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中日・京田陽太のショート守備における"0歩目"と"JK"とは?

皆さん、こんにちは。今回は

「中日・京田陽太のショート守備における"0歩目"と"JK"とは」

をテーマにnoteしたいと思います。

去る7月10日、私はおよそ2年ぶりとなる現地観戦に臨みました!このご時世なかなか外出することも憚られるのに加えて、昨年8月に第二子が誕生して以降は集中してテレビ観戦もままならない中、今回の久しぶりとなる現地観戦はとても、とても貴重な機会となりました。

そのため、せっかく現地で観戦するならと私が主宰する「ネクストバッターズサークル」のメンバーから「現地に行くならこういう点に注目して観戦すべき!」ポイントについて挙げてもらい、その点に注目して観戦することにしました。

そこでメンバーの一人であるワンドリさんから挙げられたのが、以下のポイントです:

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0歩目・・・。JK・・・。

恐らく多くの方にとっては、耳慣れないワードかもしれません。今回はこの"0歩目"と"JK"といったいわゆる「守備用語」をキーワードに、京田陽太のショート守備について掘り下げてnoteしていきたいと思います。

なお京田選手のショート守備については過去に以下二つのnoteでワンドリさんと詳しく考察していますので、未読の方はまずこちらからご一読頂くことをオススメします↓↓


1. 守備における"0歩目"と"JK"とは

まず初めにタイトルにも掲げた"0歩目"と"JK"とは何かについて説明したいと思います。

"0歩目"とは、簡単に言うと打球が飛んでくる前に行う動きのことを指します。よくプロ野球中継などでは「打球に対する1歩目が遅かった」などと解説されるのをよく耳にするかと思いますが、0歩目は打球に対する反応を示す言葉ではなく、プレーが止まっている間に置かれている状況を確認し、次のプレー・飛んでくる打球を予測しそれに対応した動きを先回りして取っておくことだと言うことができます。

例えば状況や打者に応じてポジショニングを逐次微調整する、と言うことは最も一般的な"0歩目”だと言えるでしょうか。

そしてこの「状況を確認し、次のプレー・飛んでくる打球を予測する」ことを「準備・確認」と呼び、さらにそれを簡略化して"JK"と言い換えています。なので"JK"と言うワード自体はキャッチーですが、やっていることは何も真新しいことではありません。

例えば1996-2002年に連載されていた高校野球を題材にした漫画・クロカンでは、選手たちが「確認!」と言う合言葉を使ってプレーに入る前に次のプレーについての確認を促すシーンが出てきますが、これはまさに当noteの文脈における"JK"と変わりないですよね。クロカン以外の野球漫画でも、特にアマチュア野球を取り上げた作品では"JK"について描写するシーンは少なくないと思います。

この"JK"はケースバイケースでやるべきことが多岐に渡ります。例えばショートの"JK"を考えたとき、走者なし、走者一塁のケースでは以下のようなことを事前に頭に入れておく必要があります:

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状況に応じて、多くのことを事前に想定しておかなければならないことが分かるかと思います。準備・確認すべきことを挙げていくとキリがなくなってしまいますが、その場その場で情報を取捨選択して真に必要な"JK"を判断し、"0歩目"と言う形で実行に移せる選手こそが「正しく"JK"が出来ている」と言えるのだと思います。

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以上、"0歩目"と"JK"とは何かについて説明していきました。次項では当日の試合における実際のプレーを参考に、京田選手の"0歩目"と"JK"について見ていきます。


2. 京田陽太の0歩目: キャッチャーのサインから"投手が投げる前に"予測して動く

まずは"0歩目"について、こちらのツイートと動画をご確認ください。打球が飛んでくる前に、京田選手はどのような動きをしているでしょうか?

打球に備えて低く構えた後、打球音が聞こえる前に一歩だけ二塁ベース側に移動していることが分かります。

これは映像には写っていませんが、恐らくバッテリーのサインを確認し右打者のアウトローへ逃げていくツーシームが投じられることから、打球が自身の左側(二塁ベース側)に飛んでくる可能性が高いと一瞬で判断し、実際に松葉投手が投球する前に"0歩目"のステップを刻んだものと思われます。

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結果的に牧選手の打球は二塁ベース付近への弱いゴロだったため、「この"0歩目"の動きにより間一髪追いついた」というわけではなかったですが、予測通りの方向に打球が飛んできておりまさに打球を確実に処理するための最高の"JK"をしたと言って良い、隠れた好プレーだと言えます。

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また京田選手のこのプレーは、0歩目だけでなく実際に打球を処理した後の動きにも見るべきポイントがたくさん詰まっています。

上記の動画から、捕球から一塁に送球するまでの5つのプロセスを抜き出して確認してみましょう。

①まず捕球直前の足の動きは、右足前の体勢でボールを捕球しに行って・・

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②左足が前に出てくるタイミングで捕球し・・

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③左足が着地し右足を前に出しながら、グラブの中で握り替えを行い・・

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④右足が着地するタイミングでトップを素早く作って・・

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⑤スナップスローで一塁へ送球!

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このように、京田選手は右足→左足→右足と3歩踏み出す中で捕球と握り替え、送球までのステップを完璧にこなし、最短で打者走者をアウトに仕留めることができています。

実際に投手が投げる前の"0歩目"から準備を怠らず、いざ打球が飛んできたら完璧なステップワークで打者走者をアウトにする。京田選手のこのプレーは某報道番組の某コーナーで取り上げられるようなド派手なプレーでは決してないですが、ショートストップとしての見どころが詰まった最高のプレーだったと言えるでしょう。


3. 京田陽太のJK: 打者に応じてポジショニングだけでなく"スプリットステップ"も多様化する

さらに打球が飛んでくる前の"JK"としては、こちらのプレーも印象的でした。以下はDeNAの4番打者・オースティン選手と7番打者・大和選手をそれぞれ打席に迎えた際の、京田選手の動きになります。

まず上の動画はオースティン選手を打席に迎えた際の動きです。京田選手は内外野を区切る白線の後ろに守り、通常よりも深いポジショニングを取っていることが分かります。ピッチャーが投球するタイミングで小さくジャンプするスプリットステップ*は、頭をぶれさせないよう上体がわずかに高い位置からジャンプしたあと徐々に低くなっていくパターンのステップを踏んでいます。

*スプリットステップとは:
スプリットステップとは本来テニスで用いられている動きで、構えた後に一度小さくジャンプをし上体を低くする事で左右への動きを良くするためのステップのことを指します。普通に構えているだけだと骨盤がロックされてしまい左右への一歩目の動き出しが遅くなるので、特に左右への動きが多い二遊間の選手には必須の動きと言えます。

これはオースティン選手のゴロ打球における引っ張り傾向が顕著で、かつ速い打球の割合を示すHard%が両リーグトップであること、さらにバンテリンドームナゴヤがゴロ打球の球足が速くなりやすいショートパイル人工芝を採用していることを事前に"JK"していたからこその動きだと推察されます。

次にこちらの動画は大和選手を打席に迎えた際の動きです。オースティン選手の時とは変わって白線の内側にポジショニングを取り、かつ若干左足前気味に構えていることが分かります。またスプリットステップを開始する前には骨盤の位置を低くするように構えており、低い体勢をキープしたまま前方の打球のアプローチに重きを置いている事がわかります。

これも大和選手の特性を踏まえての"JK"がそのベースにあると予想されます。大和選手はDeNA打線の中では長打リスクが低い打者であり、かつHard%はリーグ平均を下回ります。強烈な打球が間を抜けていくよりも前方に打球が飛んでいくことを予測する"JK"を事前にしていたからこそ、上記のような動きをしていたと推察します。

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このように二人の打者に対する異なるアプローチを見るに、京田選手が打者に応じてポジショニングだけでなくスプリットステップまでも多様化していたことが分かります。またスプリットステップ自体も、バンテリンドームナゴヤのショートパイル人工芝の特性を理解した上で、膝に負担が少ないやり方を取り入れる工夫も見てとれます。

こちらのプレーについてはオースティン選手こそ三振に倒れていますが、大和選手は前方への緩い打球が飛んできておりまさに事前のイメージ通りだと言えます。とは言え「大和選手に合わせたスプリットステップを踏んでいたからこそ処理できた!」と言うにはいささか無理がありますが、この両者に対するアプローチの違いは京田選手が状況に応じて適切な"JK"を行っていることを表す好例だと思います。


4. まとめ: "0歩目"と"JK"を怠らない京田陽太は、名実ともにリーグNo.1ショートと呼ばれる日も遠くない

以上、"0歩目"と"JK"といったキーワードをもとに、京田選手のショート守備について考えてみました。

京田選手と言えばこれまでゴールデングラブ賞には縁がないものの、守備指標・UZR (Ultimate Zone Rating)では毎年リーグトップクラスの高い数値を叩き出しています。今季においても約1ヶ月の一軍登録抹消期間がありながら、ショートUZR2.6はリーグトップの数字です(前半戦終了時点)。

守備の目的はアウトを奪うことであるため、極論を言うと多くのアウトを奪えればその過程はどんな形でもOKと言うのは正しいと言えます。京田選手についても傑出した守備貢献の大部分は、内野手としての高い技術に加えて俊足・強肩を武器とした広い守備範囲によるものなのは疑いの余地がありません。

しかしプロ入り後毎年安定して高い守備貢献を記録し続けているのは、十分に高い守備能力を備えているにも関わらず準備・確認を怠らないその高い守備への意識が根底にあるのもまた、忘れてはいけないのではないでしょうか。今回現地で確認できたのは堅実なプレーのみでしたが、"0歩目"と"JK"と言った事前の準備を徹底することで生まれたビッグプレーも数多くあったことは容易に想像できます。

今回久しぶりに京田選手のプレーを間近で観ることができましたが、改めて"0歩目"と"JK"といった点を確認できたことで守備面においては名実ともにリーグNo.1ショートと呼ばれる日が来るのもそう遠くないと確信を持ちました。一軍昇格後は打撃面でもチームに貢献しつつありますが後半戦もこの調子をキープして、今年こそ!悲願の初ゴールデングラブ賞の獲得を切に期待しています。

・・・

最後に当noteの執筆にあたり、原案および技術解説で多大なるサポートを頂いたワンドリさんと、終日子どもたちの面倒をみてくれた妻には心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました!


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


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