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理科準備室の綾野剛


校舎は静まり返っていた。
三階の教室の窓からぼんやり外を眺めると、全校朝礼が始まっている。
校長先生の話を真面目に聞いている学級委員、前の子にちょっかいを出しているサッカー少年、足で砂いじりをして小さな山を作っている5年3組のあの子、最後尾で先生に拘束されている特別支援学級の子、綺麗に整列はしているものの、個性を一望できた。

校舎を出る時になぜ誰も誘ってくれなかったのか、いつ全校生徒が校庭に集まったのか、担任は点呼をする際に一人足りないと思わなかったのか、複数の違和感を抱えながらも、まずは校庭に出ようと歩き始めた。
全校朝礼に遅れている焦りとともに、階段を駆け下りていく。

数十段の階段を降りていた時、異変に気付く。
階段の途中にある平坦な踊り場を通る回数がいつもより多かった。
どれだけ降りても下駄箱にたどり着けない。
校庭から校長先生の声は聞こえるのに、外に出ることができず、明るかったはずの校舎が少しずつ暗くなっていく。

どこからでもいい、早く外に出たい、そう思い、校舎内を走り回った。
だが、さっきまで開いていたはずの教室が施錠されている。廊下の窓も開かない。
絶対に夢だ、これは現実ではない、と思っても目が覚めない。夢だった~〜。ふう。とならない。
電気は消え、外も暗いが、校長先生の声だけはずっと聞こえる異常な空間。

絶望しかけたその時、三階の一番奥にある理科準備室から光が見えた。
泣きながら走り、今までにない勢いでドアを開けると、そこには綾野剛がいた。
私を見ながら、なにかを発しているが、声は聞こえない。
不気味な笑みを浮かべて近づいてくる。

綾野剛が私に触れようとした瞬間に目が覚め、夢だったことに気付く。

私は綾野剛を好きではない。綾野剛に関心がない。
なのになぜか夢の中で綾野剛に会う。
通っていた小学校の担任、同級生、綾野剛、毎回登場人物は同じである。
そして校舎から抜け出せないまま目が覚める。
毎回夢の中で戦っているが、校庭に出て整列できた実績はない。
綾野剛と会話をすることも、綾野剛が私に触れることもない。

普段から夢をよく見るし、その内容を鮮明に思い出せるため、朝起きた時は「○〇した夢」と検索する日々を送っているが、流石に「閉じ込められた校舎で綾野剛が理科準備室にいた夢」の意味など出てくるわけもなく、今でも原因は不明だ。
悪夢のように、定期的に綾野剛が夢にやってくる。おかげさまで綾野剛がトラウマになっている。

疲れているのか、見たくない!と脳内に綾野剛と不気味な校舎を残したまま寝ているからなのかは分からないけれど、多い時は週一で同じ夢を見る。
じんわりと綾野剛に苦しめられている。

もし夢に詳しい方がいるのであれば原因を教えて欲しい。
こんなnoteを書いてしまっている今日、また同じ夢を見るのだろうか、と怯えながら就寝する。

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