黄泉への道

べたべたする廊下を歩くことで、あおあおとした窓辺の風景に到達する。黒いかもめのような鳥が飛んでいる。清掃用具はまとめて階段の下に置かれている。水飴のような、ワックスを塗ったばかりの廊下だから、もうここに入って窓辺に行くことはできない。
長い廊下に部屋はない。ただ、一番奥に窓があるのみである。電灯はひとつも付いていない。
わたしはそこに、ひとつの剃刀を落としてしまった。祖父から贈られた、名前も知らない刀工が鍛えた、極めて鋭利なものだった。
力のないわたしに、たった1人の肉親である祖父が、自分を整えるため、身を守るために、わたしに贈ってくれたものだった。
だからわたしは黄泉への道の、現世にもう帰ることのない清掃に志願した。

ワルツがリズムを牽引している。それは、愛である。価値を計算すべきではない。
……和泊の寺の、黄泉への道と呼称される最悪の廊下に落とされた、赤い剃刀のことである。

#散文 #散文詩

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