのソフト・マシーンの音が出来上がる、即ちサードあたりの音に近づく事になる。だからこの辺で聴けるサウンドはファーストのデモとしながらも実はサードのデモとも言える不思議な錯誤感。ところが「Memories」については相当驚く事に1982年になってホイットニー・ヒューストンが歌い上げており、その曲の持つ力に度肝を抜かれた。こんな所に埋もれていた曲をアメリカのあの大歌手が歌い上げるなど考えられる事でもないが、実際そういう取り上げられ方をしていたのだから恐れ入る。また1974年のロバート・ワイアットのライブアルバム「ドゥルーリィ・レイン劇場」でも披露されているので楽曲の良さはずっと持ち続けられていた魅惑の曲の一番古いバージョン。「You Don't Remember」は唯一アレンの名がクレジットされている曲だがワイアットとの共作でもあるので、概ねワイアット作だったろう。それでも初期ソフト・マシーンらしく疾走感溢れる曲にワイアットの悲壮感ある歌声が絡むナイスな楽曲。そしてエアーズ作の「She's Gone」も初期ソフト・マシーンの貴重な歴史として知られているソリッドな曲で、これもギターが無いと救いようがないので以降出て来なかった楽曲と思われるが、初期シングルの2枚と「Memories」と合わせて未だにCD化されない偉大なる未発表曲集ベストアルバム「Triple Echo」に収録されていた。最後の「I'd Rather Be With You」もエアーズ作ながら何故かファーストにも収録されずそのままお蔵入りとなった楽曲のようで、この手の曲ならいくらでも作れたからだろうか、そこまで突出した個性のある曲でもないが、やはりロバート・ワイアットの歌声が秀逸なので楽曲のクォリティ以上の良さを出してくれている。

 それにしても当時未発表ながらも後々になりこうして発掘されるアルバムでここまで感動でき、歴史も紐解け、更に新たなる発見が幾つも出来るなどなかなかそういう風に残されている作品も多くないので随分楽しめた。昔々ひたすらコレクションを集めていた時期に入手していたが、ここまでじっくりと聴き込めなかったのとソフト・マシーンの歴史をそこまで掌握しきれなかったのでイマイチ有り難みを理解していなかったが、時が経ち、色々な音源を聴き、またネットを含めて自分なりに色々と整理をしながら見て聴いているとそれもまた知識が増える部分もあり、だからこそ味わえる楽しみもなかなか良い。それにしても「Memories」の快挙には驚いた。

ここから先は

9,679字 / 8画像
この記事のみ ¥ 100

好きなロックをひたすら聴いて書いているだけながらも、聴くための出費も多くなりがちなコレクターの性は皆様もご承知の通り、少しでも応援していただければ大感謝です♪