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木にぶら下がり夢を見る 第一話

第一話「そんなこと最初から分かってる」

ぼく、なんで働けないんだろう。部屋から出られないんだろう。
今日も下で両親が激しく口喧嘩してる。きっとぼくのせいだ。
ぼくは今日も日がな一日天井を眺めてる。積読してしまった本に囲まれながら。

この部屋に隕石でも落ちて来ないかな。ぼくに当たって殺してくれないかな。そしたら世間は、ぼくがここにいたことを知ってくれる。
ああ、まためまいがする。少し考えたら、すぐにこうなる。読書したいのにこれだから、いつまでも読めないや。

クラスメイトだった連中、バリバリお仕事してるんだろうな。ぼくと違って、ごはんもちゃんと食べてるはずだ。

ぼくも働ければいいのに。
でも、今のぼくにとって外の世界は、にぎやかすぎるんだ。ガヤガヤどころの話じゃない。
外出すると、物音や話し声が最大音量でいっぺんに耳に飛び込んで来る。あまりに騒がしくて、自分が世界に飲み込まれてしまいそうで怖い。
だから、今日も大して食べもせずに部屋で引きこもる。

そう、そんなこと最初から分かってる。働けない理由も、部屋から出ない理由も。
ぼくはきっと病気なんだ。離れて暮らす姉さんが怠け病って言うけど、ぼくは働きたいんだよ。
姉さんは「さっさと気合い入れて動きなさい!」って時々ぼくを叱りに来る。
だけど、気合いってなに?ぼくに備わっているの、それ?
動けるなら、とっくにそうしてるよ。

はたらきたい。でも、高校中退の学歴でどうやって?とも思う。
学びたいのはやまやまだけど、考えごとができない身体になっちゃったんだ、無理だよ。少なくとも今は。
ああ、もう嫌だ。叫びたい。むしろ、死にたい。
そう思って、布団の中から親に内緒でこしらえた、ビニールひもでできた輪っかを取り出す。
首を吊ろうと思えばすぐできる。5分か10分か逡巡して、結局、やめる。
ぼくには死ぬ度胸さえも無いんだ。
病気で良かったんだか悪かったんだか。

そんな日々を、たぶん4年かそこら続けている。
たぶんってのは、部屋にカレンダーを置いてなくて、もう日付すら分かんなくなっちゃったから。
季節が4回ほど、グルグルと巡ったのは知っているから、たぶん4年。

生まれたからには生きなきゃ。そんなこと最初から分かってる。
だけど、怠け者になってしまったぼくには、寝転がって夢を見ることくらいしかできやしない。
動物の方のナマケモノでも、自分の食べものは自分で手に入れるし、夢を見る時も木にぶら下がることができる。
ぼくはそれすらできていない。

眠くなってきたなあ。寝てしまおう。起きたらきっと夕飯が部屋の扉の前に置いてある。

これからも見るんだろうなあ、子どもの頃の、嫌な思い出の夢を。涙が出てきた。おやすみ。

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