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描きながら考える、描くために考える 「笑わない数学」のイラストのこと

7月からずっと描いていた「笑わない数学」(NHKの数学の番組)についてのイラストを見てくださった方、ありがとうございます。番組を見ていない方には何のイラストなのかわかりにくかったと思います。すみません。

これらのイラストは、数学がよくわからない一個人の感想や思いつきを描いているので、数学的には間違っているものも多いと思います。番組に対する素人の感想文のようなものだと思っていただけると嬉しいです。

「笑わない数学」という番組の魅力

「笑わない数学」は、NHKで7月〜9月に12回にわたって放送された数学の30分番組です。数学の難問や素人には馴染みのない概念を、素人にも伝わるように噛み砕いて伝えてくれます。やさしく説明してもらっても素人にはなかなかわからないことも多いのですが、「わからないけど見ていてすごく面白い、数学って面白いな、すごいな」と思える不思議な魅力を持つ知的エンターテインメント番組です。

基本的な画面はほぼ真っ白。バックに何もない真っ白なセットです。スタッフの服装は黒一色です。視聴者をテーマに集中させるために、画面から余計なものを極力排除しているのだと思います。

この真っ白な空間の真ん中に立って説明をしてくれるのが、MCの尾形貴弘さんです。私はお笑い番組を見ないので、尾形さんのことを存じ上げなかったのですが(すみません)、難しい概念を全力で一所懸命説明する姿にすごく好感が持てます。尾形さん自身が計算したり、考えたり、暗号を解読したりするシーンもあり、視聴者も「自分もやってみよう!」と思えるのです。

また、CGを駆使した解説の映像も出てきます。映像は美しくて、女性の親しみやすいナレーションで急がずに説明してくれます。今回のテーマは「ざっくり言うと」こういうことであり、それを「わかりやすく説明すると」こういうことである、という感じで…それでもわからないことも多いのですが。

その回のテーマに関連した数学者も、映像の中にたくさん登場します。予想を考えた人、証明に成功した人、証明に挑んだけれど成功しなかった人、新たな考え方を示した人など様々です。現役の数学者にはインタビューもあったりして感動的。数学の発展には数多くの数学者が関わっていて、その人生のドラマもとても魅力的なのです。

こういう映像と尾形さんのMCの映像が切り替わりながら、番組はテンポ良く進行していきます。30分という短さもいい。最後まで飽きずに集中して見ることができます。

尾形さんはスーツを着て、いつも左胸や襟元にワンポイントのアクセサリー(ピンバッジ?など)をつけています。式や記号など、その回のテーマに合わせて作られたアクセサリーです。このアクセサリーも番組の魅力の一つ。あれが欲しい!という視聴者も多いようです。

イラストを描き始めた経緯

この番組の一回目(素数)を見て、一見不規則に並んでいるように見える素数に規則性が見出されるところで、ふわっと宙に浮くような心地よさを感じました。それをイラストにしてみたのが始まりでした。

Twitterで番組監修の小山先生にイラストをご覧いただけたのが嬉しくて、放送のたびに毎回イラストを描いてみよう、と思い立ちました。配色は毎回同じ色を使って統一感を出そう。絵の大きさもペンの太さも大体同じにして…。
そこから、毎週毎週描きました。番組を見た後にも描きましたが、放送の前に、次回のテーマについて想像したことや連想したことを描いてみることも多かったです。

誰に頼まれたわけでもないイラストを描いて、SNSに毎週アップするのはどうなのか?という思いもありましたが、見て下さる方がいらっしゃるのを励みに続けることができました。もちろん、番組自体がとても面白くて、見るのをやめられなかったのが一番の原因なのですが。

描くことを通して、能動的に番組に参加できる

何かを説明するイラストを描いてみたい、という思いは以前から漠然と持っていましたが、この番組で扱われている数学は非常に高度で、完全に理解して絵にすることは私にはできませんでした。
でも、自分自身にとっては、絵に描くことがとても役に立ったと思っています。ただ受け身で番組を見るのではなく、能動的に考えることにつながったと思うのです。

視聴者の中にも、番組に出てきた内容に沿って、実際に計算してみた、地図を4色で塗り分けてみた、暗号を解いてみたという方が何人もいたようです。ただ番組を見るだけではなく、実際に自分でやってみると楽しいし、番組の内容の理解を助けてくれます。

私が今回描いたイラストは、番組の内容をそのまま描き写すものではなく、個人的で直感的な思いつきを絵にすることが多かったです。
でも、そんな中でも、イラストを描くために調べてみたり、計算してみたり、イラストの色を4色で塗り分けたり(たまたま使用していた色が3色だったので、白をプラスして4色で塗ることができました)、暗号を作ってみたりしました。
どんなイラストを描くかを考えることは、番組の内容をもう一度思い出して考え直す機会にもなりました。番組の本質からずれた案を思いついてしまうことも多く、これでいいのかとあれこれ迷いながら、幾つも下書きをして仕上げていきました。

番組を見ているだけだったら、何も考えずに、そのまま内容を忘れてしまったかもしれません。描くことを通して、調べたり、考えたりするのが私なりの番組の楽しみ方であり、数学の楽しみ方でした。イラストを描くことで、番組の内容を自分の記憶の中に少しでも定着させることができたと思います。

「わからないけど面白い」から「わかりたい!」へ

3か月の放送期間も終盤になった頃のことです。
第11回のテーマは「確率論」でした。確率は中学・高校の数学で学んだ程度で難しいことはわかりませんが、受験数学の中では比較的理解しやすく、得意だと思っていた分野でした。
番組の放送に先立って、予習としてモンティ・ホール問題について調べてみました。本を読んでもよくわからず、自分で図解して考えてみましたが、まだよくわかりません。Wikipedia で読んだら少しわかってきて、それでもまだ疑問点が残っていました。(この問題については、番組の中でわかりやすく説明されていますので、後で番組を見て、私の疑問も解消することになるのですが、予習の時点ではよくわかっていなかったんです。)

この辺りで、はっきりと、自分の心境の変化を自覚したように思います。

「私にも、もしかしたらわかる内容なのでは? わかるはず! わかりたい!」

そして、Twitterにこう書きました。

数学を「わからないから興味ない」→「わからないけど面白い」→「わかるはず、わかりたい!」と気持ちが変化してきたみたい。

数学は、「自分に関係ない、難しくて理解できないもの」じゃない。私にはものすごく難しいレベルの数学は理解できないかもしれないけど、「数学の世界に一歩足を踏み入れること」はできるんだ。そんな気持ちになれたのです。

「笑わない数学」は、数学との縁が薄かった私たちの「数学への諦めや抵抗感」を取り払い、入口へのハードルを大幅に下げてくれる番組だったのではないか…そんなふうに感じました。

楽しかったです。番組関係者の皆様、素敵な3ヶ月間をありがとうございました。

読んだ本

番組の予習のために本を読んだり、番組の後で興味を持ったテーマの本を探して読んだりしました。読んでよかった本や、面白かった本を書いておきます。田舎に住んでいるので図書館が小さく、思ったような本が見つからないことが多かったです。『天球のハルモニア』は書店で買いました。

春日真人『100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影』(NHK出版、2008)
雑誌『Newton』(2022年4月号)虚数特集
瀬山士郎『はじめてのトポロジー つながり方の幾何学』(PHP新書)
光城ノマメ原作、しまな央漫画『天球のハルモニア』1巻(講談社、2022)
シェリル・バードー文、バーバラ・マクリントック絵、福本由美子訳
『数字はわたしのことば ぜったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』(ほるぷ出版、2019)
中村滋 (監修)『ずかん 数字』(技術評論社、2019)
サイモン・シン著、青木薫訳『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで』(新潮社、2001)

描くためのツールなど(自分メモ)

使用した道具 iPad, Apple Pencil
アプリ MediBangPaint
ペンの基本の設定(線画) 太さ20px  最小40%
配色 『3色だけでセンスのいい色』p.90掲載の3色+白+黒
キャンバスの大きさ 25cm x 25cm (必要に応じて拡大)
解像度 350dpi

「笑わない数学」に関するイラストは、下記のマガジンにまとめました。

https://note.com/rmia_clip/m/mad8496860a52


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