見出し画像

Private Peaceful

スピルバーグ監督の『戦火の馬』の原作者としても知られる児童文学作家Michael Morpurgoの作品をElle Whiteの演出で舞台化。2022年2月から6月までイギリスの地方都市で上演されています。後に販売する一般席の値段を事前に知らせず高額のVIPチケットを先行販売するというThe Rolling Stonesチームの戦略にはまってしまい、高額チケット(6月のリバプール公演)を買ってしまったこともあり、節約のため開始40分前に一階(stalls)後方の安い席をネットで買いました。(ローリング・ストーンズのリバプール公演とハイド・パーク公演は販売後数日経ちましたがまだまだ余裕がありそうです。)セクションの一番後列に6〜7歳位?の男の子とお母さん、その前の列に私が座っていると、劇場の人が「このセクション(25名位?)の前方は誰も買っていないので、freeで座席のupdateをしますよ」と言ってくれ、3人で前方の良席に移動しました。(10ポンド分得しました。)ありがたや。子連れが多く、エイジ・ガイダンスは9歳以上とのことでしたが、それ以下の子供達も多く見かけました。

(ここからネタバレが含まれています。)

WWI中、戦地のフランスの塹壕でドイツ軍の攻撃に怯えるイギリス軍の一兵卒(private)である18歳のTommo Peacefulの姿と、彼の過去の思い出(父の事故死、学校での体罰、一人の娘を兄Charlieと取り合う話など)が交互に現れる第一幕と、戦場でのPeaceful兄弟の苦難を描いた第二幕で(休憩を含めて)約二時間。狐狩り用の猟犬が役立たずになったので撃ち殺すようにという主人の命令に従わないCharlieのエピソードなど、アンチ保守党的な価値観が所々織り込まれていました。観客が笑ったのは、Tommoが出会い好きになるフランスの女性に「Tommyです」と自己紹介したら、名前ではなく「兵士(=Tommy)です」と言ったのだと女性に勘違いされた場面位でした。(C・ノーラン監督の『ダンケルク』のクレジットで "Tommy" としか表記されなかったFionn Whiteheadを思い出しました。)爆発を示す音や照明やスモークが予想以上に強烈で、updateで前に座った男の子も何度か耳をおさえていました。最後は、負傷した弟Tommoの世話をするため上官の突撃命令に逆らった兄Charlieが、後にcowardiceの罪で軍事裁判にかけられ、有罪となり銃殺されるというかなり悲惨なエンディングでした。劇場を出ると知り合いらしい中年女性二人が「あら、あなたも来てたの」といった感じで "Oh, Hi" と言い合った後交わしたことばが、"Horrible!" (爆笑)と "Awuful!" (爆笑)だけだったのが印象的でした。悲惨なトーンは劇を貫いてあらわれていて、前の男の子が途中からずっとお母さんにべったりとへばりついていたのも当然のように思えました。(Don't have a nightmare, do sleep well, little lad . . .と今はもう見れないBBCのCrimewatch UKの決め台詞を心の中で唱えました. . . )

戦争をテーマにしたこの劇のツアーがスタートしたとき、ロシアのウクライナへの侵攻はまだ始まっていませんでした。ツアーのスタートが侵攻後であったのであれば、当初の脚本や演出に何か変化が起きていたのだろうか、あるいはこの日の公演はもう何か変更が加えられたものだったのだろうか、といったことをぼんやり考えながら帰路につきました。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?