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カメラの話を徒然に(19)

高級コンパクトカメラ(1) クラッセS

高級コンパクトカメラ

この種別(?)の定義は人によっていろいろかとは思う。そもそも、50~60年代はコンパクトカメラ——という言い方は無かったとは思うが——であっても一般的な会社員給与よりも高い存在だったから必然的に「高級」だったし、その時代なりの手間がかかった品であったことは、いま中古品を手に取ってもわかる。
その後、一眼レフが大衆化してレンズ固定式のカメラはコストダウンに注力し、さらには簡単に撮れるということを特徴として進化していくわけだが、そうなるとコンパクトカメラは操作する場所、調整する幅がなくなっていく。そういう流れに飽き足らない層、かといって一眼レフは大げさだしコンパクトでも良い写真が撮れたらいいのに、という要望に応えたのがこの種別、だったのではないかと私は思う。

84年発売の京セラのコンタックスTあたりが始祖(?)になるという説が多く見られる一方で、Tはその定義より早すぎた存在という見方もある。高すぎて定着せず次のT2までの間、途切れているからというのがその理由だ。私自身は84年当時は高校生なので、そこらへんの感覚は全然分からない。当時の私の使用機はキヤノンのオートボーイで、コンパクトというには少し大きく、むしろ70年代のレンズ固定機がオートフォーカス・AE・自動巻き上げ化され、電池やモーターを積む分大きくなったという趣がある。
コンタックスTは84年の発売で、それより前にオリンパスXA(79年)が出ている。TとXAの共通点は二重像合致式のマニュアルフォーカスであるが希望小売価格はXAが32800円に対してTはなんと87000円であるから、確かにこういう点やカメラ外装の豪華さを見るに「高級」であることは間違いないと思う。
コンタックスTは4年程度で生産が終わって、次のT2が90年12月に出て、時はまさにバブル経済の最盛期近く、これは実際に売れたと思う。自分の周りにも買った人が何人かいて、この12万円のカメラを飲み会の席に持って来ていたけど、まあ、私をクラシックカメラの世界に誘ったM氏や自分は20万円近くするライカを飲み会に持っていくくらいなので...って、それはまた違う話であって、つまり、特段写真を趣味にしていたわけでもない人が「ちょっと違うカメラ」として手を出したりするくらいの雰囲気が当時あったように思う。

その後、92年にコニカ ヘキサー、93年にニコン35Ti、94年に同28Ti、96年にリコーからGR1が出る。ここらへんの勢いはバブルが崩壊しても続いていたと言えそうだ。
リコーGR1は私も持っていた。その前に出ていたR1は30mmF3.5単焦点レンズ(パノラマ撮影時は内部コンバーターで24mmF8になる)搭載のカメラでそれなりにマニアックな仕様であったが、こちらはシャッターを押すだけのカメラで、画面隅々まで高画質で絞り優先露出もできるカメラということでGR1が出てきたという流れだったかと記憶している。私のGR1は、リコーは沈胴する鏡胴部分があまり丈夫ではなく(その後GRデジタルでも何度か故障した)、旅行中にシャッターが故障したこともあってあまり活躍できなかった。後年、搭載したGR28mmF2.8をライカマウントに換装した限定レンズが出て、それを現在も使っている。GRレンズのことはこの稿の(3)で触れることにしたい。

フジフイルムの高級コンパクト

そして、本稿のフジフイルムの高級コンパクト、である。
フジフイルムのこの市場への参入はGR1が出てから5年後の01年で、38mmF2.6レンズを搭載したクラッセが出ている。先行したリコーGR1が採光式ブライトフレーム(枠は液晶表示を投影)を持ち、距離によって簡素ながら撮影範囲も変えて、シャッター速度も全速度ではないがガイド的に表示されるのに、クラッセは素通しファインダーで近距離補正は黒い補助線で普通のコンパクトカメラと変わらず、絞り優先露出ができるのにシャッター速度はファインダーで確認できず、フラッシュ設定は電源オフでリセットされる、といった感じで後発なのに周回遅れ感が目立ち、当時気になったものだ。また、フジフイルムは伝統的にプロ向け機材はあまりコンパクトではなく、このカメラも少し分厚く高さもあった。
その後、06年に28mmF2.8を搭載したクラッセW、07年に38mmF2.8を搭載したクラッセSが出て操作性は一新され、ファインダー内にシャッター速度が表示されるようになり、カメラ前面にあったマニュアルフォーカス目盛りはメニュー内に引っ込んでフォーカス目盛りの場所に露出補正が入って使用頻度に応じたレイアウトになり使いやすくなった。フラッシュの設定リセットはカスタム設定として保持できるようになった。それでも、プログラムオート時のF値はカメラ上面への表示でファインダー内で確認できず、なんでこんな中途半端な仕様なのだろうと思ったものだ。

クラッセSの外観
上から見たところ。Pモードでの絞り値はシャッター半押し時にトップの液晶に表示され、ファインダー内ではシャッター速度しか確認できない。半押しするときには当然、ファインダーを覗いて被写体を狙っているので、絞り値は見えない。Pモードだから絞りは気にするな、ということだ。

それより何より、発売時期である。この年代となるともうコンパクトカメラはデジタル時代だし、デジタル一眼レフも各社出揃っている頃なので、初動の数が出たあとは売れ残ってしまった。私がこのSとWを買ったのはそういう時期で、それぞれ3万円台で新品が買えてしまったのだ。2台合わせても、1台の新品時価格よりずっと安いのはさすがに寂しい状況だった。

クラッセS

ということで、クラッセSの話にようやくたどりついたが、残念ながらもう実機は手元にはない。この手のカメラは最近たいへん高騰していて、自分が手放した時も買ったときの倍以上の値段がついて驚いたのだが、店頭にはさらに高い価格で並んでいたのだからその人気ぶりがわかる。
そういう話はさておき、カメラそのもののことであるが、上に書いた通り、少しやぼったい雰囲気を感じさせる大きさで、GR1のようなスリムな感じは全くないし、コンタックスやニコンに比べると装飾が少なく材質感の主張も控えめで、外見よりは持ちやすさと写りを重視した、ということだろうか。実際に、この大きさと形はカメラを保持しやすく、シャッターリリースボタンは固めであるがぶれにくく、シャープに写るカメラである。ただし、フォーカス速度は遅く、巻き上げ音が大きくて動作は素早くない。こういうトータルバランスというか、まとめ方はあまり良くないと感じる。後に出る中判蛇腹式のGF670も大型で6x8サイズくらい撮れそうなボディに6枚構成の豪華なレンズ、ほとんど音がせずショックもない完璧なリーフシャッターを備えておきながら、巻き上げがジリジリと大きなラチェット音がする代物で、なぜここだけこんなに音がするのかと思った。この割り切り方が分からない。

まあしかし、クラッセシリーズはとにかくレンズが素晴らしい。シャープで色ノリがすごく良くて、Velviaを使ったらこんな写真になった。(当時のフィルムがすぐに出てこないので自webの小さめ写真データ)

マレーシア、ペタリンジャヤにて、夜明け/ 
Klasse S,Super-EBC Fujinon 38mmF2.8/ プログラムオート,±0 ,Fuji RVP50

また、フォーカスは遅いがすごく正確で、近距離補正が頼りないファインダーではあるがピントは意図したところにあり、露出も安定している。写りの面では、もう文句のつけようもなく素晴らしいカメラである。
ここからはオリジナルのスキャンデータが見つかったので大きめ画像。

クリスマス飾り/ Klasse S,Super-EBC Fujinon 38mmF2.8/ F4,±0 ,Fuji RAP F
極めて鮮鋭な写り。ボケ像は少し固い。
ミューザ川崎にて/ Klasse S,Super-EBC Fujinon 38mmF2.8/ F2.8,+1 ,Fuji RAP F
自宅近くにて/ Klasse S,Super-EBC Fujinon 38mmF2.8/ F4,±0 ,Fuji RAP F
紅葉/ Klasse S,Super-EBC Fujinon 38mmF2.8/ F4,-0.5 ,Fuji RAP F
近接してもピントは正確で、外したことは全くなかった。

おわりに

いろいろネガティブなコメントも混ぜてしまいファンの方には申し訳ない。真面目に作られたカメラであることは確かで、写りは抜群である。この写りならいまの人気度もわかる。初代のクラッセが出た時点で他社に比べると遅かったのであるが、それでもその後、操作系などを全面的に見直してコンパクトデジカメ隆盛期に敢えて出してくれたことに感謝したい。

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