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低学歴男性の3人に1人が50歳時に未婚 | 少子化研究者による日本の少子化の現状解説②非婚化

こんにちは、少子化研究者の茂木良平です。南デンマーク大学というところで、少子化を専門に研究しています。

次元の異なる少子化対策が宣言されてから、さまざまな議論がなされています。しかし、そういった議論をする前に、日本の少子化の現状をよりよく理解しておくことが重要だと思うので、数回にわたって、日本の少子化の現状をデータと研究知見を用いてまとめています。

第1回目は基本的なデータと研究知見を紹介し、日本の少子化は結婚行動の変化(非婚化、未婚化、晩婚化)、そして子供のいない人(無子)を理解することが重要だ、とまとめました。

そこで第2回目の今回は、非婚化についてまとめていきたいと思います。

非婚化、未婚化、晩婚化の定義の確認

非婚化:50歳までに結婚しない人が増えることを意味し、50歳時点での未婚割合で測定します。

未婚化:非婚化と同じように使われることも多いが、あえてこの解説では、非婚化と未婚化を分けます。未婚化は、50歳までのある年齢区分、例えば30歳時の未婚率が以前より増加していることを指すことにします。

晩婚化:これはシンプルに結婚する年齢が遅くなっていることを指し、平均初婚年齢で測定します。

皆婚社会から非婚化へ

図1は男性と女性の50歳時未婚割合の変化を1920年から2020年まで書いたものです。

1920年から1950年までは、男女ともに50歳時の未婚割合は2%ほどと、ほぼすべての人が50歳までに結婚する皆婚社会でした。1950年以降、まず女性の50歳時未婚割合が上昇し、1980年ころから男性でも急激に増加し始めました。2020年には男性の28%、女性の18%が50歳時点で未婚となっています。言い換えると50歳の男性のうち、4人に1人以上が未婚ということですから大きな社会変化を感じられると思います。

図1:50歳時未婚割合の年次推移(1920~2020年)
データソース:国立社会保障人口問題研究所『人口統計資料集2023年度版』

非婚化は結婚を望まない人が増えたことが原因?

少子化関連のメディア記事で、結婚したくない人が増えたことが少子化の原因だ、というストーリーをみかけます。本当でしょうか?データを見てみましょう。

出生動向基本調査という5年おきに行われている全国調査において、未婚者に次の質問をしています。「自分の一生を通じて考えた場合、あなたの結婚に対するお考えは、次のうちどちらですか。」(1.いずれ結婚するつもり、2. 一生結婚するつもりはない)

この質問に対して、18~34歳の未婚者のうち、1992年調査までは90%以上の男女がいずれ結婚するつもりと答えています。その後この割合は減少していきますが、2021年調査においても男性の81%、女性の84%がいずれ結婚するつもりと答えています。

確かに90%以上の18~34歳の未婚者が結婚を希望していたときに比べると、最新調査年の2021年では、10%ポイントほど減少しています。ですが、未婚者の8割以上が結婚を希望していると答えているため、非婚化の主な要因は結婚を望まない人の増加ではないはずです。

どのグループで非婚化がより進んでいる?

それでは、非婚化は特定のグループで顕著なものなのでしょうか?公的データで利用できる、学歴別未婚率を今回は見てみます。

図2:学歴別50歳時未婚割合の年次推移(1990~2020年)
データソース:国勢調査
注:点のサイズは各時点での未婚者数を表す

図2は図1を学歴別にみたものです。まずは女性から見てみましょう。1990年から2000年までは大卒以上の女性の未婚割合が約10%と、他の学歴の女性に比べて最大でした。2000年以降、低学歴(中卒以下)の女性の未婚割合が増加し始め、2010年以降最も未婚に留まりやすいグループになっています。2020年には22%と低学歴女性の5人に1人が50歳時に未婚に留まっています

一方男性は、1990年から一貫して低学歴層ほど50歳時未婚割合が高く、学歴が上がるにしたがって低くなるという傾向にあります。2020年には、低学歴男性の37%(3人に1人以上)が50歳時に未婚です。

ただし、未婚者数で見ると、中卒以下の男女ともに最も少ないグループですので解釈の注意は必要です¹⁾。

Raymo, Uchikoshi, Yoda (2021)は上ですでに説明した、出生動向基本調査の個票データを用いて、学歴別の未婚者の結婚意欲を算出しています。それによると男女ともに大卒に比べて高卒以下のグループの方が結婚を希望する割合は少ない結果となってます。

しかし、Raymoらの研究で見られた学歴ごとの結婚を希望する割合の差は、図2で見られる学歴ごとの差ほど大きくはないです。図2で見られる学歴ごとの差は、学歴ごとに結婚意欲に差があるというよりは、他の要因(例えば経済格差)などが関係していそうです。

非婚化の要因は?

これまで見てきた非婚化の進展には何が関係しているのでしょうか?これを理解する1つの研究を紹介します。

岩澤・三田(2005)は、少子化になった1970代以降の初婚率の低下の約半分は「見合い結婚」の減少によって、そして約4割が「職縁結婚」の減少によって説明できると示しています²⁾。一方、学校や友人、趣味を通じて出会ったり、街中で出会ったりなど他の方法で出会い結婚に至る確率は、1970年以降あまり変化が見られなかったようです。そこでこの著者らは、1970年以降初婚率が減少し非婚化した理由として、以下のように結論づけています。

見合い結婚から恋愛結婚へという流れは、結婚市場という無限の空間の中で、 個人が自由にパートナーを選べるかのようなイメージを生んだ。しかし現実には1970 年代前半に隆盛を誇った企業社会によるマッチング・システムの弱体化によって、その分だけ結婚が減少したと解釈できる。職場が出会いの場としての機能を失いつつあるにもかかわらず、それに代わる出会いの場を求める時間的余裕はなく、さらに近年では男女とも非正規雇用化が進むことによって、結婚への移行がますます難しくなっている。

岩澤・三田(2005) p.26

まとめ

日本の少子化の現状解説②をまとめます。

  • 1920年から1950年までは、ほぼすべての人が50歳までに結婚する皆婚社会

  • 2020年には男性の28%、女性の18%が50歳時点で未婚

  • 低学歴の男女が特に50歳時に未婚に留まりやすく、低学歴女性の5人に1人、男性は3人に1人以上

  • 非婚化の要因の一つは職縁結婚の減少

  • 非正規雇用の増加など経済的要因が、特に低学歴層の結婚を難しくしているか

次回は、未婚化と晩婚化についてまとめていきます。

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注:
1)Twitterで未婚者数もグラフに載せてはどうか、とアドバイスいただきました。ありがとうございます!
2)この研究では、出会いのきっかけとして、お見合いと結婚相談所を挙げたものを「見合い結婚」、職場や仕事を挙げたものを「職縁結婚」と定義している。

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