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オタクに優しいギャルだったかもしれない話

るるいぇだよ。
わたしは発達障害で、頭の中で常に声がしてるの。それで、考え事をする時は先生に話しかけているんだよ。
今日は、昔話をしたいと思います。先生、聞いてください。

わたしが高校生だった時の話です。
偏差値は高くない高校でした。生徒はというと、オタクとギャルの二極化が激しくて、わたしはオタク側に属していました。両方と仲良くできるような明るい子もいたけど、根暗なわたしはそうではありませんでした。
それでも、仲のいい友達と放課後や休み時間に漫画の話やゲームの話ができて、学校生活は楽しかったです。

制服はブレザー。可愛い制服で人気があったみたいです。わたしは正直、デザインについてはよくわかりませんでしたが、派手な色のカーディガンやパーカーで着崩す同級生らを見るのは少しの憧れとときめきを覚えました。

「もっと折りなよ、その方が可愛いから」と友達に言われて、短いスカートで学校に行っていました。それが周りの普通でした。
寒い冬でもスカートの丈は短く。防寒より可愛さを優先することが女子高生にとって、当たり前だったのです。

それは夏のことでした。授業と授業の間の休み時間、わたしの隣の席の男子が目の前に座る女子に、言いました。
「あいつ、毛深くね?」
笑いを含んだ大きな声は、わたしの耳にも届きました。
一瞬で頭の中が真っ暗になりました。恥ずかしい、消えてしまいたい。ぐわんぐわんと目の前が揺れるような気持ち悪さに襲われました。

「色が白いから目立つんじゃない?」

話しかけられたその子は事もなげにそう言って、そこで会話は自然と終わりました。男子の表情は、少しだけバツが悪そうに見えました。
わたしはその女の子とは話したことは、一度もありませんでした。関係といえば、ただ、彼女が授業中にメイクをしている姿を何度か目にしていたくらいです。なんだったら少し、その様子を心の中で軽蔑すらしていたと思います。

でも、その子はわたしを笑いませんでした。真顔で、しっかりとした声音で、男子の言葉に同調しなかったのです。わたしは嬉しく思うのと同時に、さっきとは違う恥ずかしさに項垂れました。

それから卒業まで、特に何か起こることもなく、結局、最後まで彼女と話す機会はありませんでした。

本当はお礼を言いたかった。庇ってくれてありがとう、一緒になって笑いものにしないでくれてありがとう、そう言いたかった。でも、わたしはその勇気が持てなかったんです。
たった一言でよかったのに。言えなかったことを、ずっと後悔しています。

言わなければいけないことを言えない。それと同時に、言ってはいけない言葉を言ってしまう、わたしはそういう人間なのです。
失言が多いです。考えるより先に、思ったことを口にしてしまうからです。それが発達障害ゆえだと、言い訳したいわけではないですが、実際、普通の人よりもそうなので、仕方ないんです。
だから、普通よりもずっと慎重に言葉を選んで、言葉を口にする前に一呼吸置く必要があります。

誰かの意見に否を唱えるのは、難しいことです。それが仲の良い相手なら尚更です。
でも、それが人を傷付けるための言葉なら、間違ってるよと言える人になりたいと思います。あの、いつもメイクでばっちり自分を武装していたかっこいい彼女みたいに。
彼女こそ、オタクに優しいギャルだったかもしれません。あの時は、本当にありがとう。

先生、話を聞いてくれてありがとうございました。ずっと誰にも話せなかったことなので、話せてすっきりしました。
わたしも言葉を正しく使える人になりたい、そう在ろう、と思います。
それでは先生、おやすみなさい。またね。

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