【新規事業のアイデア出し手法】スタッフ3名で売上高3,000万円を達成した居酒屋の事例
1.行政の新規事業に対する支援策
新たな事業の立ち上げを行政が後押しする制度として「経営革新計画の承認制度」があります。これは、中小企業が新たな事業活動に挑戦する際に、その計画(経営革新計画)を都道府県に承認してもらう制度です。
コロナ禍での業績低下を背景に、新規事業を立ち上げようと考える事業者が増え、初めて緊急事態宣言が発出された令和2年度には、全国で経営革新計画の承認件数が8,404件と前年の2倍近くになりました。
承認を得た企業の特典として、ものづくり補助金の審査が有利になったり、低利融資制度の審査を受けることが出来たりします。また「都道府県知事から承認を得た計画に基づく商品です」といったマーケティング手法を取ることも可能です。
経営革新計画は、商工会や商工会議所など商工団体の会員であれば、無料で専門家からの支援を受けながら策定することが可能です。弊社はそのような商工団体からご依頼を受け、これまで200を超える事業者に対して経営革新計画の策定を支援してきました。
特に、ノーアイデアの事業者とともに、新規事業アイデアを見出し、経営革新計画を策定したケースも多数あります。
この記事では、新規事業を立ち上げた居酒屋の事例を通じ、そのアイデア出しのポイントである「誰に」「何を」「どのように」という事業領域をどのように設定していったかを見ていきます。
2.事業領域とは
事業領域とは、以下に示した「誰に」「何を」「どのように」提供していくのかを端的に示したものです。
(1)誰に
自社の事業展開により恩恵を受ける人は誰かを定めます。これによってターゲットが明確になり、効果的なマーケティングが可能となります。例えば、あるカフェが「当店から徒歩10分圏内に住む仕事を持つ女性」をターゲットとすることで、チラシの配布範囲やメニュー開発がターゲットに沿ったものになり、効果が出やすくなります。
(2)何を
自社の事業展開により提供する価値は何かを定めます。これによって、差別的優位性が明確になり、顧客に自社を利用する理由を与えることになります。例えば、カフェが「落ち着いて仕事ができる場所を提供する」という価値を提供すると決めた場合、テーブルの広さや椅子の固さ、店舗の雰囲気がその価値を提供できるものに統一できることになります。
(3)どのように
自社の事業はどのように価値を提供するかを定めます。これによって、オペレーションを組み立てることが出来ます。例えば、カフェが「24時間年中無休」という営業体制で価値を提供すると決めた場合、どの程度の人員が必要なのか、また、適切な人員配置やシフト管理が可能となり、サービスの一貫性と品質を維持しやすくなります。
3.その居酒屋が苦戦していた理由
業績に苦しむ事業者の多くが、この事業領域が明確になっていない印象があります。今回ご紹介する従業員3名で運営している、ある居酒屋も同様でした。同店代表からヒアリングをした結果、この居酒屋は、以下の事業領域に基づいていることが分かりました。
「誰に」:仕事から帰宅する途中の人
「何を」:海産物中心の料理とお酒
「どのように」:純和風の店内で
その居酒屋の近隣には、仕事から帰宅する途中の人をターゲットとした居酒屋は多数ありました。また、海産物中心の料理を提供する居酒屋も多数ありました。さらに、純和風の居酒屋も多数ありました。
つまり、この事業領域では、他店との差別化ができていないということであり、それが業績が振るわない理由のひとつとも言えます。
4.新規事業アイデアの見出し方
そこで、事業領域を見直すべく、同店代表からさらにヒアリングしたところ、海産物の仕入先を多数知っており、仕入が不安定なイカを安定的に仕入れることが出来るという強みが分かりました。
また、新鮮なイカは、歯が丈夫ではない高齢者の方でも楽しむことができることも踏まえ、同店は新たに以下の事業領域を定めました。
「誰に」:高齢者
「何を」:新鮮なイカを通じた食の楽しみ
「どのように」:水槽からすくったイカを顧客の目の前で捌いたイカの活き作り
「誰に」を変えれば、新たな市場を開拓する方向の新規事業が策定できます。BtoBからBtoCへ、BtoCからBtoBへといった事例が典型的です。また、「何を」を変えれば、新たな製品・サービスを提供する方向の新規事業が策定できます。さらに、「どのように」を変えれば、既存顧客に既存の製品・サービスを新たな方法で提供することになり、これも新規事業のテーマとなり得ます。
同店は、自店の強みを活用し、これらの事業領域を全て変更しました。これにより、行列のできる人気店となり、年間売上高3,000万円を達成することが出来ました。
5.まとめ
この事例からは、以下のことが分かります。
事業領域を構成する「誰に」「何を」「どのように」を検証することで事業の特徴の有無が分かる。
「誰に」「何を」「どのように」を変更することで、新たな事業が展開できないかを検討する。
「誰に」「何を」「どのように」は、自社の強みを活用したものにする。
このような観点から、新規事業を検討することは、中小企業の生き残り策のひとつと言えるでしょう。
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