さいたさいたさくらがさいた【500文字のエッセイ】
尊敬する画家、三岸節子さんの「さいたさいたさくらがさいた」という作品を初めて見てから、ずっとその虜になっています。
三岸節子さんが描いたのは、むせび泣くような、桜の老木です。
今、私は旅をしています。
旅先は、花盛りです。
奇跡的に様々な偶然が重なり、桜の季節の真っ只中に旅をすることができました。
しばし、私が見た桜の風景を共有させてください。
桜は、太古の昔から、人間に、「綺麗だね」と言われ続けて来ました。人間に植樹され、人間のそばに寄り添ってきた生き物です。
桜は、空ではなく、下を向いて、人間の顔を向いて笑いかけるように咲きます。「綺麗だね」という人間の言葉を、理解しているかのようです。
満開を迎えた桜の色は、薄墨色がかった、なんとも形容し難い絶妙な色です。幽玄、とでも言うべきでしょうか。ほんの少し暗い影を感じさせる、花の終わりを予感させる恐ろしさを孕んだような色。
今年も咲いた桜を見ると、また一つ冬を乗り越えることができたのだと、感慨深い気持ちになります。ウグイスが鳴き、ツバメが軒に巣を作ってヒナを育てます。風には、桜の香りが含まれています。
春って、いいものですね。また一つ、春の景色を見ることができました。
春は、目覚めの季節です。
今季はどんな出来事があるのでしょう。
さいたさいた さくらがさいた
〈終〉
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