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ニュー・クィア・シネマの隆盛:レズビアンによるレズビアンのためのレズビアン映画『Go Fish』

‘The girl is out there’

私のNOTEのプロフィールの写真はモノクロの女性ふたり。
この写真を見てピンと来た方がいたら、ぜひお友達になりましょう!

この写真に映っているのは(もちろん)私ではなく、私が最も愛する映画のうちのひとつ『Go Fish』 のワンシーンのショットから拝借しました。

 以下の内容は数年前(ほぼ10年前)に某ブログで書いた記事を元に、映画批評要素+個人的なあれこれを少し加えてアップデートしました。今回リサーチして驚いたのは、この映画に関する日本語での情報があまりにも少ない…!ということで、『Go Fish』の知名度アップに貢献する目的もあります。


New Queer Cinema(ニュー・クィア・シネマ) の波が来た90年代初頭

アメリカ映画批評家B・ルービー・リッチ が提唱した「New Queer Cinema」(ニュー・クィア・シネマ)というムーブメントのひとつという前知識を持って鑑賞したのが『Go Fish』でした。

1990年代初頭、サンフランシスコやサンダンス、トロント、ベルリンなどの都市で開催された国際映画祭ではクィア*たちの物語を大胆に描いた映画がいくつも評価されました。ちなみに、1992年には第1回『東京国際レズビアン&ゲイ・フィルム&ビデオ・フェスティバル』が開催されました。

『「クィア・ポリティクスとポリティカル・コレクトネス -「生の保障」と「アンチ・ソーシャル」との間で-』の中で、清水晶子氏は

と表現しています。

『Go Fish』の場合は、監督のローズ・トローシュと脚本・主演のグィネヴィア・ターナーがB. ルービー・リッチの記事をSight & Soundで読んだことがきっかけでレズビアン映画をつくろう!と思い立ったんだとか!**

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それからインデペンデント製作故の資金難やトラブルなど、いくつもの苦労を経てなんとか完成した『Go Fish』は、1994年のサンダンス映画祭のGrand Jury Prize にノミネートされたことがきっかけで、フランスのドーヴィル・アメリカ映画祭にも出品されました。同年の1994年のベルリン国際映画祭では、Teddy Awardで最優秀長編映画賞を受賞。それだけではなく、LGBTQ+コミュニティに貢献したメディアや人物を称える賞であるGLAADメディアアワードで最優秀長編映画を受賞。1995年にはインデペンデントのフィルムメーカーの賞であるIndependent Spirit Awardsにもノミネートされます。


*シスジェンダーで異性愛を規範とみなす社会では逸脱したとされるセクシュアリティやジェンダー
** Fish Story, Filmmaker Magazine より

リアルに生きる、アメリカのレズビアンたちの物語

製作裏話に読むと、映画に出演したキャスト達はトロ―シュとターナーが地元で素人たちをスカウトしていったそうです。予算のなさ故のこの選択が、結果として映画にオーセンティックな要素をプラスし、なんとも味のある仕上がりになっています。カラーではなくモノクロの画像も予算故の選択だったそう。それがアートシネマ「っぽい」仕上がりになっていますよね。

Girl Meets Girl というシンプルなストーリー

ストーリーは主人公のMaxが新しい恋人、Elyと出会って恋人同士になるまでの話なのですが、そのMaxを中心にあるレズビアンコミュニティーを描いているところが80年代に公開された『Desert Heart』とはまったく違うテイスト。「リアルだな」と思ったのは主人公のMaxとElyがお互いに惹かれていく過程が丁寧に描かれているところ。実はMaxが恋人候補として友達からElyを挙げられたときには、彼女のことを「UGLY~笑」とか言ってて笑。しかし、その後のやりとりを経て彼女の人間性に惹かれていくプロセスが描かれているのが いい。私の持論、『恋愛にはギャップが大事』というのに合っています!笑。 

その他、友達同士で集まって、誰かいい人いない~?とか、あの子はあの子が好きみたいよ、あの子とキスしたみたいだけど、どうなのよ?とかガールズトークに興じるところは、ほかの恋する若者たちの青春映画と同じように、甘酸っぱい心地よさを与えてくれます。

特に みんなで集まってディナーするシーンでは、みんなでお酒飲みながらHave neverゲーム?(今までしたことのない行為(主にセックスがらみ笑))してるときに、恋人未満な微妙な関係にあるMaxとについて突っ込んだ質問する子がいたり、と仲間内でのやりとりがよくありそうな光景で面白かったです。

製作は、監督のRose Trocheと脚本のGuinevere Turner (主役のMAX役でもある)は撮影当時恋人同士だったけど、撮影中に別れてしまい、その後は気まずい雰囲気だったそうです笑

脚本のGuinevereはL の世界を観ていた方ならお分かりかもしれませんが、シーズン1でアリスの元彼女としてちらっと出ていた気まぐれ女、ギャビーです!

ブッチなレズビアンたち

公開が1994年という時代のせいなのか、それともたまたま製作者の周りがこうなのか分からないのですが、 出てくるキャストのほぼ全員がブッチ(スカートとか履かない。髪型も短い、いわゆる男っぽい格好)。

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そんな「等身大」のブッチたちがたくさん見れたのが楽しかったです。

一見ださい、というかふつうにださ(笑)彼女らのファッションが気になりました。髪刈り上げてる人ばっかで、Tシャツに半ズボン、キャップ、スニーカーというダサかわな格好が個人的にとてもツボ♪ そして今もわりと流行ってますが黒縁の伊達めがねをかけているブッチたちがいて)。しかもほぼ素人のため他の女優のように容姿端麗、でわけではない。

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よく言われのるが、大ヒットしたドラマ、「Lの世界」はフェミニン系が多すぎてレズビアンコミニティー的には違和感がある、とか言う意見もあったようです。それには私も同意...。(でも大好きなドラマです!)

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それとは別に、この映画に出てくるブッチな恰好、単純に個人的に好みのスタイルだったりするのです。セクシュアリティによってだからこういう格好を「すべき」、とかは全く思ってなくて、単純に、周りに媚びてないそのそっけない感じがいいなぁ、好きだなぁ、感覚合うな。と思います。私はお化粧も好きなので、口紅を塗っていてロングヘアの女性も素敵だと思いますが、そういう方達よりもブッチ女性の恰好のほうが(逆に)セクシーだと感じます。「セクシー」とは何か、という議題についてはいつか持論を展開したいと思っています…。


この映画は映画学を勉強していた頃の気持ちを思い出せてくれる、プラス、20代の頃のもどかしい、切ない気持ちを思い出せてくれる、青春映画であり、私の姿勢を正してくれる、何というか、アイコン的な存在となっている作品です。

参考文献など

▶B. Ruby. Rich, "New Queer Cinema", Sight and Sound, (from 1992 September issue) (updated 25 June)  
B・ルービー・リッチの記事は以下に記した本の第2章に載っているのですが、この本を買わなくともBFIのウェブにて単独の記事が公開されているのを発見しました。リンクは上記の"New Queer Cineme"に付けました。

▶New Queer Cinema: A Critical Reader (Edinburgh University Press, 2004)『Go Fish』のカットがカバーになっている…!イギリスでの学部生時代、図書館で借りてよく読んでいた本です。

▶Jude Dry, 'The 15 Greatest Lesbian Movies of All Time, Ranked' , Indie Wire (May 8, 2017)

1990年代初頭の「ニュー・クィア・シネマ」。性的マイノリティの欲望や物語を堂々と、ときに激しく描いた作品群が国際映画祭で評価され、「ニュー・クィア・シネマ」と名づけられました。

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