猫パート

君がやってくると空気が変わった
途端に静かになって
休止パートのように会話が止んだ
つかの間の静寂
君の存在感が穏やかに消えて
賑やかな声が戻ってきた

君は口を開かない
理由も糸口もどこにも見当たらない
透明な存在を保ちながら
こっそりと折句の扉を開く
その場に飛び交う言葉たち
どんなリアルな言葉にも屈しない
君は君だけの宝物に触れることができる

折句の扉の向こうから
言葉たちはやってきて
君の横を素通りしていく
ほんの少しだけ触れて
そのまま戻っていくものもいる

裏切っているのは言葉たちか
内に潜む弱いものだろうか

彼らは君の存在を消せたのに
君は彼らを消し切ることができない

猫がやってきた

休止パートは訪れない
彼らは猫に触れる
かわいいと言って持ち上げる
場は猫を中心に置いて盛り上がっていく

(かわいそうにね)

猫はじっとして君をみつめている

これは「猫パート」なのだ

愛情は
言語ではない
ともにいた
宇宙で密に
触れ合ったこと

折句「揚げ豆腐」短歌


#小説 #空気 #短歌 #折句 #密

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