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2018年5月 東京日帰り旅行 会いたい人に会いに行く

 2018年5月、私は東京へ行くことにした。会いたい人に会いに行く。それが、今回の一番の目的だった。

私が会いたい人は、東京ビッグサイトで開催されるイベント「スーパーコミックシティ(同人誌即売会)」に参加されるとのことだった。ツイッターで告知された時、会いに行くと即決した。会いに行って、ファンレターを渡す。
 こんな機会は滅多にないから、逃してはいけない。後悔するな。私の本音がそう囁いた。


 夜10時。こんな時間に1人で名古屋駅を歩くのは初めてだったかもしれない。名鉄バスセンターから、新宿行きの深夜バスに乗り込んだ。
 バスは狭くてよく揺れた。ほとんど眠れなかった。翌日、バスタ新宿でバスを降りると、吐き気に襲われた。緊張と寝不足が祟ったのかもしれない。ふらふらとトイレに入り、気持ちを整える。同じように長距離移動を終えたであろう女の子たちが、鏡の前でメイクしていた。それぞれ、目的があって今ここに来ている。希望と不安が渦巻く。東京とはそういう場所なのだ。

 早朝の新宿駅前は人がまばらで、ゴミだけが虚しく路上に散乱していた。
 私は近くのファストフード店に入った。席に着くと、ふぅ……と安堵のため息が出た。ついに1人で東京に来てしまった。その実感がじわじわと湧いてくる。
 チキンナゲットを頬張るが、あまり味を感じなかった。まだ緊張していることが、自分でも分かった。そそくさと食べ終えると、店を出た。

 電車を乗り継ぎ、東京ビッグサイトに到着した。人の流れについていく。早足でぐんぐん進んでいく人たちに圧倒されつつ私も負けじと歩いていくと、待機する人だかりが見えてきた。
 初めてのイベント。初めての東京ビッグサイト。周りの話し声が、緊張を増長させてくる。
 イベント開始のアナウンスがされると、どこからともなく拍手が起こった。そう、ここにいる皆で、このイベントは成り立っているのだ。楽しまないと、参加する意味がない。


「ありがとうございます……!」
 新刊を購入した後、思い切ってファンレターを渡したら、お礼を言ってもらえた。お礼を言いたいのは、私の方だ。
 無職になり、実家でくすぶっていた私は、精神的に不安定になることが多かった。そんな時期に、その方の漫画に元気をもらっていたのだ。
 一般人が一般人にファンレターなんて、と思ったりもしたが、渡さなかったら絶対に後悔すると思い、腹をくくった。そうして、1人で東京に来た。
 やり遂げた。目的を果たした私は、早々に東京ビッグサイトを後にするのだった。



 せっかく東京に来たのだからと、名探偵コナンの聖地巡礼をした。

 霞が関を歩く。祝日だったから、人はまばらだ。警視庁の前を通った。警備をしている人がいて、写真を撮るのを躊躇してしまった。遠くから1枚だけ、そそくさと撮った。

 警察庁。降谷零の勤務先(名探偵コナンの話での設定)。完全に不審者目線の写真になってしまった。写真撮影のために敷地内に入るのは憚られた。

日比谷公園。イベントをやっていて、人で賑わっていた。人混みが苦手なので、そそくさと退散。

日本橋にも行ってみた。なんてことない橋だったが、ふと見上げると歴史を感じた。過去と現在が融合している場所だった。


 その日の夕方、「手紙をもらってうれしかった」といった内容のツイートをされていて、ホッとする。想いを伝えて良かった。言わないと伝わらないことは、たくさんある。


 会いたい人に会いに行く。今回の一人旅で少し自信がついた私は、その後社会復帰を果たすことになる。

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