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【短歌】葡萄の種を吐き出す

短歌を読んでいて、葡萄の種を吐き出す描写をよく見る気がする。
葡萄だけならひとつのモチーフとして他の林檎や檸檬のように流れていくのですが「葡萄の種を吐き出す」までがセットになっているので印象的なのでした。なにか短歌という文脈において詠む人↔読む人との間に共通する詩情にうったえる表現なのかなと思い、葡萄の種を吐き出す短歌を集めました。俳句もあります。

以下の形式で記載しています。

短歌/俳句

作者名/歌集
(歌集が手に入らない場合、その歌が読める本)

青空文庫で読めるものはそちらへのリンクを、購入できるものはそちらへのリンクを貼っています。

だしぬけに葡萄の種を吐き出せば葡萄の種の影が遅れる

木下龍也/つむじ風、ここにあります

届かないものはどうして美しい君がぶどうの種吐いている

服部真里子/行け広野へと

トンネルが裏返るやうに夜が来てわたしは葡萄の種を吐き出す

川野芽生/Lilith

川舟の少年われが吐き捨てし葡萄の種子のごとき昨日よ

寺山修司/初期歌篇
寺山修司青春歌集

空に征きし兄たちの群わけり雲わけり葡萄のたね吐くむこう

平井弘/顔をあげる
短歌タイムカプセル

葡萄の種吐き出して事を決しけり

高浜虚子/五百句

綺麗で瑞々しい、もう手の届かないもの比喩として最適な描写…であり、主体の意思が関与する動作であることも「葡萄の種を吐き出す」という表現が使われることの大きな理由である気がします。

林檎が知恵や愛を連想させるように、葡萄も果物としての葡萄以上の意味をその言葉に託して詠われますよね。一個人の印象ですが葡萄にはなんとなく哀しいイメージがあります。雫が涙を連想させるからかもしれない。

君かヘす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

北原白秋/桐の花

よわいきて娶るにあらず林檎の木しずかにおのが言葉を燃やす

寺山修司/血と麦
寺山修司青春歌集

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

笹井宏之/ひとさらい

この短歌は何の実なのか明言されていませんがなんとなく林檎のような気がします。

天界の夏星座より降るひかり ひとしずくずつ葡萄は熟す

松平盟子/夢水仙

これも好きな葡萄の短歌なのですが、一夜ごとに少女が女性になるような艶のあるイメージが葡萄に託されているようで好きです。

言葉が持つ本来の意味を超えて使われる詩的な短歌、好きです。

葡萄の種を吐き出す短歌
また見つけたらこの記事に追記していきます。


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