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【小小説】ナノノベル

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2022年8月の記事一覧

マイ・ロード(迷い道)

マイ・ロード(迷い道)

 親切な道があるものだ。

「この先 花屋あり」

 少し歩くと店先で小太りの女がエプロン姿で働いているのが見えた。花屋さんだ。人生で花屋に立ち寄った記憶は、ほんの数えるほどだった。いつも傍に花のある生活とはどんなものだろうか。生まれ変わったら、そんな生活もわるくないなと思う。

「この先 懐かしい人登場」

 花屋を通り過ぎて歩いていると思わせぶりな予告に身構えた。そんな作ったような偶然があるも

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猫のバンジー

猫のバンジー

「うまく飛べなくてもいいじゃない」
 バンジーはまだ飛ばなかった。
 遙か地上を見下ろしながら、人間の声に耳を傾けていた。

「大丈夫。君ならできるよ」
 それは本当だろうか。
 あの男は自分の何を理解しているというのだろう。
 ここに来てからどれほどの時間が経っただろう。
「自分を信じるんだ!
苦しんだ時間を信じるんだ!
何も育んでこなかったと思うのかい?」

「さあ! やってごらん!
ここまで

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ハード・ワーク時代

ハード・ワーク時代

「どつかれさまです」
 一昔前は(おつかれさま)だったが、今ではそんな生やさしいものではなくなった。そこで極度の疲れを労う気持ちから進化形として「どつかれさま」が広く使われるようになった。新しい言葉は次々と生み出されていくものの、世間は相変わらず人手不足が続き、一人一人が酷く疲れている。それが一人三職の時代と言えた。

「はい。しばらくボール遊びをしていてね」
 元気の有り余った園児に遊び道具を与

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