幻の鬼畜シューティングゲーム『Solarian Ⅱ』について
先日、父の喜寿祝で家族の集まりがあった。父との思い出と言えば真っ先に浮かび上がるのがMacintoshである。父は企業勤めの研究職だったので、私の実家にはかなり早い段階でMacintoshのパソコンが持ち込まれていた。Appleの歴史にそこまで詳しくないので詳しい年などはなんとも言えないが、白黒画面のMacintoshもあったと記憶しているのでまぁ相当早かったのだろうと思われる。基本的には父が休日に自宅作業をするため使っていたが、私、姉、弟の三人の子供達もちょこちょこといじらせてもらっていた。Macintoshでは様々なゲームを遊んだものだった。
どれもこれも懐かしい。プリインストールされていたゲームもあったし、父が職場の同僚から入手しフロッピーディスクで持ち帰ったものも多かった(ドイツ人やアメリカ人の同僚が自宅に遊びに来たことがあるので外国人も職場に多かったのだろう)。当時私が遊んでいたゲームの中には「日本語版」というものがまったく無く、ゲーム主目的説明や操作方法説明すらも全て英語だった。小学校低学年だった私にそれを読み解くことは不可能で、いまだに「あのゲームは何が目的だったのだろうか」と謎のままになっているゲームもある。しかし、同級生達がファミコンやスーパーファミコンに熱中している最中、アングラ感とインディー感がムンムンしているMacintoshのゲームに没頭するのはなんとも言えない孤独な愉悦があった。どういうわけだか、私の両親はファミコンやスーパーファミコンなどの「テレビゲーム」を子供に買い与えない主義であり、私がひねくれ者になった原因の大部分はMacintoshにあるのかもしれない。
さて、本題に入ろう。『Solarian Ⅱ(ソーラリアン ツー)』である。
1990年、私が7歳の時にリリースされた『Solarian Ⅱ』は当時私が熱中したゲームの一つで最も思い出深いものだ。特に、悪ふざけのような各種SE(効果音)は実に魅力的で、30年間耳にこびりついていた。このゲームについて思い出を共有できるのは姉と弟だけだったが、中学生の時に出会ったM君というクラスメイトだけが「それ俺も遊んでた」と言っていて、自分以外の人類が全滅した地球で最後の生き残りに出会ったような感激があった。彼のお父上もたしか研究者で自宅にMacintoshがあったそうだ。その後『Solarian Ⅱ』について誰かと語ったことはない。試しにGoogleで検索してみても日本語のページは一切出てこない。しかし、なんとなくだが日本に100人くらいはこのゲームの鬼畜性を知る者がいるのではないかと推測している。今後、その数少ない人達が「そういえばSolarian Ⅱってあったよな」と検索した時にこのテキストに辿り着くことを祈って、このゲームについての記憶を残しておきたいと思っている。なぜそんなことを思ったのか、というと先日Youtubeでこんな動画を発見したからである。
2023年7月にアップされた『Solarian Ⅱ』全クリ動画なのだが、動画説明欄を翻訳してみるとこう書かれている。
29年間かかったそうだ。何やってんだよアンタ。これでお分かりいただけたかと思うが、とにかくこのゲームは悪魔の如き難易度なのである。攻略サイトもwikiも当然存在しなかったあの時代、何ステージまであるのかすら分からなかったが、この動画のおかげで全17ステージであることが判明した。ラスボスの姿も初めて目にすることができた。当時の私はステージ11くらいまで行っていた記憶があるので、まぁ半分以上は到達していたことになる。
『Solarian Ⅱ』は一見よくあるスペースインベーダー系のシューティングゲームで、その面の敵を全て撃ち倒すことで次のステージに進むという単純な構造である。しかしながら、敵キャラはそれぞれの攻撃パターンを独立したランダム性で仕掛けてくるので、優しさというものがまるでない。自機(=これがソーラリアンという名前らしい)を破壊するためだけの殺戮マシーン達である。「どうやっても詰み」という状況が当たり前のように発生する。ステージ11まで到達したと言っても、ステージ1でもボコスカ死ぬ。さらにアイテムによるパワーアップもランダム性に左右されるので8割運ゲーと言っても差し支えない。その上、操作性がクソ悪い。自機の移動はマウスの左右移動、通常弾の発射はクリック(ホールドで連射状態維持)というのが基本操作なのだが、マウスポインタが画面外に出てしまうと自機が停止するので、まずこれに慣れる必要がある。
ステージ1〜4までは同じ敵キャラセットが配置を変えて登場、同様に5〜8の敵キャラセット、9〜12の敵キャラセットが存在し、13〜16は1〜12までの敵キャラが混在して登場。17でラスボス、という流れになっている。前述の通り、全クリ動画のおかげで私も30年を経てその全体像を知ったわけだが。
プレイしたことがある人ならば誰でも分かってもらえると思うが、ステージ1-4に登場するこの敵キャラクターはトラウマとして記憶されている。
「ペンタゴン」という名のこの五角形野郎は、ランダムなタイミングで急降下し、自機がいる方向へ直角に曲がる。こうなってしまうと自機は逃げる術を失う。ゆえに、ステージ開始直後にいち早く破壊するか、あるいは急降下を開始した瞬間に自機を逆方向に移動させる必要がある。急降下タイミングはマジでランダムなので、開始直後に降ってくることもあるし、どうやっても逆方向回避が絶対不可能なタイミングでも容赦なく襲ってくる。少年期の私にとって『Solarian Ⅱ』とはこの五角形野郎との戦いだと言っても過言ではなかった。まさに死屍累々の元凶。
が、しかし。
動画を見ていて鼻水が垂れるほどの衝撃を受けた。「シールド」機能があったのだ。これならばペンタゴンが直角に曲がった後も弾くことができる。まさかこんな機能があったとは。いや、たしかに画面上部のステータスバーに謎のゲージはあった。が、それをどう使うのかさっぱり分からなかったのである。私はこの衝撃の事実をM君にLINEしてみたら、彼も大層驚いていた。彼もまた五角形野郎の犠牲者なのだから。その他にも「ミサイル」や「シザーズ」などのサブウェポンが存在することが発覚。いや、謎のアイコンがあるとは思っていたが、使い方が分からなかったのだ(後に判明するが、キーコンフィグの初期設定が割と謎で、説明を解読しない限り使い方など分かるはずもなかった)。さらには各アイテムの効果など、動画で初めて知る事実がわんさかわんさか。
全ての仕様を把握した上でならば、40歳の私は全クリ可能なのではないか…?そういう気持ちが一旦芽生えると、とにかく『Solarian Ⅱ』をプレイしたい。30年ぶりにあのバカSEを聞きたい。そこで私は動画にコメントを書いた。
すると返信があり、なんと「Infinite Mac」という当時のMacを再現したブラウザエミュレーターで遊べると教えてもらった。あの『Solarian Ⅱ』を再びプレイすることができる日がついに来た。
「Infinite Mac」についてはこの日本語の記事で概要は把握できる。
PCブラウザでこちらにアクセスすると、当時のMacが立ち上がる。「Game」というフォルダを開き、カーソルを下の方へ移動すると「Solarian Ⅱ」というフォルダがあるのでその中のアイコンをダブルクリックすればユーザー登録画面が出て、名前を入力すればゲームが起動する。ヘッヘッヘィーイ!!
この画面でマウスをクリックするとゲームが開始されるのだが、まずは「?」キーでヘルプを読むことをおすすめする(全部英語なので頑張って翻訳してほしい)。さらに重要なのが前述の「シールド」「ミサイル」「シザーズ」などを使うためのキーコンフィグを必ずすること。正直「ミサイル」と「シザーズ」は使い所がよくわからんというか、使ってる余裕がないので「シールド」だけ一番推しやすいキーに設定しておいた方がよい。キーコンフィグはこの画面でCommad+Kを押せば設定可能だ。
で、30年ぶりにやってみた。
超懐かしい!SE最高!こんな敵いたなぁ!!シールドやべぇ!!!ボーナスステージ超重要じゃん!!!とひとしきり感動したのだが……。
こんなん全クリできるわけがねぇ。
狂ったようにリセットを繰り返して何度も何度も挑んだが、むしろ仕様を完全把握した分、ランダム性に依存しまくっているゲームシステムの真の鬼畜性が炙り出されて40歳の心は折れた。結局少年時代と同じくステージ11が限界だった。
だいぶ長くなってしまったのでそろそろ締めるが、いわゆる「シューティングゲーマー」と呼ばれる人達は果たして『Solarian Ⅱ』を全クリすることができるのだろうか。たしかに画面の見た目は『怒首領蜂』に代表される弾幕系シューティングとは比較にならないほどのシンプルさだが「なんらか回避できる余地が設定されている」というゲームとしての正しさが『Solarian Ⅱ』にはまるで無い。こういうゲームを、ガチのシューティングゲーマーがどう攻略していくのか大変興味がある。誰か挑戦してみてほしい。頼む。
参考:
『Solarian Ⅱ』のゲームクリエイター「Ben Haller」氏についてはこちら