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「機械設計者としての信用を高めること」について考える #内省録

何気なしにふと気になったテーマを取り上げ、自分の経験、思考、価値観と向き合いながら深堀りをしていくシリーズ。内省したものをこうして記録することで、

  • エンジニアとしての成長のロードマップ

  • 自分が取り組んでいる分野の動向の推察

  • 今後の活動に関する意思決定

のために役立てていこうというもの。要するに、思考・価値観の人間ドックである。

先日話をしたとおり、ベンチャーに来て初めての面談にて役員から、

「会社からすると、今の君はメカエンジニアとして信用が低い。この状態が続くなら減給も考えている」

という評価が言い渡された。

なんとかして成果をあげ、減給も避けなければと日々トライ&エラーしている日々を送っている。

そんな中でふと役員からの言葉にあった「信用が低い」ということ。そもそもこの「信用が低い」とは、具体的にどういうことか?これについて深堀りをしてみる。

信用が低い状態を考える

「信用」というのは「ローン組むときに審査される」・・・ではなく、役員の「エースの社員のようなスキルをメカエンジニアに求めている」というコンテキストから考えると、

その人に仕事を任せられるかどうか

というものだろう。「期待」というか「信頼」というか「安心感」というか、そんな感じ。

信用が低いとどうなるか?

ローンで言えば「貸してもらえる金額に制限がかかる」「利息が高くなる」「返済期間を短くさせられる」「ブラックリストに乗る」などの不利な条件が課せられる。

では私のような一般サラリーマンの業務においてはどんな不利な状況が課せられるのだろうか?思いつく限りだと、

  • 決裁権が与えられなくなる

  • 上司からの監視の目が厳しくなる(1時間に1回成果物を報告しろ、とか)

  • 難易度の低い仕事しか与えられなくなる

  • 給与、賞与が下がる

  • 追い出し部屋へ移動させられる

  • 自主退職を促される

このあたりだろう。

この中で私が今直面しているのは、3番目の「難易度の低い仕事しかあたえられなくなる」と、4番目の「給与、賞与が下がる」である。これを与えられた執行猶予の間に挽回しなければならないのが、私の置かれた状況だ。

「信用が高い」を因数分解してみる

じゃあ、「機械設計者としての信用を高めるためには、どうしたらいいのか?」

その答えを、ビジネス書に書かれているような一般論・抽象論レベルではなく、「自分の会社の文化」「自分の上司や同僚の性格」「自分の持っているスキル」など、自分の周囲の状況に応じて噛み砕き・具体的な行動にまで落とし込まなければ意味がない。

どうやったらいいか・・・。しばらく悩んでいたが、ある時ふと、

「問題解決のプロといえば、コンサルタントがヒントになるのでは?」

と思い立ち、情報を漁ってみる。

その中で、問題解決の手法として比較的有名なのがフェルミ推定だ(参考図書:「地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」」)。これを使って自分なりに答えを導いてみよう。

フェルミ推定とは、「一見予想もつかないような数字を、論理的思考能力を頼りに概算すること」というものである。例を見たほうがわかりやすいのだが、例えば、

  • 日本にあるマンホールの数はいくつか?

  • 東京都にあるラーメン屋の数は何店舗か?

などといった問題を、ググったりすることなく短時間で推定する。外資系企業に就活すると採用面接などで実施されることがあるようだ。そこで出される問題は「そんなもん知るか!」と言いたくなるものばかりらしいが、問題をうまく因数分解し、「自分の知っているデータ」や「想像が付きやすい要素」に落とし込み、そこから論理的に答えを導き出す必要がある。

ポイントは「因数分解」である。哲学者デカルトも「困難は分割せよ」と言っている。

まず、「機械設計者としての信用を高めるためには、どうしたらいいのか?」という問題設定を、「機械設計者としての信用が高い、イコール」の形に設定直す。

そして、自分なりに因数分解をした答えは以下の通り。

機械設計者としての信用が高いこと
=「ものごとを考える力」
×「機械設計スキル」
×「コミュニケーション能力」

である。

「いくつか得意なことがあっても、どれか一つ0点があれば信用が低くなる」と感じたので、掛け算で表している。

一方で、以前「社内で評価されやすい機械設計者の特徴」という動画をアップロードしたのだが、

この動画では、

  • 課題発見力

  • 理論の力

  • 現場力

  • コミュニケーション能力

  • ギブ力

の5つの要素について、全てが及第点以上であることが重要であると解説した(及第点が何点なのかは、会社や部署によって異なる)。

こちらは動画で解説がしやすいよう5つの因数に分解をしているが、さきほど3つに因数分解した内容との齟齬はない。

ここから更に深堀りをしてみる。

ものごとを考える力

これは単純に「学校のテストの点数が高い」とか「学歴が高い」とかそういう能力ではなく、一言で言えば「地頭の良さ」。もう少し自分なりに因数分解すると、

「ものごとを考える力」
=「問題設定能力」(「上司に言われたから」とかで仕事するのはなく、自分が解くべき問題を見極めて、問題設定する能力)
+「仮説を立てる・見積る力」(問題を解き始めたり情報収集する前に、自分なりに問題の答えを予測し、問題解決の範囲を絞る能力)
+「グラデーション的思考力」(「AかBか」「0か100か」という二元論ではなく、「AとBのいいところ取りをしたCが存在すると認める」「0と100の間には無限の小数点が存在すると認める」考え方)

である。

研究職や企業の経営者として活躍している人たちには、このような能力が高い人達が多い気がする。「もっと考えて仕事しろよ!」と周りの人からよく言われる人や、メディア・SNSの情報によく翻弄される人とかは、こういった能力を見直すことが重要なのかもしれない。私も研究室時代は「ちゃんと考えろ!」といつも教授に怒られており「何をどう考えたらいいのか」が全くわからないでいた。

機械設計スキル

続いて機械設計スキルは、純粋な機械設計をするための能力のことで、同業の人なら要素を想像しやすいと思う。因数分解をした上で係数を設定すると、

「機械設計スキル」
=構想設計能力(製造ラインのレイアウト構想、原理試作用 or 開発用 or  納品用の中から、目的に応じてコンセプトを変化させる)
+「板金部品の設計能力(溶接ものは含まない)」
+「切削部品の設計能力」
+「金型の設計能力」
+「溶接ものの設計能力」
+「モータ駆動系の選定・計算能力(ベアリングや軸ものも含む)」
+「エアー機器の選定・設計能力」
+「機構の設計能力(カム・リンク・ギア・ベルト)」
+ユーザインターフェースの設計能力(安全性・清掃性・使いやすさ)

どういった業界向けの機械なのかによって、この中でも全く使われない知識も存在するだろう。特に、金型を設計する人なんて少数派なんじゃないかな?ただどんな機械でも、駆動系の設計と機構の設計は必要となるから、そこ優先度は高そうだし、手がつけやすいところでもあるから、ここからやっていくのは良さそうだ。

一方で、構想設計能力の向上についてはなかなか難しい。私は納品用はたくさん経験、開発用はそこそこ経験をしてきたが、原理試作の構想設計は苦手意識がある。

原理試作では、とにかくアイデアの質や量と、それを検証するスピードが命になる。ベンチャーでは、「アイデア出し→検証→結果報告」までの流れをおおよそ2~3日で行う。それ以上かかると、上司から「遅い」という指摘がくる。大企業だと10日は平気でかかるような内容だ。

2~3日で行うので、部品発注をしていては間に合わないことが多い。なので多くは3Dプリンタで刷った部品や、社内に転がっているアルミフレームで「装置」というよりは「ジャングルジム」状態の架台等を使って行う。納品用ではないから、耐久性はいらないし、配線がぐちゃぐちゃでもとりま動けばOKなのだ。

納品用の設計とは180°ぐらい違ってくる。納品用だと

  • 「もし〇〇が起こったらやばいから、対策しておかなきゃ・・・」

  • 「メンテナンスを考慮して・・・」

と、時間をかけながら設計をしていく。基本的に一発勝負の設計を求められてばかりだったので、オーバースペック&理論武装が当たり前。が、原理試作だと、

  • 開発のテンポ感(雑な装置でもいいから最短かつ最小コストでやるのか、ある程度しっかり装置を作り込みきちんとしたデータを取っていくのか)

  • 論理と実践のバランス(どこまでを理論で突き詰め、どこまでを実践で突き詰めるのか)

  • 失敗が許容される範囲のバランス(失敗を許容し限界を攻める設計をするのか、失敗を許容せず信頼性の高い設計をするのか)

を即座に協議 or 判断をする必要がある。つい先日、私が設計した装置のレビューを社長にお願いした時、「壊してもいいから、もっと無駄な部分を削ぎ落とせ」と言われたのは大きな衝撃だった。このスピードに合うように頭と手足を動かしていくのがなかなか大変なのだ。

コミュニケーション能力

最後がコミュニケーション能力について。

コミュニケーション能力=
+「文脈力」(結論だけで見て判断・意見するのではなく、その結論に至るまでのコンテキスト・背景・理由を含めて理解する)
+「論理的思考力」(情報を矛盾がないよう筋道を立てて整理し、構造的に理解をしたり、情報を人にわかりやすく説明する力)
+「交渉力」(上司やお客さんの指示をそのまま実行するのではなく、全体最適のために、時には別の方法を提案をする)

あたりかな。そもそも、私はコミュニケーションスキルが低いのだが(ストレングス・ファインダーのお墨付き)、ただ言い訳はせずどうにか高める方法を模索しなければ。

コミュニケーションはかなり奥が深く、それは会社文化への理解のレベルまでやっていく必要がある。よく外国人とのコミュニケーションの話で「異文化交流、異文化理解」という言葉が出てくるが、まさにそれが重要なのである。大企業とベンチャーとでは「あれ?ここは違う国なのかな?」と思えるほど文化が違う。

その代表格が「一般の会社でいう組織体制が機能していないところ」だ。

私がいた大企業では、組織体制図があることはもちろん、それに紐付いた業務フローがしっかりあった。

  • 「まず〇〇という書類を受け取ったら、スケジュールと出すべき成果物を確認する」

  • 「期日までに〇〇という書類を作り、チェックリストを添えて部課長に提出し、承認をもらう」

  • 「xxという部署に書類を送り、△△という書類を発行してもらう」

という感じだ。もちろん、書類のフォーマットも決められている(ここには図面も含まれる)。なので、次に何をしたらよいかは基本的にわかるし、業務フローにないことが発生しても「誰に何を相談したらよいか」はだいたい分かる。

一方でベンチャーは組織体制図はあるものの、各役職の従業員が業務においてどんな役割をするのかは定義されていない。もちろん、業務フローもない。建前上のピラミッド構造はあるのだが、自分が社内で業務をやりとりするのは、課長だったり、役員だったり、社長だったり、他部署の社員だったり・・・と、実際にはピラミッド構造を無視して動く必要がある。

「どういう内容については、いつ誰とやりとりをすればよいのか?」については、自分で周囲とコミュニケーションを取りながら探る必要がある。つまり、

  • 自分が必要だと思ったタイミングで、

  • 必要な人に、

  • 必要なことを報連相していく

といったように見極めながらやっていく必要があり、上司はそれについてのマネジメントはしない(建前上のプロジェクトマネージャはいるのだが)。一見関係ないと思った内容でも、実は社長に直接相談しに行くのが正解だったということもよくある。そのコミュニケーションの加減・程度は周りに聞いても誰も答えを持っていない。さらに社内だけではなく、ベンダーや客先との内容についても同様だ。

自分のコミュニケーション能力が低いのが原因の一つだというのは間違いないが、この前エースの社員と話をしたときに

「僕も昔、社長とやりあったことがあって・・・最近はそこそこ上手くやりとりできるようになってきたんですけどねー」

と話をしていて、みんな苦労してきたんだなぁと思った。

「そんなんで仕事が回るわけがないじゃないか!」
「そんなの組織として成立していないじゃないか!」

と思う人もいるだろう。実際私はそっち派だった。でもだんだんと「あぁ、自分は違う国に来たのだな。自分が異文化に適応していくしかないのだな」と腹をくくる気になれた。

腹をくくる

  • 「ものごとを考える力」

  • 「機械設計スキル」

  • 「コミュニケーション能力」

機械設計者としての能力といえば?という問いに対し、みんなが思い浮かべやすいのは「機械設計スキル」だと思う。でもパッと見では目立たないし、測定するのも難しい「ものごとを考える力」「コミュニケーション能力」も重要なスキルであり、1つ足りとも欠かせない能力だと私は思った。そしてそれこそが「機械設計として信頼が高い」ということだと思う。

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