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Roger Waters - The Dark Side Of The Moon Redux (2023)

 ロジャーよ、何をしているのだ、と思いながらも本作「The Dark Side Of The Moon Redux 」のリリース情報を耳にしていたし、先行シングルカットされた「Money」を聴いて更にそう思ったものだが、想像通りに楽曲も歌唱もメロディもすべてぶち壊した「狂気」をモチーフとした老人がその歌詞を強調して語り、時にメロディを呟きながらアルバムをなぞる、そんな作品が出てきた。

 聴いた感想は、正直言って「さすがロジャーだ」に尽きるので、とことんロジャー好きの自分には結局当たり前の印象に落ち着くから困ったものだ。ロックダウンセッションの頃からそんな風潮は見え隠れしていたし、もう随分前の作品から歌が呟きにしかならない作品ばかりになっているので、どれだけ昔に回帰してもそんなもんだろうと思ってもいた。自分では直接的に英語が歌詞として入ってこないので、あまり重きを置けないのが残念だが、それでも圧倒的な説得力があってアルバム全編で納得させられてしまうのだからさすがだ。

 歌メロをなぞる部分はデジャブ的にアルバムのイメージが思い浮かぶが、BGMに歌詞をつぶやくだけになると何の曲か完全に抜けていき、ロジャーの説教にもなってしまうのでやや困る。一方メロが入ると鳴ってないギターソロやリズムが頭の中で勝手に鳴るのも作品を聴く際の邪魔にもなるのだが、それ以上に説得力のある作品の質の高さ、楽曲が本来持っていた圧倒的な強さをバックに語るので実に不思議な気分にもなる。こういう作品は聴いた事もないし、その意味でさすがアーティストのロジャーならではの、意外なところで新たなる芸術を飛翔させた結果が味わえる。つまらないと思えば全然つまらない作品。ただ、もうここまで「狂気」が親しまれている中ならデジャブによるサブリミナル的な聞かせ方は不思議な印象を持たせてくれるアルバム。以前のアルバムと比較するものではないし、そこを問うものでもない。ただ、デジャブ効果で二枚のアルバムを重ねて頭の中で聞く、そこから生み出される自分自身の「狂気」が印象として残る、そんな不思議なアルバムとして捉えるようになれた。

 それにしてもやはり「狂気」の素晴らしさが突出していると再認識してしまう一枚でもある。


好きなロックをひたすら聴いて書いているだけながらも、聴くための出費も多くなりがちなコレクターの性は皆様もご承知の通り、少しでも応援していただければ大感謝です♪