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柳裕也の「今季の進化」と「来季に向けた課題」を考える

*2019/12/7 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「柳裕也の『今季の進化』と『来季に向けた課題』」

について考えてみたいと思います。

柳は今季自身初のシーズン規定投球回に到達し、二桁勝利も達成するなど遂に「競合ドラ1」の真価を発揮しました。
契約更改では年俸3倍増も勝ち取り、プロ3年目にして初めてバラ色のオフを謳歌していることでしょう。

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▽柳裕也 今季成績
26試合 11勝7敗 防御率3.53
170回2/3 奪三振146 与四球 38
QS率 69.2%
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右の先発投手として遂にひとり立ちした感のある柳ですが、果たして今季の好成績の裏にはどのような「進化」が隠されていたのでしょうか。
また来季以降も右のエースとして活躍し続けるための、今オフに解決すべき「課題」とは何が挙げられるでしょうか。

柳の今季成績・投球データから「今季の進化」「来季の課題」について、詳しく見ていきます。

1. 柳裕也の「進化」

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まずは柳が今季好成績を残すことができた要因について見ていきます。
個人的には以下の3点がその秘訣だったように思います:

①持ち球すべてで「高速化」に成功
②マネーピッチ「スラッター」の完成
③怪我をしない「体づくり」

上記3点について、順に見ていきたいと思います。

①持ち球すべてで「高速化」に成功
柳は今季主にストレート (47.6%)、スライダー (34.3%、カットボール含む)、カーブ (11.2%)、チェンジアップ (6.8%)を持ち球としてシーズンを戦いました。
これは昨季までのバリエーションとほとんど変わりありませんが、それぞれの平均球速に注目してみると、どれも前年より4-5キロスピードアップに成功していることが分かります。

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柳の場合、ストレートで言うと昨季までは平均136キロ台と、右の先発投手としては「かなり遅い」部類でした。
これではストレートの球質が藤川球児のようにホップしたり変化球がどれもキレキレだったとしても、平均球速が145キロを超える投手と普段相対している打者にとっては、対応するのに苦労しないことが容易に想像できます。
ストレートだけでなく変化球に関しても同様ですが、バッターの手元に来るまでの時間が短くなればなるほど、打者としてはそれに応じて速く反応せざるを得なくなるため、より攻略が難しくなるからです。

今季の柳は、出力不足を大きく改善させ「右の先発投手」として最低限の球威を維持できたことで、飛躍を遂げたと言って良いかと思います。
球速アップの要因としては、新任の阿波野コーチと取り組んだ「二段モーションへの変更」が挙げられます。
右足に体重をしっかり溜めてから上半身と下半身を連動させた「体重移動」を行えるようになったことで、よりボールに力を伝えられるようになったと言うことでしょう。

②マネーピッチ「スラッター」の完成
今季の柳の飛躍を語る上で外せないのは、マネーピッチとなった柳の決め球「スラッター」です。
スラッターとは大きく曲がるスライダーと手元で小さく曲がるカットボールの中間のような球種で、ストレートと似た軌道から打者の手元でギュッと曲がり落ちるのが特徴です。
打者からするとストレートと見分けがつきにくく、またフォークのように曲がり落ちるので空振りも取りやすいため、最近では球界のトレンドとして「スラッター使い」がどんどん増えています。

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柳は学生時代からこのスラッターに近い「ストレートの軌道から曲がり落ちる」カットボールを武器にしていたので、今季から新たに習得したわけではありませんが、前述の「全球種の高速化」によりその威力が格段に増すことになりました。

上の表は昨年と今年におけるスライダー・カットボール系球種の被打率を比較したものですが、昨年までと比較して1割以上被打率の改善に成功しています。
柳は基本的にストレートとスライダー・カットボール系球種が全投球の8割前後を占めるため、空振りが取れるスラッターが決め球にもカウント球としても使えるようになったことで、投球の幅がかなり広がったように思います。
また柳はドロンと落ちるようなカーブも持ち合わせており、ストレートとスラッターが同じ軌道である分、打者の目線を外すことのできるカーブもより生きるようになったとも言えるでしょう。

このオフには後輩の山本拓実もスラッターの習得を宣言しており、来季はさらに「スラッター使い」が中日に増えそうです。

③怪我をしない「体づくり」
最後の「進化」はもっとも根本的なことですが、シーズンを通してローテーションを守り抜くことができた点が挙げられます。
今季26試合に先発した柳は、開幕から一度もローテーションを飛ばすことなく先発投手としての仕事を全うしました。

基本的には中6日、1試合平均110球弱での登板が続きましたが、中5日での登板も3度こなすなど、若手投手の投球管理に敏感だった今年の投手運用を見るに、柳への首脳陣の信頼は大野と並んで大きかったように思います。
昨年まではシーズン中に右肘や背中を痛め戦線を離脱し、即戦力ルーキーとしてチームに貢献できないもどかしい2年間を過ごしていただけに、本人にとっても1年間離脱することなく戦えたのは自信になったことでしょう。

今年一年怪我をしなかった要因としては、昨オフの吉見との自主トレで学んだ「体幹トレーニング」が挙げられるかもしれません。
プロ入り後の2年間は右肘や背中など上半身の一部を痛めてしまっていましたが、体幹トレーニングを取り入れることで全身をバランスよく使うことができるようになり、負担が一部に集中することのない投球フォームを手に入れることができたのではないかと思います。


以上、柳の今季における「進化」について見ていきました。
今季の好成績が単なるフロックなんかではなく、昨オフから地道に取り組んだトレーニングやフォーム改善による「正しい努力」が実を結んだ結果であると、私は考えています。

ただ今季と同じ取り組みを続けたからと言って、来季以降も安定した成績を残し続けられるかどうかは誰も保証することはできません。
今後も右のエースとしてその地位を築くための課題について、以下で改めて考えていきたいと思います。

2. 柳裕也の「課題」

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今季の柳を見て、私が感じた来季に向けた解決すべき課題としては以下の3つが挙げられます:

①通年で安定したパフォーマンスの発揮
②被本塁打の削減
③立ち上がりの失点を如何に減らすか

①通年で安定したパフォーマンスの発揮
これまで見てきた通り今季の柳は一度も先発ローテーションを飛ばすことなく初のシーズン規定投球回にも到達しましたが、後半戦以降の失速は見逃せないポイントです。
前半戦までは9勝、防御率2.73と安定感抜群の投球を続けていた柳ですが、後半戦は特に8月以降大失速しわずか2勝、防御率4.74と前半戦とは別人のような成績となってしまいました。

その要因として考えられるのは、平均球速が後半戦に入りやや落ち込んだこと。
全球種の「高速化」が飛躍の理由だと前半では述べてきましたが、8月以降ストレートの平均球速が142キロを超える試合は一度もありませんでした。

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前半戦では絶好調だった6月をピークにナゴヤドームでは概ね142キロ以上をマークしていましたが、8月以降はテレビ越しに見ても明らかに球速が落ちていたように思います。
離脱なくフルシーズン過ごせたことは賞賛すべきですが、後半戦は流石に疲れが隠しきれなかったのは来季に向けた課題であると言わざるを得ません。

ローテーションピッチャーとして2年目を迎える来季は、如何に1年間投げ切るスタミナを身につけるかがカギになりそうです。
ただその対策の一環として、今季躍進の主要因だったと言える「二段モーションからの脱却」に既に取り組んでいるようです。

②被本塁打の削減
続いて来季に向けて改善すべき点としては、リーグワースト3位の被本塁打の多さが挙げられます。
柳は今季21本のホームランを献上しましたが、特にそのうち14本はストレートを打たれたものでした。

柳のストレートはオーバースローから投げ込まれるホップ成分の強さが特徴ですが、高めで空振りが取りやすい反面、甘く入ると打球が飛びやすいデメリットがあります。
前年から出力アップに成功したとは言え、右の先発投手としてはいまだ「やや遅い」部類に留まる柳の場合は、多少甘く入ってもジャストミートされないようさらなる球速アップに取り組む必要がありそうです。

今季の球威増の要因の一つであると考えられる「二段モーション」からの脱却に取り組んでいることは既に述べた通りですが、今後どのように球速アップに取り組むのかは引き続き注目です。

③立ち上がりの失点を如何に減らすか
最後は先発投手にとっては永遠の課題とも言える、「立ち上がり」の投球についてです。
今季の柳は2回、3回も含めた序盤3イニングの失点数が両リーグの規定投球回達成者の中でもっとも多く、特に後半戦以降で序盤の失点が目立つようになりました。

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例えば後半戦開始直後、8連勝と勢いに乗って迎えたハマスタでのDeNA戦。
勝てば単独2位浮上となるゲームで、初回ワンアウトから2番筒香にツーベース、3番ソトを歩かせて迎えた一死一二塁。
4番ロペスに先制のスリーランホームランを浴びてしまい、結局それが決勝点となりチームは敗戦してしまいました。

6連敗で迎えた翌週のDeNA戦はナゴヤドームでの一戦となりましたが、この試合も3回に筒香に先制ツーランを浴び、敗戦。
いずれの試合も失点したイニング以外は無失点に抑えQSは達成したため、「先発投手としての責任は果たした」のは間違いありません。
尻上がりに調子を上げて「試合を作る能力」は抜群だと思います。
ただやはり右のエースとして期待しているだけに、ここぞという場面ではたとえ調子が悪くとも「悪いなりに凌ぐ投球」を期待してしまいます。

解決策の一つとして思いつくのは、手元で動くツーシーム系のボールを取り入れて「打ち取るバリエーション」を増やすことでしょうか。
前述の通りストレートとスラッターが投球の8割を占める柳の場合、このいずれかもしくは両方がイマイチな日は、途端に投球の幅が狭くなってしまうことが考えられます。
チェンジアップは右打者相手にはなかなか投げないですし、また緩急をつけるためのカーブも多投するわけにはいかないからです。
試合中盤以降の修正力は見事なだけに、悪い日でも使えるボールが一つでも多いと、より序盤のリカバリー力は上がるように思います。

ただ1点注意すべきは、ツーシーム系のボールは柳のホップするストレートに悪影響を及ぼす可能性が考えられる点です。
オーバースローから綺麗なバックスピンの掛かったボールを投じる柳だけに、ツーシームを多投するとストレートもシュート回転してしまい、その良さが損なわれる危険性があります。
プロ入り後ツーシーム系のボールは投げていない訳ではないので実際のところはどうかわかりませんが、そういったリスクも念頭に置きながら試行錯誤していく必要があるでしょう。

3. 右のエース・柳はチームを悲願のAクラス入りへ導けるか?

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以上、柳の「今季の進化」と「来季の課題」について考えてみました。

先発投手として素晴らしい成績を残した今季の柳ですが、来季は当然ながらそれ以上の成績が求められるようになります。
7年連続のBクラスに終わった我らが中日ドラゴンズにとって、来季に悲願のAクラス入りを果たすには、右のエース・柳裕也のさらなる進化は必要不可欠です。
来季は僭越ながら当ブログで挙げさせて頂いた課題を全てクリアして、チームの大黒柱として君臨するような投球を心から期待しています。


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -
データで楽しむプロ野球
aozoraさんツイッター

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