好きなものを人に言えたとき、自分に起きたこと
「◯◯さんは、好きな車とかメーカーってありますか?」
質問だった。
雑談をしていれば当然のように降り掛かってくるもの。
どのような形で飛んでくるかわからない。
答え方は無数にある。
どう答えようか迷った。
その場の空気に負けた私は、「ベンツとか好きですね」
好きな車メーカー第4位くらいの名前を挙げていた。
これならみんな知ってるし、''ハズサナイ''だろうと。
返事は意外なものだった。
「え〜!◯◯さん、ベンツって。おじさんくさいですよ〜」
ヘラヘラ口調でそう言われた。
悔しかった。
あえて、「その名前を出せば盛り上がるかな〜」とそこまで好きではないメーカーにした結果、バカにされたのだ。
悪意はなかったかもしれない。だが良い響きではなかった。
きっかけは突然くるものだ。
その日、その瞬間から、私は好きなものに嘘をつくのをやめた。
それほどでもないものを自分の回答にしたうえでバカにされるのなら、本当に好きなものをバカにされた方がまだいいと。
それでも好きだと言えるから。
自分に嘘をつくと、なんだか心が重くなる。
「本当にそれでいいの?」と問いかけられているように。
…
別の日、偶然にも別の人から同じ質問をされた。
(ここだ…)
以前の自分はいなかった。
「ベントレーっていうメーカーが好きですね」
相手の方は、そのメーカーを知らなかった。
目の前で調べてくれた。
「かっこいいね」
気を遣ってくれたのかな。
そんなこと、実はどうでもよかった。
好きなものを偽りなく言えた。
高揚感。
自分の存在を実感できた。
やっぱり嘘はいけないと。
小さな嘘が自分に小さな傷をつけていたんだと思った。
「言っていいんだ…」
悲しい気付きだと思う。
こう思えるきっかけをくれた、あの出来事に感謝している。
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