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大きな木

大きな木。

そこは、いつも動物たちが自然と集まる場所だ。

小鳥が鳴き、もぐらが土を掘る。狐が顔を出し、仔犬が木の周りを走り回る。

大きな木はいつもみんなを見守っていた。

ほらほら、もうすぐ雨が降る。

大きな木は、みんなに優しく知らせてくれる。

ポツリ、ポツリ

雨が降り出した。

ありがとう。ありがとう。

動物たちは、木の下に逃げ込んだ。

ザーザー、ザーザー。

雨は、どんどんとひどくなる。今までにない大雨だ。

怖いよ、怖いよ。

心配ない、心配ない。

大きな木は、みんなに言った。

ゴー、ゴー。

しばらくすると、木の周りには水が流れ出す。

大変だ、大変だ。

動物たちは急いで木に登る。

大丈夫、大丈夫。

大きな木はそう言って笑った。

雨は、続く。動物たちは、みんな震え上がった。

シトシト、シトシト。 

どれくらいの時間が経っただろう。雨はようやく小降りになった。

動物たちは、ホッとする。

シュー、シュー。

水が少しずつ引いていく。

晴れ間が見え、空に七色の虹がかかった。

もう安全だ。

大きな木は、そう言った。

動物たちは大きな木から次々に下りて行く。

ありがとう、ありがとう。

大きな木の返事はない。

ねぇねぇ、どうしたの。

最後の仔犬が下りると、大きな木は、それを見届けるようにゆっくりと地面に倒れていった。

ウェーン、ウェーン。

動物たちは大きな木を囲んで、涙を流す。

ありがとう、大きな木。
ありがとう、大きな木。

それから、大きな木は、ここで生きる動物たちのシンボルになった。

春になると木の周りには花が咲き、冬になると動物達の寒さをしのぐ住み処になった。

動物達は、いつも大きな木の周りを囲んで笑っている。

ほら、ほら、虹が見えるよ。
ほら、ほら、虹が見えるよ。

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