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遅咲きのスラッガー・堂上直倫が見せた「開き直り」

*2019/12/14 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「遅咲きのスラッガー・堂上直倫が見せた『開き直り』」

をテーマに考えてみたいと思います。

堂上は今季プロ13年目にして初の開幕スタメンの座を射止め、シーズン序盤から存在感を示すと、一軍にフル帯同し自身初の二桁本塁打も達成。

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▽堂上直倫 今季成績
98試合 217打席 打率.212 12本塁打 39打点
出塁率.262 長打率.446 OPS.708
UZR 4.6 WAR 1.4
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内野全ポジションをハイレベルにこなす器用さを兼ね備えた「強打のユーティリティ」として、チームに欠かせない戦力となりました。

シーズンオフには実は昨オフに複数年契約を結んでいたことも明らかにし、「竜のプリンスが生涯中日を宣言した」と捉えても決して間違いではないでしょう。

遅咲きのスラッガーとして特に打撃面で急成長を果たした堂上ですが、果たして今季の好成績の裏にはどのような「進化」が隠されていたのでしょうか。

今季成績と詳細データを紐解いて行くと、敢えて長打狙いの打撃に特化した良い意味での「開き直り」がその進化のカギだったように思いました。

以下ではその「開き直り」について考察した内容を、順に説明していきたいと思います。

1. 堂上直倫の「開き直り」

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まずは堂上が今季好成績を残すことができた要因について見ていきます。

個人的には以下の3点がその秘訣だったように思います:

①三振とトレードオフに長打を量産
②ハイクオリティなフライを打ち上げる
③ストレートに狙いを定める

上記3点について、以下で詳しく見ていきましょう。

①三振とトレードオフに長打を量産
堂上は今季ビシエド、福田に次ぐ12本のホームランを放ちましたが、純粋な長打力を表す指標ISO (長打率-打率)では、上記二人を抑えチームトップの.233を記録しました。

これは規定到達者で例えると広島・鈴木誠也 (.230)に匹敵するレベルであり、217打席の出場だったとは言え、今季その長打力は目を見張るものだったと言って良いでしょう。昨季0本塁打、通算でも12年間で17本塁打だったことを考えると劇的な変化です。

一方で長打力の向上の代わりに失ったのは、打撃の確実性
打席数に対する三振割合はチームトップの25.8%を記録し、自身のキャリアでもワーストの数字でした。

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また上記の表は堂上の直近5年間におけるストライクゾーン内外におけるアプローチの変遷を示したものになりますが、今季は「ボール球の見極めがさらに悪くなり、空振りの可能性も高くなっている」傾向が表れています。

ボール球スイング率が常にリーグ平均を大きく上回るほどボールの見極めに難があった堂上ですが、昨季まではコンタクト率・空振り率と言った確実性を表す指標では概ねリーグ平均レベルで推移していただけに、「フリースインガー」への方針転換は意識的に行われたのではと推察します。
長打を量産するための三振増は「必要経費」と割り切って、より強くスイングすることを優先したのだと思われます。

②ハイクオリティなフライを打ち上げる
次に打球傾向について見ていきます。

今季堂上はフライ打球の割合がゴロ打球の割合を上回る、いわゆる「フライヒッター」の傾向を示しました。これは規定打席に到達した2016年もそうでしたが、2016年は507打席で6本塁打、ISO.107だったことを考えると、今季のそれは明らかに性質が違うように思います。

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その証拠の一つとして、フライ打球の力強さが格段に増した点を挙げたいと思います。

上記表は今季200打席以上立った打者のうち「フライ打球におけるHard% (=強い打球の割合)」トップ5を表していますが、堂上は並み居るパワーヒッターの中で堂々の第2位にランクイン。
今季は12球団の中でもトップレベルに「ハイクオリティなフライ打球」を量産できていたことになります。

中日はフライ>ゴロとなる打者が50打席以上の打者16人中4人 (堂上、福田、武山、木下)しかいないほどゴロヒッターが多いチームのため、高品質なフライを打ち上げる堂上の存在は、得点力不足に喘ぐ打線の良い「アクセント」としてかなり貴重でした。

前述の「フリースインガー化」とも通じますが、三振を恐れずフルスイングを心掛ける姿勢こそが力強い打球を生み出す源泉のように思います。

③ストレートに狙いを定める
最後に球種別の対応について見ていきます。

まず堂上は今季放った12本塁打のうち、9本がストレートを打ったものでした。今季は高め外寄りのストレートをよくシバいていた (特に神宮でのヤクルト戦で)印象が強いですが、その傾向がデータにも色濃く表れています。

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上記は昨季と球種別打撃成績を比較したものです。

そもそもの打席数が去年も今年もかなり少ないため何とも言いにくいですが、今季はストレートの他にカットボールやカーブを比較的打てていたことが分かります。一方でフォークやチェンジアップと言ったボールには脆く、また内角に食い込むシュートが不得意なのは昨年から同じ傾向です。

よって変化球対応に関しては「劇的な変化が見られた」と断言するのは難しいでしょう。

ただそこの課題はおざなりにしてでも、比較的得意なストレート一本に狙いを定めて打席に臨んでいた可能性は考えられます。元来ボール球の見極めが苦手なだけに、あれこれ考えるよりはシンプルに打てる (と思った)ボールに対し強くスイングしていくことを愚直に繰り返したことが結果に表れているのだと思います。

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以上、堂上の今季の好成績の要因について考えてみました。
まとめると

「得意なストレートに狙いを定めて、空振りを恐れずフルスイングで良質なフライ打球を打ち続けたことが長打量産に繋がった」

と言えるかと思います。

打撃面ではかなり「不器用」な部類に入る堂上にとってあらゆるボールに対応する「アベレージ型」を目指すよりも、その恵まれた体格を生かし確実性は低くとも「パワー型」に特化する方がベターだと考えたのではと推察します。「短所に目を瞑り、長所を伸ばす」アプローチの採用で良い意味での「開き直り」が奏功した、とも言えます。

もちろんその背景には、技術的なバックボーンとして「打撃フォームの修正」があったのは間違いありません。

昨オフから取り組む「神主打法」により堂上の体に染み付いたドアスイングが幾分か改善されたことで、バットがスムーズに出るようになったと複数のメディアで証言しています。

また今季から就任した村上コーチの「ホームランを狙う、強い打球を打つ」方針ともベストフィットしたのも大きかったでしょう。

昨オフの打撃フォーム変更からシーズン中の指導含め、堂上をサポートし続けた村上コーチの存在は、堂上が「三振を量産してでも長打を狙う」アプローチを継続するにあたりこれ以上ない味方だったように思います。

2. 堂上直倫の「課題」

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最後に堂上の来季における「課題」について考えたいと思いますが、これまで書いてきた中にも含まれている通り今後は「如何に確実性を向上させるか?」の一点に尽きるかと思います。

今季良い意味での「開き直り」で飛躍的に成績を向上させましたが、選球眼に弱点を抱えているのは相変わらずで、また落ちるボールを中心に変化球への対応も難あり。

さらにドアスイング気味の打撃フォームだけに内角にも弱点を抱えており、いくら「短所に目を瞑り、長所を伸ばす」アプローチを取っているとは言え、来季さらに成績を伸ばすのはかなりハードルが高いように思います。

年齢的にも上記で挙げた課題をすべて解決するレベルで打撃フォームの作り替える、というのは現実的ではないでしょう。過去に何人もの打撃コーチから打撃フォームの修正に着手されながらも、悪癖が改善できなかった堂上なら尚更そのように思います。

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ただ素人ながら敢えて課題解決のためのアイデアを出すとすると、「配球を読み、状況に応じて軽打」するプランBの意識も備えておくことが挙げられるでしょうか。

打者有利のカウントや走者なしのケースでは今まで通りフリースインガーに徹し、一打逆転のチャンスなど重要な局面ではワンヒットで走者を迎え入れる意識を持つようなイメージです。

今季終盤にそういった意識が見られた打席がありました。9/12の広島戦、6回表二死満塁から代打で起用された堂上は、「内角を捨て外角への変化球に意識付け」するイメージで打席に入り、2球目の外角のカットボールをライト前へ同点の2点タイムリーヒットを放っています。

特にシーズン終盤、高橋周平が復帰して代打での出場がメインになって以降は、そういう「配球を読み、状況に応じて軽打に切り替える意識」が徐々に見えてきた気がします。

来季も内野のバックアップとしての起用が基本線になるとは思いますが、開幕から長打を狙うプランA、状況に応じて軽打に切り替えるプランBの意識を両立させることで、さらに活躍の幅を広げられるのではと考えます。

竜のプリンス・堂上直倫には来季以降も「縁の下の力持ち」として、攻守にチームを脇から支えるバイブレーヤーとしての活躍を期待します。


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -
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