ふるさとは 2024/6/11

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

関東で感傷的にこの詩を思い出したり口ずさんだりしてましたが、普通にふるさとにはよく帰ります。高校時代、出ていきたくてたまらなかった町。もっと歴史的でもっとオシャレで(?)もっとハイカラで、もっと気取った町で育ちたかったなと思っていた町。10代の頃ってまだ「もっとアイツみたいなカッコいい名前がよかったな」みたいな事をバカ真面目に考えていたような時期なので、まあその延長みたいなものですが。

今でもこの町がすごく好きだとは思えません。便利な町。便利すぎる町。便利だけが取り柄の町。両親が便利さに重心を置いて暮らしてきた様を間近で見ているからでしょう。僕は便利さというものに対して並々ならぬ反感を持っています。便利と不便を選択する時は脊髄反射的に不便を取ります。そして、そのように生きてきて実際に不便をこうむった時にその選択を後悔したこともありません。むしろ成功体験の積み重ねとなりました。大学を能動的に北海道で選んだこともまたその一つです。大学に入ってみて、学友がみな第一志望でなかったことを我先にと主張しているのをみて、自分の選び方がなんだか恥ずかしくなったことを覚えています。ああ、この大学が能動的に来るタイプの大学じゃなかったということに僕は入るまで気づかなかったのです。だけど、北海道も、いかなる因果でそこへやってきた人たちのことも僕はかなり愛しています。

音楽やらスポーツやら魅力的なサークルが並ぶ中で演劇を選んだことも、自分にとっては不便を取った経験に思えます。演劇はなんていったって不便。一般的じゃないからとかく誤解を受けやすいし、好きな人だけが好きなニッチだと思われやすいし、事実一歩間違えるとすぐ自己満足気味になる。公演だって面倒くさいわりに見てくれる人が少ない。再現性もない。サブスクライブ全盛の今の世でもはや生き延びることが奇跡のような存在。でも、そんな反デジタルなポジションがどうしようもなく魅力的に見える。こういえば、不便さを愛する気持ちが少しは伝わるでしょうか。

今住んでいる東京でのお家も、駅からもスーパーからも遠くて、大きな公園がすごく近い。確かに、何か不足を感じた時にその解消をするのにすごく時間がかかる。けれども、だからこそ我慢が出来る。歩くことが出来る。公園は楽しい。便利じゃないということ以外のことがよく見える。こう書いてみると、僕は便利さを憎んでいるというより、便利さというあまりに伝わりやすい、合意しやすい、皆が賛同しやすい、誰を以ってしてもメリットと認識する要素が、分かりやすすぎるが故に他の要素を覆い隠してしまっているということにイライラしているのかもしれません。だから、僕のふるさとの便利さには本当に辟易とします。

でも、こう、不思議です。どれだけ世界中の町を見ても、ここ以上に特別な町がない。一陣の風に吹かれるだけで、あああの頃の風だと気づくのです。小学生の頃よく遊んでいた公園のベンチに腰かけて縦横無尽に駆け巡る子どもたちを見ていると、あああの頃の僕たちだと気づくのです。子どもたちを見ると、そこに昔の自分たちの面影を見ないわけにはいかない。彼らは日が落ちる頃ヘトヘトになってお家に帰って、温かいご飯を食べてフカフカの布団で寝るんだろうか。その奇跡のような生活を奇跡だとも気づかずに。ああまさしくあの頃の僕たちなのだ。そして、彼らも25年くらい経ったら、同じような気持ちでふるさとを歩いて、また縦横無尽に駆け巡る子どもたちに同じような心情になるのだろうか。25年前に僕たちを見ていた誰かのように。

「行くでー!」「ちょーまってえや」「こうするねんで!」

気取らないふるさとの関西弁が本当に心地よい。大阪の中心地ほどコテコテではないし、京都ほどはんなりもしていない。奈良や滋賀や和歌山とも兵庫ともまた違う。馴染み親しんだこのバランス。僕は色々な関西弁の中でも、ふるさとの関西弁が一番きれいだと思う。理解されなくてもいい。というか関西弁にそんなに違いがあることにそもそも関西人以外は気づきもしない。ここでは自分らしい言葉を紡ぐことになんの遠慮もいらない。目の前で「フェンスにボールをぶつけるの禁止」の看板に全力でサッカーボールを蹴り込んでいる少年には自らの美しい関西弁に一片の心くばりもない。ここが僕の育った町。僕の言葉。僕のアイデンティティ。僕の同胞が集まっている場所。便利な町。便利すぎる町。便利さしか取り柄のない町。だけどやっぱり僕にとって特別な町。

さあ、そんなことをつれづれに思いながら、遠きみやこにかへりましょう。

札幌発の劇団Road of座のブログです。主に代表で役者の大橋が更新しています。サポートよろしくお願いします!