結婚という制度が少子化の要因なのか
日本の婚外出生率(結婚せずに子供を持つ人の割合)は非常に低く、1980年代までは1%以下、その後わずかに上昇してはいますが、2020年時に2.4%となっています(1)。他の先進国と比べると違いは明らかで、例えばヨーロッパにおける2018年の婚外出生率の最低はギリシャの約10%、最大はアイスランドでなんと70%にものぼります。またEU平均値は42%、つまり42%の新生児が結婚していない女性のもとに生まれていることになります(2)。
こうした日本と他国との差からなのか、結婚という制度が少子化の要因だ!結婚せずに子供を生めるようになれば少子化が改善する、というような旨の記事をたまに見かけます。例えば以下の2記事:
こうした記事は確かな研究をもとに書かれているわけではなく、誤解を生むので、少子化を研究している者として以前Twitterで、こうした議論のおかしな点を挙げました。再度Twitterに書いたことをこのnoteにまとめてみようと思います。
疑問点1:婚外出生率が増加している国でも合計特殊出生率が減少している
例えばスペインを見てみます。
スペインの婚外出生率(緑の線で左側のY軸)は1971年は1.3%と日本と同じくらい低い値でした。当時のスペインはフランコ独裁政権下でカトリックが国教だったこともあり、結婚せずに子供を産むことが忌避されていたことが関係していると思います。しかし、その後婚外出生率はどんどん上昇し、2020年では47.6%と約半数の新生児が結婚していない女性に生まれています。
合計特殊出生率(オレンジ線で右側のY軸)はどうでしょうか。1971年には約3あったのが、その後急激に減少し1998年には1.3と過去最低を記録しました。若干の増加を経て、2020年にかけてまた減少し1.2となっています。ちなみにスペインは日本と同様、超低出生国とカテゴリーされています。
精緻な分析をしようと思えばできるとは思いますが、単純にこの2つの線を見比べるだけで、両者に関係がなさそうだと思いませんか?他の国もスペインと同じようなグラフになると思います。興味のある方はEurostat(https://ec.europa.eu/eurostat/en/web/main/data/database)のデータを触ってみてはいかがでしょうか。どなたでも無料でデータをダウンロードできます。
疑問点2:ヨーロッパでの婚外出生は結婚と出生のタイミングのずれかもしれない
同棲をする人や婚外出生率が増加するにつれて、少子化を研究する人口学の分野内でも「結婚はもう時代遅れなのか?」という関心が高まり、同棲と結婚と出生の関係についてたくさんの研究がなされてきました。
なので、先の日経新聞の記事にあるように、
と結論づけたくなる気持ちもわかります。この論は裏を返せば、婚外出生率が高い国では多様な家族観があるということですよね。
しかし、ヨーロッパ11か国を対象にした研究(3)では、同棲中に出産したカップル(つまり婚外出生したカップル)の60%以上は第一子出生後3年以内に結婚していたことがわかりました。そのため、この研究では結婚が子育てにおける重要な位置づけを未だ持っていると結論づけています。つまり、ヨーロッパ(少なくとも研究対象になっている11か国)では、結婚してから妊娠そして出産という順序は緩くなっており、それが婚外出生率の高さとして現れているが、婚外出生後は結婚し子育てをしているカップルが60%以上いるということです。まだ結婚と子育ての関連はまだまだ強く、少なくとも、子育てに関してはそれほど「多様な」家族観があるとは言えなそうです。
最後に一応注意しておきたいのが、僕は婚外出生に対して反対しているわけでも賛成しているわけでもないということです。同様に多様な家族観も伝統的家族観も否定していません。ただし出生率と結びつけるのはおかしいというだけです。こうした記事はどうも先に意見があり、その意見をフォローするためにいろいろな統計を出してきたり、少子化と関連させているように感じてしまいます。
人口学は少子化や高齢化、そして人口移動など社会課題に密接に関連したトピックを扱っていますが、まだまだ研究者から一般の方向けに研究成果を発信できていないと思っています。僕も研究者としては駆け出しではありますが、少しづつ発信していければなと思います。疑問点等ありましたら、お気軽にコメントください。
参考文献 (1) https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2022.asp?fname=T04-18.htm
(2) https://ec.europa.eu/eurostat/web/products-eurostat-news/-/ddn-20200717-1
(3) https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00324728.2012.673004
上のグラフで使ったRコードも貼っておきまーす。もしEurostatをいじって似たようなグラフを書いてみたい方いらっしゃればご自由にお使いください。
library(tidyverse)
Mycol <- c("#08306B", "#238B45", "#FD8D3C", "#D4B9DA", "#FFEDA0") #お気に入りのカラーパレットです
nonmar_ESP <- read.csv("DATAFILENAME.csv")
tfr_ESP <- read.csv("DATAFILENAME.csv")
nonmar_ESP <- nonmar_ESP %>%
select(Year = TIME_PERIOD, indic_de, value = OBS_VALUE) %>%
spread(key = indic_de, value = value) %>%
mutate(nonmar_rate = round(NMAR / LBIRTH * 100, 1)) %>%
select(-c(LBIRTH, NMAR))
tfr_ESP %>%
select(Year = TIME_PERIOD, tfr = OBS_VALUE) %>%
left_join(nonmar_ESP, by = "Year") %>%
ggplot() +
geom_line(aes(x = Year, y = tfr / 0.03), col = Mycol[3], size = 2) +
geom_line(aes(x = Year, y = nonmar_rate), col = Mycol[2], size = 2) +
scale_y_continuous(name = "Proportion of nonmarital births (%)",
sec.axis = sec_axis(~.*0.03, name = "Total fertility rate")) +
theme_minimal() +
theme(axis.title.y.left = element_text(colour = Mycol[2]),
axis.title.y.right = element_text(color = Mycol[3]))
ggsave("FILENAME.png", width = 6, height = 4, bg = "white")
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