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経営革新計画で売上倍増!地方食材を活かした居酒屋の成功事例

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、飲食店の経営には大きな影響を与えましたが、コロナが第5類に移行しても、集客に苦労している飲食店は多数あるようです。

 今回ご紹介する居酒屋もそのような影響を受けましたが、新メニューを考案し、費用を抑えた販促をするなどの取組みを行政の支援策「経営革新計画」にまとめ、実行したところ、売上高を倍増させることができました。この記事では、この居酒屋がとった一連の取組みをご紹介していきます。

「経営革新計画で復活を遂げた居酒屋の事例だのさ」

2.アンゾフの成長ベクトルとは

 同店が新規事業を立案する際に用いた「アンゾフの成長ベクトル」は、以下の図のように、対象とする市場(顧客層)と提供する製品・サービスを組み合わせ、戦略を4つに分類したモデルです。

(1)市場浸透戦略

 顧客基盤を盤石なものにする戦略(上図A)であり、すでに提供している製品・サービスを、既存の顧客へさらに深く浸透させるという戦略です。この戦略は、比較的リスクが低く、安定的な収益増加が期待できます。しかし、市場競争が激化している場合は、効果が得られにくい場合もあります。

(2)新市場開拓戦略

 新たな市場で成長の機会を掴む戦略(上図B)であり、すでに提供している製品・サービスを、これまでとは異なる新たな顧客に提供するという戦略です。この戦略は、大きな成長機会を掴む可能性を秘めていますが、同時にリスクも高くなります。

(3)新製品開発戦略

 顧客のニーズに合致した新たな価値を提供する戦略(上図C)であり、新たに開発した製品・サービスを、既存の顧客に提供することで、顧客満足度向上や売上増加を目指す戦略です。この戦略は、新製品の開発に時間や費用がかかったりするなどの課題もあります。

(4)多角化戦略

 事業領域を拡大してリスクを分散する戦略(上図D)であり、新たに開発した製品・サービスを、これまでとは異なる新たな顧客に提供することで、事業領域を拡大し、リスクを分散するという戦略です。この戦略は、収益増加やリスク分散により大きな効果が期待できるものの、多額の投資が必要となる場合もあり、失敗すれば損失を被る可能性もあります。

3.同店の戦略策定プロセス

「まずは既存顧客と既存製品を明確にすることから。」

 同店の主な既存顧客は、地域に住む50代以上の男性であり、提供している主な製品はお酒の他、お刺身や揚げ物などの一般的な料理でした。市場浸透戦略は、このような既存顧客に対して、既存製品をいかに販売するかというものですが、同店経営者としては新規事業を展開したいという思いがあり、市場浸透戦略は選択肢から外れることとなりました。

 そこで、新規の顧客へ既存の製品・サービスを提供していく新市場開拓戦略を検討しました。ですが、居酒屋など店舗を構えて地域密着型で事業展開する場合、新規の顧客を開拓するには、新たな店舗を別の地域に出店する必要があり、同店にとっては現実的な戦略とは言えませんでした。

 この新規顧客の開拓が選択肢にないということは、新規の顧客へ新規の製品・サービスを提供していく多角化戦略も候補から外れ、残る選択肢は既存の顧客へ新規の製品・サービスを提供していく新製品開発戦略となります。

4.具体的な戦略の内容

 同店は関東圏内に立地していますが、経営者は地方出身であり、郷土には親類が在住しています。よってその地方の食材を安価に入手ができるという強みがありました。そこで、その地方のいくつかの郷土料理をメニューに加えましたが、この際に以下の取組みをあわせて行いました。

  • これまで文字だけで構成されていたメニュー表の上部に、この郷土料理の写真を掲載し、強調しました。

  • ブログでの情報発信を始め、中高年のお酒との付き合い方など、居酒屋の経営者ならではの専門性を活かした記事を掲載するようにしました。

  • SNSでの情報発信も始め、同店経営者の人となりが分かるような日常を発信ししました。

  • 新メニューを掲載したチラシを作成し、周辺にポスティングをしました。

  • スタンプカードを作成し、スタンプを一定数貯めるとドリンクを1杯無料にする特典を設けました。

 同店は、これらの取組みをテーマとした経営革新計画を策定し、都道府県知事から承認を得ました。経営革新計画とは、新規事業を立ち上げ、収益性の向上や市場での競争力強化を目指すための計画です。所定の要件を満たした計画を指定された機関に提出し、承認を受けることで、「経営革新計画」として認定されます。

 当計画の承認を受けると、金融や補助金、税制の優遇といったメリットを享受できますが、同店は「〇〇知事が認めた計画に基づく◎◎料理、新発売!」といった内容ののぼりを作成し、店頭に掲示しました。

同店が作成した「知事に認められた」というのぼりの効果は大きかった。

 このような取組みが功を奏し、同店の売上は倍増しました。

5.まとめ

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも、経営革新計画を活用して新メニュー開発と効果的な販促活動を実施したことで、当店の売上は大きく向上しました。

 アンゾフの成長ベクトルを用いた戦略分析と、経営者の経歴を活かした新製品開発戦略が功を奏したと言えます。この事例は、飲食店が経営革新計画を通じて収益性の向上と競争力の強化を図ることが可能であることを示しています。

 これからも変化する市場環境に対応し、継続的な成長を目指すための参考として、多くの飲食店にとって有益な指針となることでしょう。

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