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短編小説

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きりぎし(短編小説)1/4

きりぎし(短編小説)1/4

(昭和世代 或る夏の夜の夢)

 ごく簡単に、すすめよう。

 去年の夏といえば、梅雨に雨が降らなかったり、と思ったらまた、大雨にもなったりの、へんてこな夏であったが、これは、その時分の話である。(と、男は数十年前、筆者に語り出した。)

 私は六月に学校を放り出されていたくせに、学生だといつわって、一カ月ほどアルバイトをした。奇矯な精神の時期でもあって、仕事のことなどまるきり頭にはなく、といって

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