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第25話(第一章 最終話) 語り継がれる日々

12月18日 ヤンゴン

水木:コウジ、お前業務の引き継ぎが全然できてなかったじゃないか!
こんな引き継ぎするんなら、もう次から休みの許可出さんぞ!

コウジは2時間前にヤンゴンに戻り、そのままオフィスに向かうと開口一番 水木の雷が落ちた。

しかし、コウジにとってそれは圧倒的な悲しみ、辛さを紛らわすのに最適だった。

コウジはミャンマーに戻った時、決めていたことがあった。
それは、決して辛い、悲しい顔を出さないということだ。

結果を聞いてきた人には、笑って誤魔化してやろうと思うほど、とにかく悲しい姿をみせないようにしようと振る舞っていた。

しかしコウジは明るく見せていたのだが、ミャンマー人スタッフらはわかっていた。
コウジがフラれて帰ってきたことを。 心の奥底で泣いていたことを。


仕事を終え、いつものバーにコウジは入った。
少しして、ツカサ、タケル、マサル、リョータが入ってきた。
特に集まるとは決めていなかったが、コウジが行き着く場所はここだと簡単に予想できた。

コウジの座っている席を囲むように座ったが、
みんな何から喋っていいかわからない状態だった。

タケル:・・・・・
マサル:・・・・・
リョータ:・・・・・
ツカサ:・・・・・・ コウジ、おかえり
コウジ:ただいま。 アウェーは0-3の完敗。 トータルスコア2-5の敗戦だったよ。

ここでもコウジはすっきりした笑顔で挨拶をした。

タケル:・・・残念だったな。
コウジ:はは、まあね。 でも悔いはないさぁ
リョータ:エリーはどう言って、コウジをフったの?
コウジ:んん〜 いろいろ言ってたけど、「友達にしか見えない」って言ってたかな。
マサル:友達としか・・・かぁ

ツカサ:うーん、エリーは罪なことしたよなぁ。それだったら、コウジとドーハで会う約束をしないで、もっと前に断っておけばよかったんだ。。。

タケル:まぁそうだよな・・・ コウジ、もう一度チャンスとかないのか?

コウジ:いや、ないね。 次いつ会えるかもわからないし、今は考えたくないな。

12月14日の盛り上がりから一点、この日はお通夜状態だった。

リョータ:コウジ、とりあえず元気出してくれよ。 しばらく試合ではFWやっていいぞ。 PKは全部まわしてあげるから・・・
コウジ:あぁ、どうも(笑) それじゃ僕は帰るよ。 おやすみなさーい。

コウジはひと足先にバーを出て帰路についた。

バーに残った4人では、このお通夜の後始末のように会話が続いた。
マサル:コウジの純愛ドラマもこれで終わりか〜。 この1ヶ月楽しかったけどなぁ。
リョータ:俺なんてコウジの昨日の写真みた瞬間に、崩れ落ちたぞ(笑)
ツカサ:なんで(笑)
リョータ:いや、なんか成功しそうな雰囲気あったじゃん?
マサル:それはあったな。 コウジから聞いたけど16日の夜、エリーが台湾人の男友達にも会わせているんでしょ? 普通そういうの、付き合ってからやるもんじゃん?

ツカサ:たしかにね。
俺は、ヤンゴンでコウジとエリーの食事しているところ見たけど、雰囲気よかったんだけどな。
コウジのフラれた理由が、「友達にしか見えない」「恋愛対象じゃない」っていうのだと、エリーそれもっと早く言えってことになるよな。

タケル:エリーに誰か入れ知恵させたとかないのかな?

マサル:うーん、その可能性も無きにしも非ずだけど、それだったとしてももう俺らじゃ追えねーしなー。

全員:あぁーあ・・・
全員がため息をつき、低い天井に目をやった。


翌朝、コウジはいつものように早朝のジムでトレーニングをしていた。

「もっと強くなんねーとな」

コウジにとってこれらの日付と思い出は、10年近く経っても忘れることがなかった。

2014年
12月15日:移転オープン初日=コウジがドーハに向かった日
12月16日:初めての砂漠
12月17日:コウジにとってのドーハの悲劇


北緯25度線 第一章 終わり

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