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小説「終末世界のマーキュリー」②

この作品は、連想単語ガチャでランダムに生成された3つの言葉をテーマに描く、いきあたりばったりの物語です。
続きを書いてピリオドを打つかもしれないし、打たないかもしれない。
そんな無責任な作品です。

今回の単語
No.922アイスコーヒー
No.1872ぼたもち
No.6765RIP

エピソードテーマ
No.1316宙に舞う

前回更新分→https://note.com/rmfdoll/n/nfc8f1c43db54


 パナマ運河を超え、自治領・コスタリカ地区のポートリモンに着いたのは、明け方のことだった。太平洋で運良く嵐に合わなかったため、予定通りに到着した。

「さて、探しに行きますか」

 私は誰に言うでもなく独り言ちる。
 ノアは数日前からスリープモードに入っている。
 パナマ運河が近く、海上交通の要所となっているコスタリカ地区は、世界連合からの監視も強い。

『秘匿回線の使用も、ここでは安全と言い切れません』

 私の優秀なパートナーはそういうと、緊急時以外の接触を断つように提案してきた。その分、手厚い支援は事前に手配をしてくれている。 
 ホログラフには、ノアが作り上げた『コーヒー豆を手に入れる10ステップ』というタイトルのTODOリストが表示されている。

 まずは現生のコーヒーの木が生存していると思わしき、原生林に向かわなければならない。ノアは港の近くに乗り物を用意したと言っていた。
 どんな名車が来るのか楽しみになってしまった私は、20世紀の有名車種をいくつか挙げてみたが、ノアはあきれ返ったように言った。

『仕事でしょう。天文学的な数字の経費を使うおつもりですか? 今回、稼ぎがないのに?』

 どうしようもない正論に、私はぐうの音もでなかった。
 ホログラフにはノアが指定したチェックポイントが記されている。地図を頼りに歩いていくと、タイヤがでかいオフロード車が待っていた。
 試しにドアに触れてみる。指紋が認証され、ドアが自然と開いた。
 私は、船からおろした食料や水分、いくつかの仕事道具を積み込んで、スイッチを押す。
 軽い電子音がして、オペレーションシステムが立ち上がる。

『Por favor especifique su destino』

 スペイン語で話しかけられた私は、翻訳ツールを立ち上げ、「言語設定を変更してください」と話しかける。
 ノアと同じ声で、私の端末がしゃべり始める。

『Por favor cambie el idioma en sus preferencias.』

『Lo tengo. Cambiar el idioma del sistema operativo.――……設定が変更されました。行先を指定してください』

 私はノアが指定した座標を打ち込む。

『こちらのルートが見つかりました』

 オペレーティングシステムが提案してきたルートをざっくりと確認する。港周りは整備されているが、郊外に向かうと路面の状態が段々と悪くなり、そのうち舗装がされていない道へとつながっている。
 私はそのルートを承諾すると、スゥッと静かに車は走り始めた。

 私はこのEV車特有の静かすぎる環境があまり好きではない。
 あまりにも静かすぎて、孤独を強く感じてしまう。
 一度だけクルルに相談したことがあった。
 クルルは私のその気持ちを笑わずに真剣に受け止めて、こう答えた。
『きっと、一人の時間が長すぎるのね。だから音で気持ちを紛らわせているのかもしれないわ。――そうだ、いいことを思いついた。私、コウに定期的にボイスメッセージを送るわ。毎日じゃないと思う。時々だけど』
 そんなことをしてもらうのは忍びない、と私が言うとクルルは大笑いで答えた。
『大丈夫。私が好きなことを延々としゃべってるだけ。私、コウに話したいことが沢山あるけれど、コウはいつも世界を飛び回っているでしょう? 通信がつながらないことも多いし。だから、私、あなたに話すつもりでしゃべるの。そうしたら、お互いにWIN-WINだわ』
 クルルがそう提案して始まり、約束通りに送り続けられ、何百時間もの音声アーカイブが私のもとに届けられた。それが、あの船旅の20日流れ続けたクルルの『再現料理探訪記』だ。
 船旅の間でほとんど消化してしまった。
 人の声がしない車内には、モーターが出す、ごく微量の高音が響いているのみだ。
 私はさて、と思い直す。
 静かで何の刺激もない旅路ほど苦痛な物はない。寝てしまおうかとも思ったが、自分が普段使わないEV車に、眠って命を預けてしまうのもいささか不安だった。
 ハンドルを握るでもなく、ぼーっと外を見るのは性格に合わない。

「オペレーティングシステム、オートパイロットモードを停止。マニュアル操作に切り替えてくれ」
『非常事態でしょうか? 緊急通報をいたしましょうか?』
「いや、必要ない。私が運転したいだけだ」
『かしこまりました』

 オペレーティングシステムはそう告げると、つるりとした流線型のダッシュボードに計器類を表示し、太目のハンドルを排出する。
 私は、ハンドルを握る。 

『ご安全に、良い旅を』
「ああ、そうだ。もう一つお願い」
『なんでしょうか?』
「モーターの回転数に合わせて、エンジン音を流してほしい。音の種類は……そうだな、20世紀のスポーツカーテイストで」
『かしこまりました』

 私はアクセルを踏み込む。
 ブオン! と唸るように、再現されたエンジン音が響き渡る。ご丁寧に、オペレーティングシステムは座席に微細な振動まで再現した。

「やっぱ、これが最高!!」

 私は思わずそう叫ぶと、アクセルを思い切り踏み込む。
 まやかしだとわかりつつも、テンションがあがった私は、まっすぐに伸びた道路をひたすらに走るのであった。


 調子よく進んでいたのもつかの間。
 道路はナビゲーションで示された通り、だんだんと状態が悪くなり、最後にはアスファルトが砕けたような道を進むようになった。
 そこまで荒れた道に入ると、周囲は赤茶けた荒野が広がっている。
 本当にこの先に原生林があるのか…? と思わず不安になったが、もう8時間ほど走ると到着する見込みだった。
 マニュアル操作で4時間ほど遊んでいたが、だんだんと疲れてきたので、今はオペレーションシステムに操作を委任している。
 エンジン音も聞き飽きて、今は静かな車内に逆戻りだ。

 しかし、その4時間で私はオペレーションシステムを一方的に信頼するようになった。私の不慣れなマニュアル操作をさりげなく支援してくれていたのだ。
 空から鳥が落ちてきたり、運転の荒いビッグトラックとの衝突を避けてくれたり。慣れない土地で運転するストレスがないように、私が操作を迷う時はほんの少し背中を押すように運転支援をしてくれた。
 そんな4時間の『コミュニケーション』で、私たちの間には…いや、私からの一方的な形かもしれないが…信頼関係が出来上がっていた。

 私は完全にオペレーションシステムの管理に任せ、ノアが集めた取引材料になりそうな資料を片端から読んでいく。
 私は商人だ。過去のデータや、どんな客が購買層になっているかという情報から、逆算で買値を計算していく。
 世界的に活発な取引が行われていたのは23世紀頃までの話だ。
 コーヒー・タバコは、規制が早かった。嗜好品をタブーとみなす人類が多い今、黒くて苦い液体は『罪を犯す飲み物』としての付加価値を持っている。

 富裕層の彼らはコーヒー1杯を飲む経験に、どの程度の価値を見出しているのだろう?
 そして、富裕層にコーヒーを売る業者は、何社あるのだろう?

 ノアの市場シミュレーションはコロンビアで展開している買付業者は3社。エリアを離してお互い競合相手になるのを避けているだろう。
 『合理的経済主義』を美徳とする現在の社会では、寡頭競争は最大の悪だ。競合会社がいると買付金額はあがり、販売金額は下がる。
 だが、エリアを離して競合を避ける戦略がとられている地域であれば、私が付け込むのは容易だ。

 現在の買付価格よりほんの少し高い金額を提示すればいい。
 噂を流せば、あっという間に豆は集まってくる。
 調子よくいけば、私も経費を回収する程度の小遣いを稼ぐことができるだろう。

「ノア、起きて」
「はい。コウ、どういった御用でしょうか」
「『アラビカ6.0WUD/kg。最高品質に限る。連絡求』翻訳して、現地のネットワークに流してほしい」
「かしこまりました」

 ノアが私の頼みを聞いた5分後、早速商談を求める問い合わせが複数あったらしい。
 ノアは車のオペレーティングシステムと同期して、問い合わせ箇所をピンマークで記録する。私はとりあえず、最も近い地点に向かうことにした。 
 


「Hola.Eres Kou?」

目的地に到着し、車から降りると、ニコニコと愛想の良さそうな笑顔を浮かべた男が話しかけてきた。

「ノア、翻訳モード」
「かしこまりました。『――やあ、あんたがコウか?』」
「よろしく。早速で悪いが、物を見せてもらえないか?」
「Por favor, por aquí.」
「『どうぞ、こっちだ』」

 男はさっそくコーヒー豆を見せてくれるらしい。私は男の後ろをついて、小さな掘立小屋のような倉庫に入った。
 地面がむき出しになっている倉庫は埃っぽく、私は若干噎せてしまった。

「Lo acabo de cosechar hoy.」
「『今日収穫したばかりだ』と言っています」
「なるほど。ありがたいよ」

 男はその場で待ってほしいとジェスチャーで伝えてくると、倉庫の奥に入って麻袋を取り出してきた。
 だいたい30kgほどはあるだろうか。真っ赤な実が大量に入っている。

「¿Es esto lo que estás buscando?」
「『探しているのはこれだろう?』と」
「ありがとう。少し見させてもらうよ」

 私は麻袋いっぱいに詰まった実を数粒取り出し、実を見てみる。傷も少なく、腐ったような匂いもない。私は小さな実を一つ手に取り、割って中を確かめようとした。
 その時、男は私の手を叩いて止めた。

「¡No revises el interior!」

 大きな声で怒鳴られて、私は驚く。ノアは彼が『中を確認するな!』と言っていることを伝えてきた。

「どうしてだ?」

 私が率直に聞くと、彼はまくしたてるように何かをしゃべり始める。かなり感情的になっているようで、あまりにも早口なので、ノアの翻訳が役に立たない。
 とにかく、彼が怒っていることだけはわかる。言葉はわからないが、彼の表情をじっと観察する。
 私が目を合わせていると彼は気まずそうに視線を逸らす。そして、大きく単調なジェスチャーを繰り返し、大声でまくし立てている。
 私はなんとなく彼が信頼できない取引相手なのではないか? という疑問を持った。彼が渡そうとしているのはコーヒーの実ではなく、別の類似した植物なのではないだろうか?

「落ち着いてほしい。私は言葉がわからない。そんなに早口で言われたら、翻訳できないだろ」
 私がそういうと、男は額に手をあてて首を振った。
「Paga el dinero. Tenemos 30kg disponibles. El precio es de 180WUD.」
「『180WUD払え』と男は言っています」
「ノア、彼はなぜ焦っているのかわかる?」
「いえ、具体的な理由はわかりません」
 私は少し考え込む。彼が何を隠そうとしているのか。なぜ豆を見ようとしたら止めたのか。
 おそらく、私は今取引の穴を突かれようとしている。そのことだけは理解できている。このコーヒーの取引には、何かの罠がある。だが、それを今の私では看破できない。
 幸いにして、買付予算にはまだかなり余裕がある。
 この男の取引を断って、地域全体に悪い噂を流されると機会損失が大きい。私は何かおかしな点があることをわかりつつも、男の提案を飲むことにした。

「1kgあたり6.2で買わせてもらうよ」
 私は当初募集していた条件より好待遇の価格を提示した。
 男は少し驚いた顔をして、ハンディ型の旧式の端末を差し出してくる。
「ノア、送金して」
「かしこまりました」
 男は送金を確認すると、ほっとしたような顔をした。
 間違いなく、私は彼に騙されている。だが、何で騙されているのかはまだわからない。だが、買付は最初の取引実績が肝心だ。
 この地域で、本当にこの価格で買ってもらえたという噂が広がることのほうが大事なのだ。
「売ってくれてありがとう。感謝するよ」
 私がそういうと、男もにっこりと笑って麻袋を寄越してきた。私が運ぶのに苦心していると、男は車まで運んでくれた。
 彼は悪い人には見えない。だが、今の売買においては何かを隠している。そして秘密を隠した罪悪感を紛らわすようなふるまいをしている。

 ――きっと、私は騙されている。けれど、彼も私を騙さねばならない事情があるのかもしれない。
 だから、騙されていることは不問にしよう。ただし、その感情は最大限に利用させてもらう。

「ノア、これから言うことを、伝えてほしい。彼の同情を誘うようにね。『ありがとう。君のおかげで良いものが手に入った。これで私は主人に首にされなくて済む。私には養ってる家族がいてね、主人の機嫌を損ねたら大変なんだ』」
 ノアは私の言葉にアレンジを加えたのかもしれない。彼の笑顔が少し曇る。
「『ありがとう、感謝する。君のおかげだ。もしよかったら、仲間にも伝えて欲しい。君からの紹介だと言えば6.2WUDで買うよ』」
 念押しで感謝の言葉を伝え、他の物よりも有利に買えるという条件を提示する。彼はあいまいに笑った。迷っているようにも見える。

 ――この言葉が吉と出るか凶と出るかは、数日後の楽しみだ。


 取引を終えた私は、ほど近い村に宿をとった。
 ロードサイドにある宿は立派なものではなく、使われていない民家を宿のように使っているだけのような建物だ。
 宿泊する人間は限られているのだろう。
 宿の中は埃っぽく、水しか出ないシャワーしかついていなかった。
 私は宿についてシャワーを浴びると、車から少しだけコーヒーの実を持ち出して、調べてみることにした。
 コーヒーの実は枝につけたままにされており、手でなでると簡単にポロポロとこぼれた。普段食べるブルーベリーの赤い版という感じだ。
 私は試しに1粒食べてみることにした。
「……うわぁ……!」
 私は思わず喜びの声を上げた。
 かみ砕くと、ほんの少量ついた果肉からほんのりと甘酸っぱい味がする。いつも食べているブルーベリーとは異なり、味は少し薄く感じるが、独特で芳醇な香りがする。手が止まらなくなり、1粒・2粒と食べていく。
 初めての味。初めての食感。

 ――なるほど、クルルはこういう喜びを求めていたのか。
 
 彼女がなぜ食にそこまでこだわるのか。その一端を味わったような気持になる。彼女をより深く知れたような気がした。
 そして、彼女がもしここに居てくれたら、この喜びを二人で分かち合えていたのかもしれないと思うと、胸が少し切なくなった。

「ノア」
「なんでしょうか」
「この喜びをクルルと分かち合いたかったよ」
「そうですね。私も同感です」
「――どうして私は、彼女が欲しがりそうなものを探してあげなかったんだろう」

 率直に感情を言葉にすると、余計に胸がチリチリと痛んだ。
 ぐっと胸を込み上げる感情が、私の頬を上気させる。
 私はごまかすように、一粒コーヒーの実を口に放り込むと、今度は種ごとかみ砕いてみる。
 柔らかい実と種がまじりあい、不愉快食感になる。だが、口の中に芳醇な香りが広がり、思わず頭がクラクラとした。
 その刺激も相まって、目頭が熱くなる。

 ――私としたことが、泣いてしまいそうだ。

「コウ、これから言うことは推測になりますが……あなたは彼女の領分を犯さないようにしていたのかもしれません」
「領分を犯さないようにしていた? 私が?」
「あなたは本気になれば、クルルが欲しがるものをきっと用意できたでしょう。でも、それはクルルが持つ『工夫し、想像する楽しみ』を奪ってしまうと心の底で思っていたのではないでしょうか」
「そう、なのかな。わからない」
「コウ、あなたが愛しているあのバイクを手に入れるまでの過程を思い出してみてください。レストアを繰り返し、エンジンの仕組みを調べて部品を削りだしたあの日々を。そして、エンジンがかかった瞬間を」
「凄く大変だった。でも、楽しかった。エンジンが回った時は最高だった」
「そうだと思います。それはきっと、クルルも同じだと、あなたは感じていたのかもしれません」
 ノアの話がよくわからない。少し論点がずれている気がした。
「クルルは本物の料理を手に入れることはできなかったよ」
「いいえ、違います。彼女は彼女なりの『カレー』を作り、彼女なりの『オムライス』を作り、彼女なりの料理を手にしていたのです。クルルは『食べたい料理』をレシピを読み解き、手元にある材料を組み合わせ、再構築して食べていました。その過程にシンパシーを覚えたからこそ、あなたは彼女の『再現料理探訪記』と名付けたアーカイブを愛していたと推測します」
 なるほど、そうかもしれない。
 彼女が再現料理をどうやって作るかを考察している様子は、私がバイクを動かすために試行錯誤した日々と共通する何かがあった。
 調べて、試して、壊して、試す。
 最初はうまくいかなければ落ち込む日々を繰り返すが、そのうちに『間違いがわかったからいいのだ』と開き直り。開き直った自分を笑う気持ちがありながらも、それでも成し遂げようとする日々。
 クルルはそれを何度も何度も繰り返していた。
 彼女が『欲しい料理』は、数限りなくあったから。
 「どうしてクルルはアイスコーヒーとぼたもちだけは、本物にこだわったんだろうね?」
 それまでスラスラと答えていたノアは数秒沈黙した。考えているのかもしれない。
「それは、わかりません。クルルにしかわからないことです」
「――……そうだよね。ごめん、答えがないことを質問しちゃった。君があんまりにも人間らしいから」
 人間らしい、と言われてノアは少し黙り込んだ。ノアにとってその言葉が名誉なのか、それとも不名誉なことなのかは、わからない。
 ノアにしかわからないことだ。
 数秒沈黙したのち、ノアのインタフェースが語り掛けてくる。
「コウ、私達は少ししゃべりすぎではないでしょうか」
「なんで。いつもこうやって話してるだろう。海の上でだって毎日――」
「……あなたが気にしないのであれば構いませんが、私、今回線がフルオープンの状態です」
「あ。忘れてた。ごめん。しゃべりすぎたね。もう寝るよ」
「ええ。おやすみなさい、コウ。良い眠りを」
 そういって、ノアはインタフェースを閉じてスリープモードに入った。
 私も薄っぺらい布団に潜り込み、目を閉じて眠ろうとしてみる。
 しかし、感情が高ぶったせいなのか、一向に眠気がやってこない。むしろ、心臓がどきどきと鼓動を打ち、頬の上気が止まらない。
 私は寝ることをあきらめて、ベッドを降り、窓際に置かれたボロボロの木椅子に腰を掛けた。
 空には、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。

 私は、もう一粒コーヒーの実をもぎ取ると、口の中で転がした。
かみ砕いた実は甘く、ほろ苦く、食感が悪い。
 まるでクルルが作った再現料理のようだな、とふと思った。
 その瞬間、なんとか堪えた思いが溢れ出すかのように、一滴の涙が頬を伝っていく気配がする。

「――クルル、おすそ分け」

 私は月に向かって、数粒取ったコーヒーの実を放り投げた。

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