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オペレーション:乙・改

母の電話が鳴った。

どうやら兄(母からすると息子)からのようだ。

明日、兄の子ども2人(中1長男、小5次男)が、それぞれ別のところでサッカーの試合だか練習だかがあり、送迎をしなければならないそう。

兄は仕事、兄の妻は次男を送迎(with3歳三男)なので、長男の送迎をお願いしたいということだった。

母にしてみれば、孫がかわいいので断る理由などない。彼女は二つ返事で引き受けた。

ただ、預かることになったのはいいが、明日の午前10時に一旦預かり、用事は午後からだという。

つまり、昼食の準備が必要になる。

さぁ困った。
とりあえず何を食べさせようか。
カレーでいっか。
あ、でもカレールーないから買いに行かなきゃ。
あー、でもめんどくさいなー・・・


そこに颯爽と現れた(ずっとそばで電話の一部始終を聞いていた)アルロン。

母よ、あなたの息子は一人じゃあないんだぜ?

このアルロンがひとっ走り行ってこようではないか!


こうしてアルロンは、寒風吹きすさぶ中おつかいに行くという重大な使命を課せられた。

作戦名は、『オペレーション:乙・改おつかい』。
任務了解、ただちに出撃する!

いそいそと出撃準備をするアルロンに、母が何かを差し出した。
その手には、樋口一葉が描かれた紙幣1枚と、一切れの紙があった。


「取引に使うカネと、取引のブツが書かれたリストだ」

Top secret

なんかカレーまったく関係ないのがリストの真ん中らへんにあるが、気にしないでおこう。

愛機インサイトに搭乗するアルロン。

「目的地、最寄りのスーパー。到達までの所要時間、推定3分。システム、オールグリーン。アルロン、行きまーす!」


スーパーにやってきた。

真っ先に向かったのは、お酒コーナー。流れるようにアサヒスタイルフリーの6缶パックをカゴに投入する。

そしてそのまま飲料コーナーに向かい、ザバスミルクプロテインのマスカット味を手に取り、同様にカゴへドーン。

さぁここからどちらに行くか。
右に曲がれば、青果コーナーとカレールー売り場が待ち構えている。一気に3つのブツを入手することが可能だ。右に行くか?

いや、ここは左だ。なぜなら、飲料コーナーから精肉コーナーへは目と鼻の先。どちらにせよ来た道を戻るのならば、短い方が効率的だ。左折して豚肉を確保しよう。

この間、ものの1秒にも満たない。刹那の判断で最適解を求めたアルロンは、建物の隅にある精肉コーナー、そこのさらに端っこにあるカレー用豚肉(1番安いもの)を手に取った。

しかし、カゴに入れようとした瞬間、アルロンの脳内に一閃の疑念がよぎった。


「おかしい。カレー用豚肉が4パックしかない。他のエリアに配置されている可能性がある。引き続き哨戒しょうかいにあたろう」


結果、カレー用豚肉は最初に発見したエリアにしかなかったので、この判断は杞憂に終わった。

さぁ今度は反対方向へ。
精肉コーナーから鮮魚コーナーに沿うように直進し、カレールー売り場で右折。

上段の方に鎮座するザ・カリー中辛は、すぐに発見した。

よし、もう一つはディナーカレー中辛だな。

・・・

ない。どこにもない。
辺りを見回しても、近隣のエリアを捜索しても、ディナーカレーがない。

だが慌てることはない。なぜならリストには『ディナーカレー(こくまろ)』と書いてあるではないか。
母は、ディナーカレーがない可能性を予測して、事前に代替案を考えていたのだ。彼女も伊達に長年主婦として戦線をくぐり抜けているわけではなかった。

こくまろをぶち込めば、ターゲットは残り1つ。アルロンは足早に青果コーナーへ向かった。

イチゴは今時期が旬。「あかりをつけましょぼんぼりに~」が永久ループする店内を進むと、真っ赤に彩られたイチゴ売り場に到達した。

熊本県産『ゆうべに』が税抜398円。安い。これに決まりだ。くまモンのパッケージもかわいらしくていいね!

見た目が美味しそうなものを吟味し、(パックの裏側まで確認し、)なかなか上質なやつをカゴに投入する。ルッキズムがどうとかうるさいご時世だが、背に腹は代えられぬ。

これで取引のブツはすべてそろった。
念のためカゴの中身をリストと照らし合わせ、抜け漏れがないかを確認する。よし、すべてある。

青果コーナ―からすぐのところにレジがある。ここで精肉コーナーを先に攻略したことが生きてくる。我ながら完璧な作戦だ。

一番手前のレジが空いている。しめしめ。

店員は男性、見た感じ学生かもしれない。とにかく若い男の店員が待ち受けるレジで会計を済ませることにした。


「・・・ぁせぇ」


???

え、何?何て?

あまりにも声量は小さく、そして声域は低い。


「・・・ードぁ・・・っすかぁ」


かろうじて「カードありますか」と問うていることはわかった。


「はい、ありまーす!」


もはや客であるアルロンの方が、声がハツラツとしている。やる気がないなら帰りな!


「ぉかぃけ・・・・・・ぇんです・・・・・・ばんのレジで・・・くださぃ」


アルロンがレジ店員に求めているのは、取引のブツをスキャナーで読み込み、セルフレジを起動させること。対応にあまり好感が持てなくとも、それだけやってくれればいい。

それでも気分はよくなかったので、いつもなら「どうも~」と一礼するところを真顔で無視した。

何はともあれ、依頼のあったブツはすべて確保した。後は拠点へ帰還するのみ。家に帰るまでが作戦おつかいです。


間もなく帰還。

買ってきたブツ、ポイントカード、そしてお釣りの2,335円を母に渡した。

これでミッションコンプリート。


母から感謝と労いの言葉があった。


「よくぞ作戦を完遂させてくれた。報酬といってはなんだが、お釣りの2,335円のうち335円を受け取ってくれ」


アルロンはその提案に「335円渡すから2,000円ちょうだい」と返したが、「2,000円ちょう」あたりでピシャリと却下された。

報酬335円。今回のような容易い任務ならば、まぁ、悪くないだろう。


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