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アニメーション台本【招かれざる恋人たちの夏祭り】#新しいジブン #シロクマ文芸部

♢はじめに
#シロクマ文芸部  の新企画、#新しいジブン として投稿させて頂きます。

新しいジブンということで、過去に書いた小説をベースに、アニメーションの台本を書いてみました。
私の頭の中には確かにあるんです……。このアニメーション作品が……。

本作のベースとなった拙作はこちらです。


巧い下手はまずは棚上げして、とても楽しく書けました。
小牧幸助部長、企画を立ち上げてくださり、本当にありがとうございました。

それでは、以下、お楽しみいただけましたなら……!

♢登場人物
イセ:十七歳、海沿いの町に暮らす、高校二年の少女。代々、夏祭りで神楽舞いをする家に生まれる。真っすぐな腰まである黒髪と、漆黒の瞳の持ち主。夏祭りのトリである天女の神楽舞いを初めて任される。

草介:イセの幼馴染。十七歳の少年。明るく澄んだ褐色の瞳をしている。イセのことを、「いーちゃん」と呼ぶ。

セツ:イセの祖母。七十七歳。少女時代に、神楽舞いのトリを務めた経験を持つ。民間伝承の語り部。

異形いぎょう:夏祭りに紛れ込んだ「招かれざる者」。平安末期の武士。海での合戦で命を落した。恋人の伊勢を探して、天女の神楽舞いを見に訪れる。

伊勢:異形の恋人。平安末期の女性。恋人が迎えに来てくれるのを、死んでからもずっと待ち焦がれている。

♢イセとセツばあちゃんの、朝の舞の稽古
   波の音
   朝の海、水面、輝くさざ波
   海を臨む高台、朱の鳥居の前の石畳
   舞の稽古をするイセとセツ
   イセのポニーテールが揺れる
   舞を終えてタオルで顔を拭くイセ
セツ「イセ。よく聞くんだ。今からばあちゃんが言うことは、誰にも言ってはいけないよ」
   顔を上げるイセ
   イセの顔に木漏れ日、光と影
セツ「ほんとの昔、大昔にはね、神様と人間はすぐ隣り同士で暮らしていたのさ」
セツ「神様ってのは、いつもニコニコしてるわけじゃあない。突然へそを曲げて、人間たちを苦しめることだってある」  
   セツ、海を見て目を細める
セツ「時にはね、大水や干ばつ、地震なんかを起こして、村人たちを苦しめて喜んだんだ」
セツ「だから、人間は、お供え物として、神様に捧げものをした」
セツ「村人を災害から守るために、若い娘を捧げたのさ」

   セツの目が光る
セツ「ある時、村の勇敢な若者が、命を懸けて神様に直訴した。もう村の若い娘を生贄に出すわけにはいかないとな」
セツ「若者の勇気を認めた神様は、生贄の代わりに、毎年の夏祭りで、若い娘に神楽を舞わせろと仰った」
セツ「それから毎年、この村では、若い娘に神楽を舞わせるようになったのさ」
   セツ、イセの両肩に手を置く
   イセ、キョトンとしてセツの両手を交互に見る
セツ「その娘が、お前なんだよ、イセ」
   イセの漆黒の瞳のアップ
   瞳に、セツの顔が映る
イセ「ばあちゃん……。それ、ほんとの話?」
   セツ、何度も深く頷く
セツ「お前は、神様に選ばれたんだ。イセ」
セツ「ばあちゃんも昔、娘の頃に、神様に選ばれて舞を舞ったのさ」
イセ「ふーん……」
   セツ、イセの肩を強くつかむ
セツ「これだけは覚えておくんだ。イセ。祭りには、必ず『招かれざるもの』が訪れる。お前には、もう見えるはずさ」
   セツの瞳が大きく開き、イセを映す
セツ「『招かれざるもの』には、決してついていっちゃあいけないよ」
   イセ、のけぞって大笑いする
イセ「大丈夫! 大丈夫だよばあちゃん!」 
イセ「幽霊なんていない! 今、令和だし!」
   セツ、眉をひそめる
イセ「学校、遅刻しちゃう。私行くね!」
   イセ、鳥居の傍に置いてある水色の自転車に飛び乗る
   イセ、勢いよく自転車を漕ぎだす
セツ「あ! こら、まだ話は終わってねえ!」
イセ「いってきまーす!」
   海辺の美しい漁師町
   高台から自転車で一気に石畳の道を下るイセ
   イセの髪の毛が、海風になびく
イセ「へんな話。ばあちゃん、どうしちゃったのかな」

♢イセが通う高校、草介とのやりとり
   イセが通う町の小さな高校の玄関
   遅刻ギリギリで駆けこむイセ
   息を整え、上履きを履こうとするイセ
   イセの頭を、草介が、丸めたノートで叩く
草介「隙ありっ!」
イセ「痛った……。草介!」
   草介を見上げて睨むイセ
   歯を見せてにっと笑う草介
   イセ、草介の頭を、ぱこんっと手でたたく
草介「痛って……」
   頭を両手で押さえる草介
イセ「お返し!」   
草介「いーちゃん。年に一度の神楽舞いのトリ任されて、緊張でガチガチんなってんじゃない?」
イセ「緊張? はは。草介。私がいつから神楽舞ってると思ってんの? 初舞台踏んだのは三歳の時なんですけどー?」
   草介、頭を押さえたまま、またにっと笑う
草介「いーちゃんのことは生まれた時から知ってるけど、やっぱ度胸あるよな。ばあちゃんにそっくり!」
   イセ、草介を見上げて睨む
イセ「あんたね……」
   始業のチャイム 
   慌てるイセと草介
草介「じゃ、後でね! 祭りで!」
   ひらりと手を振り、走って教室に向かう草介
  
♢学校が終わる。神楽舞の支度 
   夕暮れの穏やかな海
   神社の境内、支度小屋
   イセ、腰まである黒髪を襟足で結び直す
   セツ、イセに白と朱の巫女装束を着せる
   イセ、白粉を塗り、紅を引く 
イセ「平安時代の女の子も、毎年この格好をしてたんでしょう?」
セツ「そうさな」
   セツ、目を伏せて、帯をぎゅっと縛る
   セツ、黄金色の冠をイセにかぶせる
   イセ、神楽鈴を持つ
   舞装束の準備ができる

   朱の鳥居の内側から、海の映像 
   海風の音
   眼下に、漁師町の家々の屋根が見える
      
   神社の境内のあちこちに和紙の行燈が灯る
   ぼおっと橙色に輝く燈のアップ
   浴衣を纏った少女たちが駆けていく
   少女たちの声高な歓声
   笛や太鼓の祭り囃子、遠めに聞こえる

♢招かれざるものたちの舟
   イセ、神社の回廊から、海を見下ろす
   普段は漁港となっている入江
   ぼおっと橙色に光る小舟がいくつも見える
   波に揺られ、揺蕩う小舟
   イセ、驚いてはっと瞳を開く
イセ「はっ……」
   小舟から、人ではない何かが港に上陸する
   頭は魚で、体は小さな子供のようなもの
   毛むくじゃらで頭に角が三本生えたもの 
   五本の足を持ち、蜘蛛のように這いつくばるもの
イセ「人じゃない……」
イセ「ばあちゃんが言ってた、『招かれざるもの』って……」
宮司「出番だ! イセ!」
   はっとして、現実に引き戻されるイセ
   イセ、顔面蒼白
イセ「わかりました……」

♢イセの舞
   イセ、動揺を隠せない  
   イセの瞳が、左右に小刻みに震える
宮司「イセ、どうした? 顔が真っ青だ」
イセ「ちょっと、緊張しちゃって」 
   宮司、腰に手を当てて笑う
宮司「無理もないさ。初めて神楽舞のトリを任されたんだ」
宮司「大丈夫だよ、イセなら」  
   イセ、無理に笑う
語り(イセ)「夏祭りの最後の特別な神楽舞いは、天女が人間の世界に舞い降り、鈴の音を響かせて、大地を清めていくという物語」
語り(イセ)「今宵私は、初めて天女になる」

   イセ、舞台に上がる
   舞台の四方にかがり火が揺れる
   楽を奏でる神職たちの横顔
   勇壮な太鼓と、海に溶けるような龍笛の音
   笙、篳篥の雅楽の音
   イセ、神楽鈴を高く掲げる
   神楽鈴の音、しゃらんしゃらん
   イセ、首を傾げ、舞う
   かがり火に照らされるイセの顔、幽玄
   イセの舞を見て、祭りに酔いしれていく人々
少女1「イセ姉ちゃん、きれいね」
少女2「うん……ほんとうの天女様みたい」

♢招かれざるもの
   イセ、舞いながら客席に目を遣る
イセ「……はっ!」
   目を見開くイセ
   客席の前列に、異形の者がいる
   (異形の者のアップ)
   ずぶ濡れ
   ぼうぼうに伸びた髪が顔にかかる  
   表情は伺えない
   ぼろぼろの着物
   泥だらけの草履を履いた足
   イセの目が大きく開く
イセ(心の声)「何だろう。すごく懐かしい」
イセ(心の声)「ずっと、ずっと会いたかった」
   異形の者、イセをじっと見つめる
異形「会いに来たんだ、伊勢」
   舞台から、灯が消える

♢依り代 
   真っ暗な舞台の上  
   異形、舞台の上にゆっくりと上がる
異形「伊勢。会いたかった。ずいぶん時間がかかってしまったね」
   イセ、喉が苦しい
   イセの体を、伊勢が乗っ取る
伊勢「六十年ぶりですもの。なかなか依り代が見つからなくて」
   イセの体を乗っ取った伊勢が、妖艶に語る
伊勢「ずっと、お会いしとうございました」
   伊勢のつややかな唇のアップ
   伊勢の口に牙
   異形、伊勢に手を伸ばす
異形「今度こそ、私と一緒に来てくれるね?」
伊勢「ええ。もちろんですわ」
   伊勢、イセの口を使って話し、
   イセの目を使って涙を流す
   歓喜の涙
   イセ、海の底に沈んでいくイメージ
   ごぼごぼと口から泡を吐く
   セツばあちゃんの顔
セツの声「『招かれざるもの』には、絶対についていっちゃあいけないよ」

♢イセの帰還
イセ(心の声)「この手をとれば、きっと二度とこの世には戻って来られない」
イセ(心の声)「どうすれば、どうすればいいの?」 
   水底から湧き出る泡  
   イセ、海の底に沈んでいくイメージ
草介の声「イセ!」
草介の声「掴まれ! イセ!」
   沈みゆくイセの手首を、大きな手が掴む
イセ(心の声)「あったかい」
   イセの体が、海の底から引き上げられていく
   海面にイセの顔が出る
   効果音:ざぶんっ
   海水を吐く音、ゲホゲホ
草介「いーちゃん! しっかりしろ!」
   明るくなった舞台の上
   徐々にぼやけていた視界が明瞭になる
   草介、イセの頭を膝に乗せて、泣いている
草介「いーちゃん! よかった……!」
近所の女性1「舞の途中で、突然失神して、倒れたのよ」
近所の女性2「イセちゃん、大丈夫? 頭打ってない?」
   イセ、ゆっくりと頷く
近所の女性2「よかった……!」
近所の女性1「誰かの名前を呼んでいたのよ、うわごとみたいに」
   草介の泣き笑い顔のアップ、下から見上げた顔
   イセ、深呼吸をする
   夜の海の風景  
   海風の音 
   水平線に沈む月
イセ(語り)「後になって、ばあちゃんが教えてくれた」
イセ(語り)「この海で、何百年も前、大きな合戦があったこと」
イセ(語り)「その戦で失われた命を、この神社は、弔っている」
イセ(語り)「六十年前、ばあちゃんにも、私と同じことが起こった」
イセ(心の声)「あの時、海の中で草介が私を呼んでくれなかったら、私はどこに行ってしまったのだろう」

♢祭りのあと
    祭りの片付けをする大人たち
    大人たち、ハッピにハチマキ姿
    浴衣に着替えたイセ、同じく浴衣姿の草介を見つめる
イセ「草介!」
草介「ん? 何? いーちゃん」
イセ「あのさ、草介」
    イセ、草介に見つめられて、視線を逸らす
    イセ、両手を握りしめる
    決意したイセ、口を開く
イセ「守ってくれて、ありが……」
    海風が声をかき消す
    ごうっという強い風
    草介とイセの髪がなびく
草介「え? 何て?」
イセ「……もう、いい」
    イセ、俯いてどぎまぎする
    イセ、もう一度勇気を出す
    イセ、もう一度口を開く
    草介を見上げるイセ 
    草介の褐色の澄んだ瞳のアップ
イセ(心の声)「いつの間にか、こんなに背が伸びてる」
草介「大丈夫。いーちゃんは、俺が守るから」
    草介、にっと笑う
    イセの黒い瞳が震える
イセ「守ってくれる人が傍にいるって、幸せだね」
    草介を見つめるイセ
    草介、顔が真っ赤になる
    イセ、海に向かって手を合わせる。
    悲しい恋人たちの鎮魂を静かに祈るイセ
イセ「あの人たちの魂が、この海で結ばれますように」
    イセと草介の背後で、真っ暗な海に月が沈む

<完>

長い作品となりましたが、お読みいただき誠にありがとうございました。
本作を形にしてくださる絵師さん、大募集中です……!
















   


 
      

 


   




  











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