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クラウン(19)

 
○九条大路
荒廃した通りを四足の道化と犬丸が這う。
その傍を武装した武士達が通りすぎる。

犬丸「戦ん時以外はも気にも止めねえ。まさにオイラ達は物の怪の兵だな」
道化「神出鬼没。非人の軍です」
犬丸「ケダモノの生き様も板についちまったぜ」

と、雨が降り出す。
空き家の軒に入る二人。
 
○同・空き小屋
雨が降っている。
犬丸、干し芋をむしってかぶりつく。

犬丸「お前とは長い付き合いになったな。これからも頼まあ」
道化「これから」
犬丸「でたよオウム返し」
道化「私はこれから家を作りまする。いや、奪いまする」
犬丸「家を奪う?」
道化「犬殿には家はおありですか?」
犬丸「しみったれた村さ。夢も幻もねえ。どいつもこいつも腹ァ空かせて。そのくせぽこぽこ子供ばっか作って。育てられなくなったら、山に捨てたり川に流したりよ。全くよく生きてこられたもんだ」
道化「それでも帰る家がある。縁がある」
犬丸「縁なんざとうに枯れちまってるよ」
道化「私には家も縁もない。だから奪う。たとえ全てを犠牲にしても」

道化、犬丸を見据える。

道化「犬丸殿。この都から消えなされ」
犬丸「……」
道化「村に戻ってあなたの縁を守りなされ」
犬丸「お前との縁だってあらあ」

道化、うつむいてしばし黙る。

道化「やがて私は全てを犠牲にするでしょう。犬殿ですらも」
犬丸「まあ、そんときが来たら上手く逃げるさ」
道化「……」
犬丸「オイラは好きに生きてる。だからそっちも好きにしろ。恨まねえよ。お前だけは」

道化と犬丸、それきり何も喋らない。
板敷屋根を叩く雨。
蛙が鳴いている。
 
○九条大路(夜)
雨の中対峙している斯波兄弟と兵。
遠吠えと共に姿を現す牙旗の兵。

斯波弟「今宵はどちらじゃ」
斯波兄「西か東か?」

道化、太刀を抜いて西方を指す。

道化「物の怪が力。今宵は東に」

歓喜して雄叫びを上げる斯波兄。
歯噛みして震える斯波弟。
今夜もまたケダモノどもの戦いが始まる。

(つづく)

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