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大倉集古館「近代日本画の華」

もうすっかり秋になってしまったが、これは今年の8月のこと。

暑い時季になると、
「そうだ、今年もオークラへ行かなくては」
と思ってしまう。
それは、かつてホテルオークラで、チャリティ展覧会の催しを毎年夏の暑い頃にやっていた時の記憶からだ。
溜池山王駅の階段を上がり、桜坂を暑い中上っていくのだ。

そのチャリティ展覧会はここ数年休止しているようだが、
去年秋にリニューアルオープンしたのが、ホテルに併設されている大倉集古館である。
今年は、夏を過ぎた頃になってしまったが、まだまだ暑い中、桜坂を上って訪れてみた。

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こじんまりしたスペースで、近代日本画を中心にした展示。
もちろんすぐれた作品も多く所蔵してはいるのだが、やや地味めでもあり正直自分の中ではハズレの時もある美術館。今回もさほどには期待せずに臨んだ。

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横山大観「夜桜」(1929年発表)
これは今回の展覧会のテーマである、ローマで開催された日本美術展への出品作品である。
桜というと、淡くて儚い、どちらかというと弱弱しいイメージがあるのだが、この「夜桜」の命みなぎる様はどうだろう。
よく見ると実は桜だけではなく、松も多くの紙幅を占めている。
このフォルム、長谷川等伯の「松林図屏風」に似ていないだろうか。
等伯の方は、湿った空気の中にたゆたう如き松林が幽玄の美を象っているのだが、大観のこの松はビビッドで力強い。
右隻と左隻とでバランスが逆になっているが、まるで押し相撲をしているかのようで、観ている方も力が入ってくる。
団長として美の殿堂たるローマに乗り込んで、勝利の凱歌を挙げんとする心意気が伝わってくるようだ。

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横山大観「山四趣 春」(1925年発表)
見渡す限りの山々。春の暖かくなってきた山の空気が感じられるようだ。
私はこのような山々を見ると、もし自分がこの最中に放り出されたらどうなるだろうか、と思い人知れず怖くなることがある。
きっと誰にも知られずに野垂れ死ぬのだろうな、でも自然は何も変わらないのだろう、そんなことを思いながら。自分の中にある、自然に対する畏怖の具体的なイメージである。

今回の展覧会では、あらためて大観の画業のすばらしさの一端に触れることができて、大満足であった。
大観は作品が多く、またピカソほどではないにしろ、画風を変転させてもいるため、自分の中でなかなか評価が定められない画家でもある。
今回は、全体の点数も多くはなかった分、じっくりと向きあえたのがよかったのだろう。

大倉集古館、今まで侮っていてごめんなさい。
これからはもう少し足繁く通うようにしよう。。

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