実体験⑨歩くリハビリ

「立ってみましょうか」

理学療法士にそう言われ、窓辺に手をかけ、立ち上がってみた。

立てた。

車椅子の高さからは、空しか見えなかったが、立つと、病院の向かいの建物や、交差点を行き交う車が見えた。

ICUの世界と、外の世界、、、。
こんなにも景色や流れる時間のスピードが違うのかと思った。

「歩行器を使って歩いてみましょうか」

キャスター付きの歩行器に体を任せると、前に進んだ。

そのまま前に進み続けた。

「すごいですね!スピードもありますね!」

自分でも随分早く歩けると感じた。
足がスイスイ前に進む。

このまま歩行器をはずしても歩ける気がした。

トイレがあった。
なんだか少しトイレに行きたくなった。

呼吸器をくわえながら、メモ帳に筆談で

「トイレに行ってみます」

人工呼吸器は一旦止めてもらい、看護師さんと一緒にトイレの中に入った。
沢山の点滴は、止めることはできないから。

大人になって他人と一緒に同じトイレに入るのは躊躇ったが、仕方ない。

恥ずかしさより、必死さで、用を済ませトイレから出た。

「歩いて手を洗いに行ってみますか?」
理学療法士が提案した。

できそうだった。

歩いて20歩ほど先の手洗い場に進んだ。

歩行器なしで歩けた!

リハビリ2日目!
みんな驚いたと同時に喜んでくれた!

人工呼吸器をつけたまま、歩くリハビリ!
倒れ入院、ICUに入って10日目!

倒れる前より、軽やかに足が前に進んだ!

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