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小野瀬康介を失った世界と、その後

 その男は、突然やってきた。

 いやもちろん、クラブ関係者など業界の人間でない限り、移籍というのは突然なものだ。突然というよりは、「こんな選手が来るのか!」という驚きだったというのが正解だろう。

 2016シーズンのオフ、チームは文字通り崩壊しており、次々と発表される移籍離脱、遅々として進まない契約更改と、スクラップ&スクラップ&ビルドの真っ最中だった。2016年12月19日までに前貴之(期限付き移籍)、福元洋平、渡辺広大と3名の新加入が発表されていたが、去っていく人数と比べるとまったく未来の見えない状況だった。

※レノファが何故そんなことになったのかについては、もうずいぶんと昔の話なので余程興味があってヒマな人だけ下記リンクを読んでみてください。


 そして2016年12月20日、小野瀬康介の加入が発表される。発表された選手名に驚き、完全移籍という響きに二度驚いた。何しろ「横浜FCの至宝」「ユースの最高傑作」と呼ばれていたはずの選手が、完全移籍で格下の山口へ来たのだ。
 実際のところは分からないが、向上心の強い選手なので「横浜へ留まるよりも山口へ行ったほうが、数字を残せて上への道が開ける」と考えたのかもしれない。ジョン・チュングン等の加入もあり、出場機会の減少を危惧した、というのもあるだろう。2016シーズンにレノファが披露したサッカーに可能性を感じていたようだったが、さすがにこんなにもメンバーが入れ替わるとは思っていなかったのではないか。

 そして2017年、キャンプから期待どおり能力の高さを見せつけ、順当に開幕スタメンを勝ち取った小野瀬だったが、大活躍、という訳にはいかなかった。

 やはり大刷新を行ったチームの完成度は低調で、さらに開幕戦で大木サッカーに振り回されまくった事から、完全に方針がブレてしまい迷走を続けた。小野瀬自身も上野サッカーをなかなか消化できなかったのか、「コントローラーを落っことした」かの様にフリーズしてしまう場面が度々見られた。
 そうこうするうちに、先述のブログで書いたように監督解任という事態となり、小野瀬が自分の糧となると信じたレノファのサッカーは終焉を迎える。
 マジョール新体制では当初4-4-2の素早いサイドアタックを志向するも上手く行かずに、紆余曲折を経て最終的に3-4-1-2に落ち着いた。(これで上手く行ったわけでは無いが)
 3バック+2トップの採用により、小野瀬の得意ポジションは消滅。トップ起用されたり微妙に干されたりしつつ、ウインバックのレギュラーに収まる。本職ではないポジションで過ごすこととなったが、守備機会が増えたことは成長に繋がったかも知れない。ともかくも、41試合6得点という、なくてはならない存在でありながらも、力を発揮し尽くしたとはいえない状態で2017シーズンは終わった。

 はっきり言って、2018年も小野瀬がレノファに居るとはまったく思っていなかった。クラブ内のゴタゴタもあり、他クラブからのオファーが無いはずもなく、たとえJ1でなくとも、自分がもっと輝けそうな場所を選んで旅立つだろうと思っていた。
 それを覆したのが、新監督の霜田正浩氏の存在だ。霜田新監督は既存のすべての選手、これから獲得する選手に対して詳細なプレゼンを行い、どういうサッカーを目指すのか、ゲームモデル(プレーモデル)を明確に提示して説得を行った。さらに個人昇格容認の方針(オファーはすべて選手に開示する、個々が個人昇格できるくらいの存在になって欲しい、個人昇格するのならそれはそれで構わないetc)を打ち出す。
 それを意気に感じたのだろう、小野瀬は山口に留まって成長することを選択をした。そして今季の活躍は皆さんご存知のとおりである。

 得点はすでに2桁に達しており、ドリブルはさらに切れ味を増し、周囲を使い・使われることも上手くなった。もともと守備に労を惜しまない選手だったが、霜田サッカーで鍛えられてからはトランジション(攻守の切り替え)についても恐ろしく早くなった。レノファに来てから最も成長した点は、実はこの部分ではないかと個人的には思っている。

 ガンバ大阪からのオファーが届いた際、決断に際して、出るか出ないかについては、勝手な想像だが恐らく一切の逡巡は無かったと思う。
 もちろん、多くの人が指摘しているように、このタイミングで今の状況のガンバに移籍することは「賢い選択」ではないのかもしれない。
 だがそれは、所詮外野の戯言である。2部で長らくプレーした選手にとって、1部からのオファーはどうしようもなく抗い難い魅力があるのだろう。歴史を振り返っても、国内外を問わず「それはどうなんだ」という移籍が繰り返され、結果としてキャリア形成に失敗した選手は数多いる。逆に下馬評を覆して成功した選手も大勢いる。我々にできることは、ガンバの慧眼と小野瀬の選択を信じて見守ることだけなのだろう。
 万が一『ガンバ大阪U-23』でプレーをしているようなら「失敗だったね?もう一回ウチでどう?」と声をかける。ただそれだけである。

 能力的には、間違いなくJ1でも十分通用すると思う。あとはガンバ大阪側に、小野瀬をしっかりと活かすプランがあるのかどうかだ。どうぞよろしくお願いします。



新たな翼を必要とするレノファ

 選手がどれだけ移籍しても、チームは続く、どこまでも。
 小野瀬を失った傷が癒えるには時間を要するが、次の試合は容赦なくやってくる。小野瀬という大いなる翼は失ったが、チームは生き物だ。否応なく新陳代謝が起こる、いや起こさなければならない。残った選手たちにチャンスが回ってくる。
 ここからは「ポスト小野瀬」について考えてみたい。

 レノファの基本システムは4-3-3(4-1-2-3)で一貫しており、小野瀬は右のウイングフォワードを務めてきた。左ウイングのレギュラーである高木大輔は左右を問わず稼働できる(というか本職はセンターフォワードなのだが…。)ので、求められるのは左右どちらかのウイングをこなせる選手である。


候補①山下敬大

 ポスト小野瀬候補1番手に挙がってくるのが、ルーキーの山下敬大だ。
 当初はストライカーとして加入した山下だが、山口でのデビューは開幕戦、左ウイングでの途中出場だった。その後も複数のポジションで起用されたが、現在はOM(シャドウ)のレギュラーとして定着しており、サイドで起用された際も効果的な働きをしている。
 小野瀬と比べてスピードや突破力では大きく劣るが、サイズとキープ力があり、上下動を厭わない走力と戦術理解度も備えている。その特徴を活かして、「長州のマンジュキッチ」として起用するのはけっこう有効な活用方法ではないだろうか。小野瀬とは違う方法でサイドに起点と深さをつくることが期待できそうだ。
 山下をサイドに回すことにより、先月新加入の高井和馬をシャドウとして同時期用することが可能となるので、最も現実的な選択肢かもしれない。


候補②清永丈瑠

 小野瀬が去った後、レノファにおいて最も「仕掛けられる」選手といば2年目の清永丈瑠だろう。レノファ下部組織の前身であるレオーネ山口で育ち、鹿島アントラーズU-18→関西大学を経てレノファへ加入。現在唯一の山口県出身選手でもある。
 切れ味鋭いドリブルとカットインシュート、プレースキックが武器で、ルーキーイヤーの昨季は開幕スタメンを勝ち取った。今季も徐々に出場機会を得つつあるが、今ひとつ力を発揮できないでいる。練習では良い動きを見せているのだが、実戦だとどうにも「車間距離」が掴めずに自分の間合いでプレーできていない印象だ。
 ただ、24節水戸戦では良い間合いでのドリブル突破を披露する場面もあったので、もう一息、きっかけさえ掴めば殻を破れるかもしれない。
 攻撃が手詰まりになった際、やはり求められるのは「仕掛けられる」選手だ。レギュラーだけでなくジョーカーとしても、清永がブレイクできるかどうかが、レノファの順位に大きく影響を及ぼすのではないだろうか。


候補③廣田隆治

 負傷もありここまでの出場は天皇杯の23分のみだが、今季ガイナーレ鳥取から加入した廣田隆治にもダークホースとして期待したい。
 近年はボランチなど複数ポジションをこなせるユーティリティープレーヤーとして活用されていたが、ヴィッセル神戸ユース時代はドリブラーとして名を馳せた選手で、正確なクロス、サイドチェンジと強烈なミドルシュートを備えている。
 また、鳥取ではウイングバックとしても多くプレーしてきたので、スタミナ的には申し分なく、今季頻繁に行われる「試合中の3バックへの移行」をスムーズに行えるというのも強みか。レギュラー候補、バックアップ両面で貴重な戦力になってきそうな予感がある。


夏の補強はまだあるのか…?

 まずは上記3人の奮起を期待したいところだが、実際に機能するかはわからないし負傷者も出るかもしれない。層は厚いに越したことはないので補強も視野に入れる必要があるが、小野瀬の移籍金が入るといってもワシントンがおいくらなのかとか、あまり予算に余裕はないというかカツカツと思われる。なので少なくともビッグネームの補強はもう無さそう。
 ならばレンタルで若手を借りたいところだが、新加入選手が馴染むのに時間が掛かっても困るので、勝手知ったる仲間が多いほうが良い。
 ということで、一人良い選手がいるんじゃないかと思うんですがね…。


 レノファでレンタル延長という選択肢もあった和田昌士だが、マリノスで勝負したい意向を尊重して昨季限りでの返却となった。なれど今季リーグ戦はここまで出番なし。
 年齢的に「育成型期限付き移籍」にも対応しており、密集でのプレーを得意としていてハイテンポのレノファサッカーにも対応できそう。サイドもシャドウもこなせて攻撃の万能度が高く、個人的に「福満2世になれる」と評価していた選手。もう一度レノファで修行して開花させる、という選択肢はいかがだろうか。


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 ということで、最後は若干冗談ぽくもなりましたが、小野瀬を失ってもレノファは続く、魂と志は受け継がれていくのです。
 霜田さんは「誰かが出られなくなったら駄目になるようなチーム作りはしていない」と発言しています。もちろん小野瀬康介という「質」は替えの効かないものですが、今のレノファには確固たる「ゲームモデル(プレーモデ)」があります。
 『小野瀬がいればもっと楽なのに…』という場面は当然出てくるでしょうが『小野瀬がいないからどうにもならん』という事態にはそうそう陥らないのではないかと。まずは今週末の「新生レノファ」に期待しましょう。



それではみなさん、Até breve, obrigado.



※画像はDAZN、レノファ山口公式より引用しました。

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