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気象庁の民間広告提供は何が問題だったのか

9月15日から気象庁は公式サイト上で民間広告の掲載を開始ししましたが、そのわずか20時間後に広告掲載は停止し、現在広告枠には代わりにこのような画像が設置されています。

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気象庁の発表によれば「不適切な広告の掲載があった」とのことですが、このnoteでは今回の騒動の問題点について整理しつつ、掲載された広告はどのようなロジックに基づき配信されたのか、本来気象庁はどのように振舞うべきであったのかについても考えていきたいと思います。

気象庁のサイトで何が起きたのか

まずそもそも今回気象庁がなぜ、民間広告の設置に至ったかといえば単純に公式サイトの運営費が経費削減の一貫で削られ、どこかで捻出しようとしたためです。つまり経費削減に対して「サイト上に広告を設置すれば運営費の一部にそれを充てられる」と考えられ、今回広告枠が設置されました。

詳しくは下記記事を参照してください。

また一部モザイク処理された広告掲載画面がネット上では出回っており、ある程度ウェブ広告に関する知識がある方であればどの媒体の広告枠が気象庁に掲載されていたのかはお分かりかと思います。

本記事では具体的な広告枠の仕様については触れず、仕組み、事態はどの程度予想可能なものだったのかについて解説していきたいと思います

そもそも民間広告はどのような仕組みで動いていたものなのか

そもそも広告枠については大きく分けて2つの枠が存在します。一定期間その枠を借り切りバナーや動画などを配信し続ける「純広告」と、それに対して「運用型広告」と呼ばれる広告です。モザイクはかかっていますが、今回掲載されたのは「運用型広告」ではないかと推測されます。

純広告の場合、広告主、または数少ない特定の(正規)広告代理店が直接気象庁に対して広告の出稿をお願いし出稿するケースが一般的です(下記イメージ図参照)

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いずれにせよそこまで広告主の数は多くならないケースが主であるため、また広告代理店も「正規」と認定を受けた代理店であった独自に審査を行う上、気象庁側でも広告の数は多くないため、時間をかけて審査できたので「不適切な広告の掲載があった」という事態には陥らなかった可能性が高いかと考えられます。

ただし今回掲載されたのは「運用型広告」です。

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運用型広告は広告掲載を希望するサイト管理者が広告媒体に申請することにより広告枠を付与され、それをサイト内に設置することでその広告枠に次から次への広告が表示される広告枠になります(上記イメージ図参照)

運用型広告の広告枠の内容は一定のものではなく、サイトの属性情報(例えばサイトの属性が「副業」であれば「副業」に関する広告が流れてくる)やサイト閲覧者の属性情報(過去にサイト閲覧者が見ていたサイトの広告や年代、性別、エリアに基づく広告が流れてくる)など様々な情報が加味され閲覧者に最適な広告されるような広告枠となっています。純広告とは一般的比べて比較にならないほど多くの広告が掲載される広告になります。

広告掲載を希望した管理者側でもどのような広告が掲載されたかは確認することが可能ですが、数が膨大なため1つ1つチェックしブロックしたりすることは現実的ではありません。

今回はおそらく「現実的ではない」と判断され、いったん広告枠がなくなったものと思われます。

悪いのは広告媒体なのか

今回の騒動のポイントは、気象庁が広告枠を設置したものの、僅か20時間でサイト上から広告枠がなくなり「不適切な広告の掲載があった」という公式発表があったという点にあります。

広告媒体側にも当然広告主が入稿した広告を審査するフローがあり、媒体別によって差はあるもの審査基準は存在しています。以下は公開されている主要な広告媒体の審査基準に関するヘルプです。

しかし気象庁の基準はそれよりも厳しく、そのため広告枠が一時的に撤去されたものと考えられます。広告設置の審査申請などのフローもあったはずなのに、このような行き違いが発生してしまったのは残念でなりません。

事態はどの程度予想できたものなのか

次に事態はどの程度予想できたのかについてですが、まず上記したような公式ヘルプは公開情報です。そしてそれらを事前に参照し、どのような広告が配信することが禁じられているかは確認できたはずです。

また他にも運用型広告の広告枠を設置しているサイトやブログなどは多数ネット上に存在しています。そのためそれらを確認することで容易にどのような広告が配信されうるかはある程度は予想ができたのではないかと考えられます。

気象庁は本来どのように振舞うべきだったのか

結論から言えば気象庁は本来「運用型広告」ではなく「純広告」の広告枠を設置すればよかったのではないかと思います。

気象庁による「適切な広告」がどのようなものだったのかはわかりかねますが、純広告であれば事前に入念な審査が可能だったはずです。

また気象庁のようなWebサイトは他の有象無象のWebサイトと違いユニークな存在であることからとても価値も高く、広告出稿者側からしても「気象庁に広告を掲載している」というのは価値があるため純広告として広告枠を売りに出しても高値で掲載を希望する企業は多く存在したのではないかと考えられます。

特に「気象」と相性の良い産業に携わっている企業にとってはかなり魅力的な広告枠となったはずです。例えば「旅行」や「観光」などは気象とすごく相性が深く、「投資」なども間接的に関わってきますし「農業」なども深い関わり合いがあります。

「純広告枠を募集したけどダメだったので運用型広告の広告枠を設置した」ならまだわかるのですが、今回はそうではなく初動を大きく誤ってしまったように感じます。どなたかウェブ広告に関する知識に精通した人が1人でもいれば結果は変わってきたと思うのですが...。

最後に

日本の行政機関が公式サイト上に広告枠を設置するという、日本ではかなり先進的だった取り組みがなされたのに対して、結果としては僅か20時間で広告枠が取り消されてしまい、このような形で報道されてしまったのがとても残念です。

広告枠の性質や行政の意向、独自の判断基準など、様々な情報を加味し、予測しながら橋渡しできる人が1人でもいれば結果は大きく変わったと思うのですが、残念でなりません。

そもそも気象庁が発信する気候に関する情報は、時に人命にも深く関わる重要な情報です。そのような重要な情報を発信する行政機関の公式サイトが経費削減で自前で運営費を捻出する必要性がある現実もなかなかに世知辛く、そしてそのようなサイトに無数の広告が配信されうる広告枠を設置するリスクについて慎重な検討する余地はもっとあったのではと個人的には思うところもあるのですが...これを機にウェブ広告全般が悪者として敵視されないことを祈っています。

追記(2020.10.2)

その後気象庁が運用型ではなく、広告主を絞り込む「純広告」の形式で再検討しているとのニュースが飛び込んできました。良かったです。

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