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椅子にささげる詩

フカザミン
そう、不可座民について僕は考える

日本のカーストの最下層

彼らはつねに男であり
座ること、横たわることを許されていない
生まれた時に赤紙がとどいて
彼らは不可座民に任命される
椅子もベッドも彼らには必要ない
ずっと立ってすごすから
座ったり横たわったりすれば
首につけられた爆弾が爆発するから

不可座民は日夜立ちつづける
学校へいったら立ったまま授業を受ける
「先生! やすひろくんの背が邪魔で黒板がみえません!」
やすひろくんは困ってしまう
先生も困ってしまう
仕方なくやすひろくんは最後列へ席を移動する

不可座民は食事も立ってたべる
美しい女と高級レストランに入っても
男はテーブルにつかず
皿を左手でもって 右手でフォークをあやつって
立ったままスパゲッティを食べる
ムシャムシャ
モグモグ
女は気持ちの悪い爬虫類を見る目でそれをながめる

直立

不可座民は車を運転できない
飛行機も
戦車もあやつることはできない
なぜなら運転席にすわれないから
車は動く椅子で
飛行機は空飛ぶ椅子で
戦車はいかずちを放つ椅子で
まあ、そういうことだ

苦役

不可座民は最後までたったままだ
死んでも、遺体を収めた棺は横にならない
葬式中はもちろん
地中に埋めるときも棺は縦となる
それは立棺とよばれる
永遠の直立戦士
不可座民は生涯立ちつづける

さて、

不可座民は立ったまま寝る
夢の中には椅子が出てくる
不可座民は椅子にたずねる
僕はあなたに座っていいのですか、と

椅子はそこで自分のことを語る
北欧の森の奥にひっそりと立っていた自分を
つまらぬ樵がきりたおし
木材にして日本へ運んでいった
気絶しているあいだに 合意もなく自分は椅子に変えられていた
とても悲しい
自分は椅子になんかなりたくなかった
樹としてずっとふるさとの森の中に立っていたかった
椅子はそう訴える
ほとんど涙ながらに訴える
不可座民は考える
自分はひょっとしたら 立ったままでいるだけで済んで幸運なのかもしれない
そのうえ誰かを背負って生きていかなければならないとしたら大変だよな、と
不可座民は椅子の横にすわりこむ
「おれたちって大変だよな」

たぶんそうなんだろう
不可座民は大変で
椅子はもっと大変で
世界じゅうのあらゆる苦役はもっともっと大変で

僕はそれについて考えまいとする
座って仕事をして
座って食事をして
つかれたら横になる
そして眠る
眠るよ