損得抜きに全力投球する

「人間は行為そのものを目的とした行動を起こす」

アメとムチは言わば外発的動機による行動を促す。活躍したら給料が増える、ダメなら下がる。それもモチベーションの一つだ。
しかし、アメとムチによる指導はデメリットもある。

それは何か?

アメとムチが無ければ頑張れなくなる選手になってしまう可能性があるってことだ。

私は25年ほど学生スポーツに関わっている事もあるが、アメとムチがなくても、目の前のことに全力で取り組める、そんな選手になって欲しいと思っている。

何の見返りもない、別に、その1本のダッシュを全力で走ったって、誰からも褒められもしないし、本数が減るご褒美があるわけでもない、でも、その1本を当たり前のように全力で走れる、そんな選手になってほしいと。
そんな選手は、大学生になると私の経験則で申し訳ないが、チームに1割もいない。
もちろん、それはチームによっても違うと思うが。だが、そんな選手はむちゃくちゃタフなやつになる。ここぞというところで踏ん張れる。格上が相手だろうが、格下が相手だろうが、練習だろうが、試合だろうが常に安定したパフォーマンスを出せる。
心の底から信頼できる選手になるのだ。

行為そのものを楽しむ。

おそらく、我々は子どもの頃は、皆んなそうだった。

体育やスポーツだけでなく、遊びの中でも、全力疾走しまくっていた。

まあ思春期の頃なら、アイツ真面目にやってバカじゃねえのっていう周りの目を気にして全力疾走できなくなる事もある。
いや、思春期ではなく大学生でも、それが理由で全力でやらない選手はいる。というか、それが理由で気づけば理由が無ければ全力疾走できなくなってしまった選手は多いかもしれない。

脳神経外科医の林成之さんが、
脳に良い7つの習慣を教えてくれている。

①コーチ・選手を好きになる 
②話は感動して聞く 
③くり返し考える習慣 
④素直な性格をみがく
⑤何事も興味をもつ 
⑥自分がやってみる 
⑦損得抜きに全力投球する

まさに、⑦の損得抜きに全力投球する。
こんな選手がたくさんいるチームを想像して欲しい。むちゃくちゃ楽しいに決まっている。そりゃ、クールなやつから見たら、ウザいって言われるのかもしれない。

でも、強くなるとか勝つとか、それ以上に、目の前のことに全力で取り組めたなら、人生はもっと面白い。少なくとも私はそう思う。

おそらく学生スポーツで、選手たちがそうなるには、「全力でやる」選手が馬鹿にされない、ウザいって言われない、そうした環境である必要がある。
言い方を変えれば、心理的安全性を確保する必要がある。

55歳の私もかつては選手だった。
おそらく親のおかげなのだが、私はこの全力投球することができるタイプだった。
でも、選手の頃は、全力投球できない選手の気持ちがわからなかった。
というか、40くらいまではコーチになっても、それができない選手の気持ちがわからなかった。
「100%でやれないなら出てろよ!」
「やる気がないなら帰れや!」
何度、デカい声で言ったかわからない。

しかし、当たり前のことだが、皆んながみんな全力投球できるタイプではないのだ。
どうしたら損得抜きに全力投球できる選手を増やすことができるのか。下手すると35年以上、ずっとそんな事を考えているかもしれない。

これさえやったらいいなんて答えは相変わらず持ててもいない。
損得抜きで全力投球できる選手になって欲しいと言うのは、そもそも私の勝手な思いである。価値観は人それぞれ違っていい。
が、学生スポーツに関わる限り、私は損得抜きに全力疾走できる選手、チームになるための模索を続けたいと思う。

たとえ、ウザいって言われたとしても。

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