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TUGUMI


#どこでも住めるとしたら

どこでも住めるとしたら・・
条件など何も考えず、経済的な縛りも一切なく、思い通り願いがかみはとしたら間違いなく即答で「西伊豆」。
1989年に発行された吉本ばななさんの著書に「TUGUMI」という作品がある。元々吉本ばななさんの大ファンであったところに、思春期の自分と重なる心の不安定さ、危うさ、素直さやひたむき(良くも悪くも)さを描いた作品だったためとても心に響いた作品で、何度も何度も読み返しては西伊豆に憧れを持った。将来は思い切って西伊豆に住もうかな・・社会に出たらとにかく西伊豆出身者と知り合いになりたいな・・現在ならSNSを活用してすぐにでも西伊豆の方と交流できそうなものだが、当時の情報収取の手段といえばテレビ・ラジオ・雑誌くらいのものだった。Googleマップもインターネットもまだ普及しきっていない頃。だからこそ本の中にある見知らぬ西伊豆への妄想と憧れは大きく大きく膨れ上がって私を虜にした。その数年後にはJRのCMで大人気だった牧瀬里穂さん主演で映画も公開されたが、この映画がまた私の妄想力を爆発させた。

海辺の風景

波の音

潮のしぶき

街のあり方(山の暮らしの形とはあり方そのものが違う)

つぐみ(牧瀬里穂さん)の美しさ、儚さ、危うさ

映画かよ!!
映画だ。
何度も何度も見返したVHSのテープがすり減るうちに、画面に映し出された都会すぎず田舎すぎないちょうど良い憧れの西伊豆は、妄想していたつぐみのような儚い生き方は、もはや手の届きそうな憧れを通り越して現実ではない決して手に入らないものに変わってしまった。多分、私自身が田舎の呪縛にかかってもう憧れを持って生きることをしなくなってしまった。

あんなにハマった本や映画の「TUGUMI」や「つぐみ」も、成長するにつれて生活で精一杯になり、その存在を忘れて厳しい現実をただ生きるだけの日々になった。そんなある最近、ぼんやりみていた電子書籍の検索場面に「TUGUMI」が出てきた。一瞬時間が止まって。何度も読んだ文庫本カバーのタイトル部分が少し破れてきたのがショックで、裏面からテープで貼ってたなーなど、どうでもいいことを思い出した。もちろんすぐ読んだ。あぁ電子書籍よ、素晴らしい機能だ。
残念なことに過ぎ去った思春期について共感したり、子供達の思春期と重ねて大いに寄り添ったりすることはできたものの、当時感じたような憧れの気持ちは全く無くなっており、それでも未到着西伊豆への興味と終活に向けての思い出採集のヒントにはつながった。きっと当時の私は長男極上主義に素早く嫌気を感じており、女の子供にも尊厳があるべきと考えていたのだろう。その言葉を、発する場所を知らななはっただけで。だから性悪さを前面に出してでも注目を浴びるつぐみを羨ましいとさえ思っていたのかもしれない。

もう人生を折り返すところまできた。これをご縁と思っていっそ西伊豆へ移住しようか。
それを可能にできる人間には、なれたように思う。

川沿家


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