仙人掌/赤砂漠と姉妹

砂塵の中の アラビアの 油のような 赤いルビーの原石の断面をすべりおちる久遠 見たことを覚えていますか かびのはえたパスタを砂に撒いて 欲しい名前を骨の岩に浮かべておくのだよ 伝言板の刹那 それでも、数百年は利用されつづけている あなたを愛している

あまりにもふかい井戸のそばで姉が死んでいるのがみつかった

亡骸は砂漠の赤い砂に覆われて 動かそうとするとひびが入るほどかたくなっていた 身体中を ぼろ布で包んで 姉の体は井戸の半分もない浅い穴 砂の中へ 男たちがはこび ほどなくして姉だった細胞の結晶は砂へすいこまれていった 赤い暗黒の時刻に わたしは姉以外の人間の姿が見えなかった

晴天の砂漠に、わたしはいつまでも 仙人掌みたいにつったっていた 砂はその身をいつまでもわたしにまとわりつかせていた わたしは乾燥し くずれおちていった 空と土は消え 風だけになったわたしが舞いあがった 月は赤黒かった

父も、母もいなかった わたしの姉は 集落の仲間たちによれば 姉ではなかったという だがそれがなんだというのだろう? 姉が、姉と言ってくれるだけで、わたしや、集落の人々が、日銭を稼ぎだし、わずかな穀物を育て、集落は、救われていたというのに……

姉の黄色がかった瞳 いつも他愛ないことで涙を流した瞳を 冷たい光が犯している 砂を握りかえそう すわりこみ 気がつくとわたしは大きな声をあげて泣いている


#詩 #散文

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