自分の限界にフタをするな


5月25日と26日に京都に泊まりで行った。
目的は呼吸トレーナーCという資格を取るための合宿のためだった。

こちらが、合宿をした場所だ。

2年前に代表の大貫さんの呼吸のオンラインセッションを受講して以来、自分のトレーニング前や日常生活の中で、かなり呼吸を意識してやるようになった。

なぜか?

大貫さん曰く、人口の9割が呼吸不全であると言う。かく言う私も、その呼吸不全の一人である。

気づけば十数年前より無呼吸症候群で睡眠時にはマウスピースを利用している。
また、いわゆる口呼吸ってやつで常に口は開けっぱなし。本来人間は口呼吸ではなく鼻呼吸の方がいいのだと言う。
おまけに、リブフレアってやつの典型で肋骨は常に開きっぱなしだった。本来、息を吐いた肋骨は内旋し閉じなければいけないのだが、長年にわたり凝り固まった肋骨は動く気配さえしなかった。

しかし、大貫さんのオンラインセッション以来、少しずつだが、自分自身で肋骨が閉じる、息を長く吐けることを感じている。
何せ、息を吐くトレーニングの一つに風船を膨らませるものがあるのだが、子どもの時には、普通に膨らませた風船が、当時はまったく膨らませることができなかったのだ。今では、風船を膨らませることは当たり前のように出来るようになった。

さて合宿のことだ。

私は25年ほど、トレーニングコーチとして、主に高校生や大学生の部活動の場で選手のサポートをしてきた。役割は、怪我をしないためと、パフォーマンス向上のための身体づくりだ。
怪我をした選手へのリハビリ指導や、テーピングを巻くといったことはしない、いや出来ないのだ。
おまけに、ほとんどがチームスポーツなので、多人数への指導をする事がほとんどだった。

つまり、マンツーマンで、しかも徒手による施術はほぼやっていない。
しかし、今回の呼吸トレーナーCの資格は、ベッドに寝た状態で徒手による筋肉の抑制や呼吸のアシストをしなければならないのだ。
いやー、わかっていたことではあったが、予想以上に難しかった。
そもそも、どう触る、どう持つっていう感覚さえないのだ。もちろん、どこに触る、持つっていうことも、わからない。そう、やりながら、とにかく自信が無いのだ。

当然、大貫さんやアシスタントの2人の方は、すでにその施術によって、仕事をしているので、本当に楽そうにやっている。かつ受けている人が不快な思いをせずに気持ちよいのである。

一方、私の施術は、ぎこちない、カチカチ、やっている方も疲れる有様で、受け手側からしたら、まさに人体実験として、身体を提供してくれている状態、そう心地よいという感覚とは正反対のところにいるのだ。
それでも、受講生の方の1人に助産師さんがいたのだが、私と同じく、普段とは慣れない施術にお互い四苦八苦。ただ、被験者の方の片手ずつを持ち、一緒に声を出しながら筋肉の抑制をしていく。
「はい、引き抜いて、つまんで、抑えて、フッーと」と繰り返すと、それまでの緊張感や自信の無さは、どこかへいってしまう。むしろ、下手くそな手技なのに、むちゃくちゃ楽しくなってくるではないか。そこからは、自分としてはかなり気持ちの面で変化が生まれた。

そんな私だったが、2日間にわたる合宿の練習のおかげで、一番最初よりは少しはマシにはなった。
しかし、施術的には自信の「自」の字もないまま帰宅。1カ月後の合宿では認定試験があり、かつそれまでに10人の人に呼吸ケアするという宿題も頂いたのだ。

まず10人を誰にお願いするかっていう問題と、それ以上に問題なのは、施術用のベッドがないことだ。抑制とアシストはベッドがなかったら、間違いなく自分の腰が痛くなるし、よりやりづらくなるのだ。
そうなるとやはりベッドを購入するしかない。
少し躊躇いはあったものの、これはもう購入するしかないので、合宿の翌日にAmazonでポチる。

合宿の2日後には折りたたみ式の施術用ベッドが我が家に届く。さあ、こうなったら腹を括ってやるしかない。

練習台になってくれそうな人に連絡し、木曜日1人、金曜日1人、土曜日に3人と身体を借りた。
そのうちの1人に80になったお袋、82の叔父もいる。20年以上、同居はしているものの、一階と二階で二世帯で住んでいるので、挨拶して、時々、買い物や病院に車で送迎する時に少し会話をする程度だったお袋。
いやー、歳とって体力も落ちていることはわかっていたが、ビックリするくらいにお袋の筋肉は落ちていた、というかほとんど骨と皮しかないくらいだった。私の手技が下手クソなこともあるが、ほんとにストレッチするのが難しかった。
ただ、おかげさまで、その施術中は会話せざるを得ないので、身体に触れながら「どっか痛いか?」「うん、大丈夫」とか、普段はしたこともない親子の会話ができたのだ。

82の叔父も同じだ。近所に住んでいるとは言え、普段は会わないし、会っても挨拶くらいだ。だから、お袋同様、今まで会話したことないよう話ができた。
どちらも、息子で甥の立場からすると、とにかく2人とも歳とったよな、ということを身体に触れることと会話する事で、まさに肌で感じることができたことだ。

残りの3人は、高校野球部時代の先輩、息子のパパ友、そして22歳の長男だった。
お袋、叔父同様、私が身体に触れながら会話をするなんてした事がなかったので、普段とは全く違う会話が生まれた。

超初心者の施術なので、ビフォー、アフターにそんなに変化はないのだが、それでも、後屈やしゃがむ動作が、あきらかに楽になったり、呼吸数がへったりするなど、本人も私にもわかりやすい変化も起きたりした。
そうなると、やっぱり嬉しいもので。

合宿後に5人に呼吸ケアをさせてもらって、とても大きな気づきを得ることができた。
ずっと、チームスポーツでウエイトトレーニングやフィールドのトレーニングを処方する、それが得意だし好きだと思っていて、マンツーマンの徒手による施術は苦手、できたらやりたくないって思っていた私が、思っていたより楽しく呼吸ケアを出来たのだ。
会話しながら、そして触れることで状態を感じながら施術すること、少しだが変化を感じることができた、あの感じは、結構好きかもしれない。
というか、それはウエイトトレーニングの指導とは別ではあるが、でも本質的には同じで受け手側が喜んでくれる、その様を見ること、そして、受け手側とのやり取り自体が好きなんだと、そう思えたのだ。

これは、ベッドを購入して腹を括ったからかもしれないが、自分にとっては大きな発見だった。

ん、俺って多人数指導でなくても、フィジカルの強化のためのアスリートの指導でなくても、結構楽しい自分がいるっていう気づき。
いやー、その気づきを感じられたことはデカい。

いつの間にか自分は、これしかできないって決めつけていたのかもしれない。

Unlock Potential.
(自分の可能性にフタをするな) 

25年ほど、主に部活のトレーニング指導をやってきて、それが得意、それしかできないって思っていた不器用な55歳。

そんな私にも、まだまだ人さまのお役に立てることが、どうやらありそうなのである。


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