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Paul Butterfield Blues Band

Paul Butterfield Blues Band - The Original Lost Elektra Sessions (1964)

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 ブルースの巨人たちを巨人にしたのは英国の小僧達だった。事実そうだろうと思うが、一方アメリカの一部の小僧達のピュアな想いもかなり驚く。時代は1964年、英国ではまだビートルズが、ストーンズが、フーが出てきたばかりの時代、キャーキャーと騒ぎ立てられていたアイドルマージービート全盛期、ストーンズはブルースのレコードを聴き漁り、ブルースのカバーを独自の解釈でアルバムに入れてその黒さを売りにしていたが、ぎごちない英国らしさを感じる。ところが同じ時期にアメリカのポール・バターフィールドの組んだバンドがレコーディングセッションを行っていた。ポール・バターフィールド・ブルース・バンドで世に出るにはあと数年かかるが、この時期からエレクトラレーベルのセッションを繰り広げていた。

 1964年にレコーディングされてお蔵入りとなっていた発掘音源のセッション集「Original Lost Elektra Sessions」。実際のデビューアルバム「Butterfield Blues Band」で収録された曲も含むレコーディングセッションで、そのままアルバムリリースされるハズだったけど、あまりにも完璧に黒人ブルースし過ぎていて面白味に欠けたために取り止めになったアルバム。バンドの方向性やポール・バターフィールド・ブルース・バンドの個性を感じる側面が少ないまま、それでもブルースをしっかりと演奏できるテクニックを持った集団。ブルースの本場、シカゴで生のブルースメン達を見ながら鍛えられた本場のブルース好き少年達の気合は違う。完璧に白人ブルースを作り上げている。エレクトリックギターを歪ませた音で持ち込み、ハープが鳴らされ、曲はアップビートなブルース。後にギターヒーロの座を確立するマイク・ブルームフィールドのギターはまだ全面に出てこなくてひとつのバンドの音の塊として出てくるセッション。もしこのアルバムがポール・バターフィールド・ブルース・バンドのファーストアルバムとしても何ら遜色ない個性が出ていた。

 曲の全てがアップテンポでタイトに引き締まった演奏ばかり。誰かの何かをフューチャーした曲がなくてライブハウスの箱バン的にひたすら熱狂した演奏を叩きつけてくる。もっとプレイヤーの個性が出せたのに、あまりにもオールドなブルースを自分たちのエネルギーで演奏したがためのアップビート、そして熱気。白人ブルースを確立している。そのプレイは英国マージービートバンドとはまるで異なり、流暢に本物に酷似したブルースサウンドだ。録音も音のしょぼさも一切なく、しっかりとした音で録音されているので今聴いても全然カッコ良い音。中味の音が白熱していてカッコ良いけど安っぽさがない。バターフィールドの歌とハープが中心になってて、彼の想いがこのバンドの要も明らか。そこにマイク・ブルームフィールドの音が絡んでくるが、まだバターフィールドに相当遠慮していたので割と地味。ギタープレイで後の片鱗を感じさせる曲はこのアルバムの中のオリジナルナンバー「Lovein’ Cup」で、コール&レスポンス的に歌とギターが掛け合っているけど、このギターが素晴らしいスタイル。ブルームフィールドのあのギター、エレクトリック・フラッグで聴けた流暢なプレイ。  

 そんな風に聴くと単調なブルースでも白熱したバンドの音に押されて一気に聴いてしまえる熱気。ボツにした理由は先の理由もあるだろうけど、もっと個性的に幅を広げる可能性が見えたからだろう。実際ファーストアルバム「Butterfield Blues Band」の出来映えは歴史に残る仕上がりで証明されているが、その前段階の「Original Lost Elektra Sessions」で聴けるバターフィールド・ブルース・バンドのルーツも楽しめる一枚。

 しかし今ではポール・バターフィールド・ブルース・バンドの5枚のオリジナルアルバムが一気に纏めて聴けるパッケージが3000円くらいで出てる。凄い時代だ。

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