【リコの家づくりノート】#01家づくり

皆さん、今週からぼくとは違う視点で妻の家づくりの記事を掲載していきます。彼女はぼくの家づくりのパートナー。でも、同じ家づくりをしていても、目線が違うので、気づかされることが多く、間取りや家の設備、構造などに関しても、「そうか、そういう見方があったか」とよく思います。たまに意見が衝突する時もありますが、ほとんどの場合、彼女の意見が通ります。なぜなら、彼女曰く、「私が正しいから」だそうです。                 
by ロバート・ハリス

はじめまして。ハリスの妻のリコです。こんな形で表に出ようとは思ってもみませんでしたが、家づくりのエッセイを夫が書くにあたり、妻目線の文章も時々あったら面白いんじゃないかという提案をいただき、思いつくことをなるべく時系列で書いてみることになりました。同じことを共同作業でやっているので、重複することもあるかと思いますが、私なりの視点で、一生に一度の大きくて楽しい仕事、「家づくり」を書き留めて行きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
by リコ

リコの家づくりノート #01家づくり

 家を建て替えようという大きな決断をすることになったのは、ちょっとしたきっかけだった。

 今住んでいる築60年超の和洋折衷レトロ家屋は夏暑く、冬寒く、物であふれかえっていて、隙間風、ハウスダスト、カビ、ダニ、雨漏り、あちこちのひび割れ、壁からキノコと、相当ガタがきている。大理石の暖炉やホールクロックやホームバーもあるような75坪の広く、明るく、風情のある家は、それでも来客にはその昭和レトロな雰囲気が好評で、住む身になれば最新の家に比べ相当な住み心地の悪さだったが、まだ暫くこのまま住むつもりでいた。
 一つには同居の義母の存在があった。元々この家は夫の両親が建てたもので、義母は建て替えるつもりがないとはっきり言っていた。駅前で眼科を開業していた義母は85歳まで現役で、眼科医を辞めた後も、旅行、趣味、ジムその他を元気に続ける、若く、パワフルな人だった。義父とは私と夫の結婚前に離婚していて、義父はすでに亡くなっている。私たちの同居は長きに渡りとても仲良くうまくいっていたが、そんな訳で、この家の主はあくまで義母であり、私たちではなかった。

  一時期は、いつまでも同居していると自立している気になれないし、自分が主の家に住んでみたいと思い、家のすぐそばにマンションを買って、生まれたばかりの娘と3人で暮らしていたこともあった。これはこれで私たち夫婦には大事な時間だったし、インテリアの趣味をすりあわせるということの、いいトレーニングになった。
 そこには10年ほどいたが、義母も高齢になってきたことをきっかけに私たちは義母が主の家に戻り、また一緒に暮らすことになった。
 そこで私たちは数年前、義母に了承を得て2階の和室をフローリングの洋室にリフォームして自分たちの寝室にし、娘の寝室は好みの家具でコーディネイトし、部分的だが快適な空間を手に入れた。ところが100まで長生きすると思っていた義母が一昨年93歳で急に亡くなり、家は主を失った。
 存在感のあった義母を失って急速に傷んでいくこの家を、いつかは何とかしなければならないと思いつつ、部屋をリフォームしたばかりの私たちは家に関する知識もなく、漠然と4〜5年先に建て替えを考え始めようと思っていた。

 無意識に家のことを検索していたからかもしれない。スマホでネットニュースを見ていた時、リフォームのアイデアブック無料進呈という大手ハウスメーカーの広告が表示された。思わずタップして情報を入力し送信すると、程なくパンフレットが送られてきた。そしてすぐ電話がかかってきた。「モデルハウスを見学しに来ませんか?」というものだった。取り敢えずパンフレットを見てみたいと思っていただけだった私は行く気もなく、「夫に相談してみます」と適当なことを言って断った。
 「家のリフォームの資料請求したらすぐ電話かかって来ちゃった。モデルハウスに来ませんかって」参っちゃった、というニュアンスで夫に報告すると、「行ってもいいよ、行ってみようよ」と言う。「え?本当に?」
 自分たちの部屋をリフォームしたばかりだし、夫は家のことはまだ先のことと考えていると思っていたので、その返事は意外だったけれど、私たちは予約をして、その大手ハウスメーカーのモデルハウスを訪ねた。

 そこでの話は少し残念なものだった。そのハウスメーカーのモデルハウスはとても素敵で、高級感に溢れ、落ち着いていて、私たちの好みにはとても合っていた。でもそこのリフォームプランは高額で、私たちの要望に合わないようだった。でもせっかくだからと、その住宅展示場の他のモデルハウスも見てみることにした。
 外観を見て、行き当たりばったりに入ってみた。明るくて居心地の良さそうなリビング。大きな窓。素直にいいなあと思った。受付の女性がクリップボードを持ってくる。個人情報ですか。書けばいいんですね。仕方ない、本当は書きたくないけど。まだ何にも考えてないし。そして感じのいい笑顔の若い男性が出てきた。私たちの質問に丁寧に答えてくれ、やりとりするうちに、いつの間にか自分たちの漠然とした希望にリアリティーが増していった。
 彼はiPadで映像を見せたいが、今ないので家に届けたいと言う。私は少し警戒したが、夫はあっさり了承する。
「え?いいの?」思いがけないことが2回続く。
 その日のうちにその営業の青年はiPadを届けに来た。よく話を聞くと今年入社したばかりの新人クンで、前の月にその展示場に配属されたばかりだそうだ。人懐こく一生懸命話す様子に好感を持ち、話を素直に聞き入れることができた。
 

 そして夫が家の建て替えを本気で考えようと言い出した。いつか建て替えなきゃならないのなら、何年も待ちたくない。すぐ始めて快適な家で長く暮らしたい。今から始めよう。
 その通りだと思った。私たちもそんなに若くない。愛着はあるけれど住み心地が良くなく、維持費もかかるこの家にこれ以上長く住む理由はもうなかった。娘と、2〜3年後にオーストラリアから帰ってくる息子にも、居心地のいい環境を与えたい。

 ネット広告のタップがきっかけで、私たちは家の建て替えを真剣に考え始めることになった。

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