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透明人間にささげる詩

僕は透明人間
まったく誰からも見えない
教室の黒板の前にいても
とまっている車のボンネットのうえに立っていても
見えやしない
全身ガラスのような透き通った存在

誰にも気づかれなくて嬉しいな
光でさえ僕を無視して素通りしていく

ほら僕はここにいるんだよ
あ、見えないんだね、君
やれやれ、情けないやつだな
透明人間じゃないやつはまるで愚かだな
烏合の衆だよ

でも本当は違う
屈折率があるから
周囲の景色から浮いて見えるから
僕は結局はすぐに誰かに見つかる

「おい、ここに透明人間がいるぞ!」
誰かが叫び、僕は墨をぶっかけられる
あるいはペンキを
それで僕の姿は浮かびあがり
みんな集まってきて僕を蹴る、殴る
リンチの始まりだ

すみません
許してください
痛い
ごめんなさい

僕は透明な鼻血を流しながら謝る
それこそいくらでも頭を下げる
それでみんな満足して去っていく
僕は解放される

僕は透明人間
生きている価値のない人間のクズ
それで嬉しいな
ガラス細工のような僕
やあ、嬉しいな


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