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大学2年の夏、バイト帰りに川でひろったヨルダン人を2泊3日家に泊めてやった話③

続き


しかし大事な約束であったため、仕方なく再度サイードに2、3時間お留守番を頼むことにした。集合場所はバスで10分ほどの場所である。



帰ってきた。美味しいご飯だった。というのも実は彼女との久々の夕食だったのだ。しかし正直なところあまり落ち着いてはいられなかった。当然である。家に知らない外国人を置いたままでいる人間が落ち着いてもぐもぐご飯を食べられるだろうか。否。食事が終わり次第、急いで別れを済ませてバスに乗り込んだ。


「今度こそいなくなってないかな」と思いつつ玄関を開けると、サイードの靴が無い。いやいや、無いのは逆に心配になる。急いで部屋に入る。




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...........................................???

............サイード...........................???



このリュックは彼のリュックで、棚に乗ってるスマホは彼のスマホである。ただサイードだけが部屋から忽然と居なくなっていた。

慌ててラインを確認する。


「chotto konohende aruitekimasu

     :ちょっとこの辺で歩いてきます」


なんでや。なんで全部置いていくんや。怖くなった僕は、大学の先輩を家に呼び、2人でサイードの帰りを待つことにした。先輩は優しい人なので、サイードのためにコンビニでラムネとどん兵衛を買ってきてくれた。


しばらく待っていると玄関を開ける音がした。「タダイマァ」とサイード。突然家にいる先輩には気にもしていない。どこをほっつき歩いていたのか問いただすと、なんとさっきまで自分が夕食を食べに行っていた場所まで歩いていたというのだ。それも寂しかったからという理由で。怖い。怖すぎる。バスで10分の場所だぞ。彼女と飯って言い聞かせて出てっただろ。もし鉢合わせたとしてどうするつもりだったんだ。こいつマジでやばいんじゃないのか?

意識が遠のきそうになっている間に、先輩とサイードがめちゃめちゃ仲良くなっていた。2人で楽しそうに喋っている。どん兵衛がえらく気に入ったようで、しきりに先輩に感謝を述べている。ちなみにこの時点で自分への感謝の言葉は未だない。だんだんとこいつに対する怒りが溜まってくる。ちくしょう。一発やってやろうかな。とは考えたが、実はサイードはめちゃめちゃ体がでかい。お国ではボディービルダーをしていたそうで、喧嘩して勝てるガタイではない。しかも、自分の外出中にコーヒーを飲もうとしたら、瓶の中でコーヒーが腐っていたと報告を受けた。それは単純に申し訳ない。


どん兵衛をすすりながら、前日自分に話した妻の愚痴を先輩にこんこんと語り続ける。先輩はまともに話を聞いておらず、この状況に笑いそうになるのを我慢しているようだった。

夜も更けて、先輩は帰宅し、とうとう初めての夜がやってきた。こんなに身の安全が定かではない就寝は生まれて初めてである。どうか朝が来ますようにと祈りながら電気を消した。

→④


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