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伝統工芸品の未来を切り拓く:木工教室で新たな顧客層を開拓する経営革新事例

1.伝統工芸品の現状と課題


 伝統工芸品とは、100年以上の歴史を持ち、伝統的な技術・技法によって主に手作業で作られる日常生活で使われる製品を指します。同社はそのような伝統工芸品として指定される家具の製造販売を行っていますが、安価な組み立て家具の普及や生活様式の変化により、業績は厳しいものになっていました。

着物を着なくなったことが高級箪笥の需要を小さくしたとも言われている

 この状況を打開するべく、同社は新規事業を立ち上げ、行政の支援策も利用して活路を見出しました。今回の記事では、時代の流れとともに業績が厳しくなっていった場合に、どのような視点で新規事業を見出すべきか、同社の事例をもとに検討していきます。

2.新規事業立ち上げの背景

 同社はこれまで家具という「モノ」を提供してきましたが、前述のとおり、外部環境の変化によって、販売が厳しくなってきました。この打開策として、新たな「モノ」を開発し、販売して行く方向性があります。

 ですが、同社は新製品の開発はやり切った感がありました。そこで「モノ」ではなく「コト」を提供することが出来ないかという視点で検討を始めました。その結果、新規事業のテーマとして浮かんだのは、「モノを作るコト」を提供するというものです。

 具体的には、同社がこれまで蓄積してきた伝統工芸品の製造ノウハウを活かして、木工教室を開催するというものです。その内容は、酒枡、おもちゃ箱、衣装箱、木工玩具などの作り方を教えるというものです。

3.木工教室開催が提供する価値

 当事業では、メインターゲットを地域内の高齢の男性とし、自社が所有する倉庫を改装して教室として展開することとしました。これにより、以下に示した価値の提供が期待できます。

(1)脳と体の活性化:ものづくりを通して心身のリフレッシュ

  • 脳トレ効果:複雑な工程や細かい作業は、脳の様々な機能を活性化します。集中力や記憶力、判断力などの向上にも役立ちます。

  • 運動不足解消:木材を切ったり、削ったり、組み立てたりする動作は、全身運動となり、筋力や柔軟性を向上させます。また、運動不足による生活習慣病のリスク軽減にも効果が期待できます。

(2)充実した生活をサポート:達成感や喜びで心も満たされる

  • 生きがいづくり:自分の手で作り上げた作品は、かけがえのない宝物です。その制作過程や完成の喜びは、高齢者の生きがいづくりに大きく貢献します。

  • 自己肯定感の向上:作品を家族や友人に見せることで、自己肯定感や自信を高めることができます。

(3)社会とのつながりを深める:新たな交流の場を提供

 木工教室は、高齢者が新たな人と出会い、交流する場としても最適です。同じ趣味を持つ仲間と交流することで、孤独感や孤立感を解消し、社会とのつながりを深めることができます。

4.行政の支援策活用

 同社はこのような取組み・効果を、経営革新計画としてまとめました。経営革新計画は、中小企業が新事業活動に取り組み、経営の向上を図るための中期的な経営計画書です。新事業活動とは、以下のいずれかに該当する事業活動を指します。

1. 新商品の開発または生産
2. 新サービスの開発または提供
3. 商品やサービスの新たな生産または販売方式の導入
4. サービスの新たな提供方式の導入
5. その他の新たな事業活動

 同社は「4. サービスの新たな提供方式の導入」に該当するとして、木工教室の開設を経営革新計画として立案しました。この計画を通じて、地域社会とのつながりを深め、高齢者の健康や生活の質向上を図ることを目指しています。

 経営革新計画を策定するにあたり、同社は地元の商工会議所の支援を活用しました。商工会議所には、専門家派遣制度があり、会員企業が無料で専門家から支援を受けることができます。この制度を利用して、同社は木工教室の企画や運営方法について専門的なアドバイスを受けました。

 さらに、計画は都道府県の審査を通過し、知事の承認を得ることができました。これにより、同社は低利融資や補助金の申請において加点を受けることができ、税制優遇などの支援も受けられるようになりました。

5.まとめ

 同社の事例は、伝統的な工芸品を扱う企業が時代の変化に対応し、新たな事業活動を通じて活路を見出した成功例です。モノを販売するだけでなく、コトを提供することで、新たな価値を創造し、地域社会とのつながりを深めました。

 このように行政の支援策を活用し、専門家のアドバイスを受けながら、新たな事業活動に挑戦することが、経営の向上に繋がるでしょう。

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